VUCA時代に自己変革企業になるための3つのポイント~効率化しても変革できない会社は社員の思いを聴くことから始めよう~

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組織の実態や本音の思いを語り合うまじめな雑談「オフサイトミーティング」をベースに組織づくりを支援する株式会社スコラ・コンサルト(本社:東京都品川区、代表取締役:簑原麻穂)は、2022年1月に会社員2577名に対しアンケート調査を実施しました。
第1弾では、コロナ禍の対応力に的を絞り、社内で実際にとられた行動、ツールの導入状況や効果、今後のミーティング方法を中心に分析結果を報告しました。そこで注目したのはコロナ禍のような環境変化にも適応できる自己変革能力。第2弾ではその能力に関連する社員行動や組織文化を探ります。
 

  • ポイント1:「効率化も変革も両方苦手な企業」の文化的傾向は、あいまいなコミュニケーション、強い序列意識、人間関係重視
  • ポイント2:「効率化も変革も両方得意な企業」が徹底していることは、安心して思いやアイデアを表明し、個人と組織が目指す姿や価値観を一致させ、仕組みを改良し続けること
  • ポイント3:「効率化は得意だが変革が苦手な企業」は、社員の思いを引き出せるかどうかが変革のカギを握る

 

  • 分析の背景と方法

組織の能力には、環境変化に適応して経営資源を再編成し自組織を変革する「ダイナミックケイパビリティ」と、経営資源を計画的・効率的に利用して利益を最大化する「オーディナリーケイパビリティ」(通常能力)があると言われる。このコンセプトを参考にした2つの設問「あなたの会社は環境変化に適応して自社を柔軟に変革することができる」と「あなたの会社は業務の効率を高めることが得意である」のクロス分析により、回答者を分類することから始めた(図①)。

図①:組織能力タイプの分類

(「わからない」と回答した116名を除く)

なお、「2項目とも『どちらともいえない』ケース」と「1項目が『どちらともいえない』、もう1項目が『(まったく)当てはまらない』ケース」である白色のセグメント(1047名)は、考察を簡潔にするためにこの後の分析結果には表示していない(「効率化得意企業」をやや下回る結果であった)。

この組織能力タイプと従業員規模の関係を見ておくと(図②)、「100~300人未満」企業では「両方得意企業」が少なめで「両方苦手企業」が多い、「2000~5000人未満」企業では「両方得意企業」が多い、という特徴がある。しかし、どの規模でも各組織能力タイプが一定割合存在することがわかる。

図②:組織能力タイプの分布(従業員規模別)

そこで、ここから先は、規模とは関係なく企業が備えている組織能力タイプごとに分析することで、それぞれの特徴を明らかにしていく。まず、組織能力4タイプをイメージしやすいように、回答者が所属する企業の業界内ポジションを見た(図③)。

図③:アイデアと実現力に関する自社の業界内ポジション

(「わからない」と回答した248名を除く)

「両方得意企業」では「他社よりも先に新しいことを考えて実現させることが多い」と「先行している他社のアイデアややり方を分析して後に続くことが多い」が合計73.2%を占める。業界内の上位集団を形成する企業だ。
「変革得意企業」では回答が分かれるが、最も多いのは「他社を分析して後に続く」(34.9%)。変革が得意と自認している通り、「他社より先に実現」も28.3%を占める。
「効率化得意企業」では、他社に先行する割合は少なくなり、「他社を分析して後に続く」(36.3%)と「他社にやや遅れをとることが多い」(29.6%)という意見が多い。
「両方苦手企業」は「他社に遅れをとることが多い」(「やや」+「かなり」)が約8割を占める(79.9%)。

これが組織能力4タイプの業界内ポジションイメージである。イノベーティブな企業であるか、フォロワー企業であるかがイメージできたかもしれない。次に、テーマを変えて社内不祥事に対する問題提起のしやすさを組織能力4タイプごとに分析した(図④)。先の設問は前向きなプラスの変化に関するものだが、こちらはマイナス状態をゼロに回復する自浄作用に関する設問である。

図④:不正に対する問題提起のしやすさ

(「わからない」と回答した201名を除く)

「両方得意企業」では「受け止めてもらえると思うので問題提起できる」が43.3%あり、職場の信頼感が高いように見える。「なんとか問題提起できる」(35.8%)と合わせると問題提起がされそうな割合は8割近くに達する(79.1%)。
それと比較すると、「変革得意企業」と「効率化得意企業」では、「受けて止めてもらえる」は少なくなり、「なんとか問題提起できる」が最も多い。
「両方苦手企業」では、「問題提起する意味を感じられない」「立場が危うくなる気がするので問題提起はしない」「通報することで対応」が多くなり、合わせて3分の2を占める(66%)。自力での解決が難しそうな会社である。
 

