「男女賃金格差の原因は、女性の得意な能力が評価されないから」IGS、大手企業の管理職手前の人材能力データと給料の関係を分析

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Institution for a Global Society 株式会社(本社 東京都渋谷区、代表取締役社長 福原 正大、以下 IGS)は、「男女賃金格差の要因が、正当な能力評価に基づいたものなのか」を、能力(以下、コンピテンシー※1)などの人材データを用いて分析する、男女賃金格差 評価バイアス分析「GROW Analysis for DEI」を8月より提供開始しました。

日本の男女賃金格差の背景には、一般職と総合職の歴史、働き方等、女性管理職が増えにくい問題が山積し、改善は難航しています。大手企業A社の管理職手前層(勤続年数20年以上)の賃金格差の原因を「コンピテンシー」という物差しで分析した結果、女性の得意な能力が評価されず、特定の能力偏重型の評価や登用の可能性が見えてきました。 
※1 コンピテンシー:社会で活躍する上で重要な行動特性(思考パターンや行動パターン)

【男女賃金格差 評価バイアス分析 GROW Analysis for DEIとは】
■開発背景
2022年7月、政府は大企業などを対象に男女間賃金格差の開示を義務付けました。3月決算となる多くの日本企業の場合、2023年6月までに開示することになります。

各企業は自社の実態把握・公表への準備を進める必要がありますが、表面的な開示にとどまらず、本質的な課題・改善策も併せた開示が求められます。これに伴いIGSでは、DEI※2に向けた男女賃金格差 評価バイアス分析「GROW Analysis for DEI」を8月より提供開始いたしました。
※2 DEI:ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)

■サービス概要
男女賃金格差を引き起こしている要因が、正当な能力評価に基づくものなのかどうかを、コンピテンシーなどの人材データを用いて分析します。更に、男女別で評価の差があった場合は、その原因に対する考察を含むコンサルティングを行います。

コンピテンシーは、IGSの360度評価ツール「GROW360」を用いることで、忖度や評価の甘辛傾向など「評価に関わるバイアス」をAIで補正し、公正かつ客観的に数値化します。

分析により、評価者の評価行動のバイアス、性別が仕事における有能さの判断・思い込みに繋がっていないかなどのバイアスを可視化し、課題を発見することができます。更に、評価者本人にフィードバックすることで、よりフェアな評価行動へと是正することができます。

GROW Analysis for DEI 概要図GROW Analysis for DEI 概要図

【大手企業A社 調査概要】
・対象:大手A社 管理職手前層(プレマネジメント等級)のうち、勤続年数20年以上の正社員(男性176名、女性60名)
・GROW360で可視化した対象者のコンピテンシーのスコア、及び年齢・性別・勤続年数を元に、基本給に影響を与える要素を分析

【大手企業A社 分析サマリー】

  • 男性は女性より基本給が高い。年齢・性別・勤続年数・コンピテンシーのスコアを元に、基本給に影響を与える要素を分析した結果、性別の影響が大きいとわかった
  • 一方、男性と女性のコンピテンシーをGROW360で取得・比較すると、女性は男性よりも、コンピテンシーのスコア平均が高かった。にもかかわらず、男性の方が賃金が高い(=評価される)原因としては、女性の方が得意なコンピテンシーについて、十分に評価されていない可能性がある
  • 特に、「イノベーションに関わるコンピテンシー※3」は、女性の方が男性よりも全てスコアが高かった
    • 外交性、共感・傾聴力、創造性、個人的実行力、地球市民力、課題設定力
  • 以上から、イノベーションを求める企業が、特定の能力偏重型の評価や登用をしていないか、改めて確認する必要があると言