  • ポイント1.「効率化も変革も両方苦手な企業」の文化的傾向は、あいまいなコミュニケーション、強い序列意識、人間関係重視。

このように、イノベーションやコンプライアンスとも関連する組織能力だが、4つのタイプごとに組織文化の傾向を詳しく見てみよう。書籍「異文化理解力」の「カルチャーマップ」を参考に調査した結果が図⑤である。

図⑤:組織文化の傾向(組織能力タイプ別)
(中間に「どちらともいえない」を設け、A/Bどちらの傾向に近いかを回答してもらった5段階尺度の平均)

「両方得意企業」の文化的傾向としてまず挙げられるのは、コミュニケーションがローコンテクストである点だ。事実情報をロジカルに伝えるスタイルで、話す相手に誤解が生じる可能性は少ない(〈1.コミュニケーション〉より。以下、項目番号で示す)。
上司と部下は平等な関係で、部下は「上司のその上の上司」にも意見を言いやすい〈2〉。組織内の階層意識は緩やかといえる。なお、グループ内の意思決定は合意を目指す傾向がやや強い〈3〉。
人と人の属人的関係よりは仕事の質でもって信頼関係を築く傾向がある〈4〉。仕事の定義のあり方は、職務内容やスキルが明確に定義される「ジョブ型」に近いイメージである〈6〉。

対極にあるのが「両方苦手企業」だ。人の気持ちを察することができるのは利点でもあるが、配慮しすぎてあいまいなコミュニケーションになっているかもしれない〈1〉。
特徴的なのは上司の意見が強く、序列に従って仕事をする点だ〈2〉。各階層のリーダーが責任をもって意思決定するスタイル〈3〉と組み合わさることで良い効果を発揮している可能性もある。
信頼関係の築き方は、仕事の質で判断するというよりは、ともに時間を過ごすなかでじっくり人間関係を築くスタイル〈4〉。仕事の仕方は、職務定義が明確な専門家集団というよりは、幅広い業務を行ない、同僚の担当業務にも協力するといった柔軟な傾向が見られる〈6〉。

アンケートでは特徴を際立たせるためにあえて二極化させて質問したが、実務で必要なことは状況に応じて使い分けることであろう。自組織のクセを把握した上で、対極の要素を意識して取り入れてみるとよいかもしれない。

参考記事:リモートワーク時代の「新しい『企業文化』様式」
https://note.com/teamwork/n/n951f1fcc6567
日本企業はどこにいる? ~ ビジネス文化の国際比較
https://www.scholar.co.jp/column/id=3011?id=385
強い序列意識、ハイコンテクストなコミュニケーション、合意志向という特徴をもつ日本企業が変化するためのヒントを提案している。
 

  •  ポイント2.「効率化も変革も両方得意な企業」が徹底していることは、安心して思いやアイデアを表明し、個人と組織が目指す姿や価値観を一致させ、仕組みを改良し続けること

どうすれば「両方得意企業」のように効率化力と変革力を備えた組織になれるのか。「これさえやればいい」と簡単に言えるものではないが、ここでは他の組織能力タイプとの調査結果の差からヒントを探ることにする。

 調査項目は次のフレームのように構成されている(図⑥)。チームワーク、ビジョン、戦略、仕組みを俯瞰し、そこに影響を与えうるトップやミドルのマネジメント機能も測定している。そういった組織の状態が総合結果としてのエンゲージメントや組織の自己変革能力につながるという設計である。

 参考記事:クロスオーバー型課題設定のススメ(後編)~実行の質を上げる課題を見つける
https://www.scholar.co.jp/column/id=2984?id=338
本調査を理解する上で参考になる、組織を統合的な経営システムとしてとらえるフレーム「8D-コンパス」を紹介している。

図⑥:調査の全体像

まず、高い自己変革能力のカギを握る社員行動や組織の状態を明らかにするために、「両方得意企業」と「両方苦手企業」の違いに注目する。「非常に当てはまる」から「まったく当てはまらない」までの5段階尺度で尋ねた52問について、組織能力4タイプごとの平均点グラフ(5点満点)を本コラムの最後に掲載した。

 次の表はそこから抜粋した「両方得意企業」と「両方苦手企業」の差が大きかった項目トップ15である(スコア差としては1.6以上)。スコア差が大きい項目は、両タイプを分ける要因であり、その要因を解消することが自己変革能力の向上につながるかもしれないということだ。

表①:「両方得意企業」と「両方苦手企業」で差が大きい項目トップ15(赤色が上位3項目)

「両方得意企業」と「両方苦手企業」の違いは、安心して自分の思いやアイデアを表明し行動に移せること(項目(20)-(22))、目指す姿や価値観を共有し共感できること((19)、「ビジョン」、(47))、そのうえで「仕組み」を改良し続けられることだ。それらに一貫性があるので「戦略的に経営されている」(29)と評価されているのではないだろうか。そして、これらの総合結果として、自社を「勤め先として推奨したい」(46)のスコア差が最も開いたことにつながっていると考えられる。

このように、それぞれの項目はつながっているので、1つの領域に焦点を当てるのではなく、いくつかの領域を押さえて取り組むことが組織能力の向上には必要であろう。
 

  •  ポイント3.「効率化は得意だが変革が苦手な企業」は、社員の思いを引き出せるかどうかが変革のカギを握る

後掲のグラフからは「変革得意企業」も比較的活発な様子がうかがえる。しかし、効率化を図る能力を基盤として持たないまま真の変革ができているのかは疑わしい。逆に、「効率化は得意だが、それとは特性が異なりそうな『変革』は苦手」というパターンはあるように思える。

そこで、ここでは的を絞って、「効率化得意企業」が変革もできる「両方得意企業」になるためのヒントを探ることにする。2つのタイプのスコア差が大きい項目を抽出したのが表②だ(15位が同じ値であったため16項目となった。スコア差としては0.75以上)。

表②:「両方得意企業」と「効率化得意企業」の差が大きい項目トップ16(赤色が上位3項目)

前述の「両方苦手企業」の表と同様の項目が多く抽出された。「両方得意企業」を目指す上で重視なことは共通であるといえる。一方、「効率化得意企業」の表のみに登場した項目や上位に挙がった項目としては、項目(19)(20)(25)が挙げられる。つまり、メンバーの思いや感情も引き出しながら(20)、目指す姿を共有し(19)、社員が共感できる、組織の強みに基づいたビジョンを描けるかどうか (25)。このことが「効率化得意企業」が「両方得意企業」に飛躍するためのポイントになりそうだ。

 

  • 調査結果を受けて(スコラ・コンサルト 滝口健史)

環境変化に適応できる企業の条件を明らかにするために、角度を変えながらアンケートデータを分析しました。

 

安心して話し合えることや、ビジョン・経営の価値観の共有が必要という示唆は、心理的安全性やパーパス経営が求められる今の時代では目新しいものではありません(表①)。一方、今回の分析では、「効率化だけが得意な企業」が「変革もできる企業」に飛躍するカギとして、「思い」を発露することや「思いにもとづくビジョン」の重要性が数値として抽出されました。これはとても興味深い結果でした(表②)。

書籍「異文化理解力」によると、平等な関係かつ合意志向の文化をもつ国として北欧の国が挙げられているのですが、今回分析した「両方得意企業」の文化的傾向(図⑤)からは、そのことを思い出しました。ただし、職務定義の明確さは、組織の柔軟性を活かした変革の阻害要因になることもありえます。調査目的であるダイナミックケイパビリティ論とはかみ合わない部分ですので、職務定義と組織の柔軟性の関係については、引き続き研究・調査が必要だと私は考えています。

一方、日本企業の一般的傾向としては、「効率化得意企業」や「両方苦手企業」の結果がそうであるように、十分に意見をぶつけあうコミュニケーションスタイルや関係性が備わっていないことが多いのではないでしょうか。上下関係の序列や仲間うちの空気を気にした「内向き」の結論に向かって同調しやすいのです。「外向き」(市場や社会に対する新しい価値)の動きに向かって協調してもよさそうなものですが、そうならない背景には、各個人が自分なりのビジョンをもっていないという自立心や自尊心といった要素が影響しているのかもしれません。各自の自由な考えや動きを促進する方向ではなく、一人ひとりが我慢し、他の人にも我慢を強いる方向に向かってしまうという構図です。

そうだとしても、個人の自立度や国レベルの文化、組織の大きな構造のせいにしていてはなかなか解決しません。ならば、せめて序列主義になってしまうクセが出にくくなるように、「平等な関係で一人ひとりの思いを出してみる」という、いつもとは違うモードの話し合い方を身近なところから仕掛けてみるのも一つの手かもしれません。自分の思いを確認することで主体性を喚起するのです。

たとえばそのような試みをしながら自分たちで変われる組織が世の中に増え、社内の不条理が自浄作用で解消されたり、イノベーティブな新しい価値が社会に生まれることを期待していますし、私も関わっていきたいと思います。

 

  • 調査結果詳細

部署の中のチームワーク

会社全体のチームワーク

ビジョン・戦略・強み

 

 

直属の上司・経営層に対する評価 

エンゲージメント 

 

  • 調査概要

【会社概要】
社 名 :株式会社スコラ・コンサルト
本 社 :東京都品川区東五反田5-25-19 東京デザインセンター6F
代 表 者   :代表取締役 簑原 麻穂
設 立 :1986年1月
資 本 金   :4,000万円
事業内容 :プロセスデザインによる企業風土改革コンサルティング
人 員 数   :プロセスデザイナー35名、スタッフ10名(2021年6月現在)
決 算 期   :12月
事 業 所   :大阪ブランチ
大阪府大阪市西区江戸堀1-10-2肥後橋ニッタイビル9階
TEL:06-6450-8708
ホームページ :https://www.scholar.co.jp/

​※当社名につきましては、「スコラ・コンサルタント」ではなく「スコラ・コンサルト」とご表記くださいますよう、お願いします。

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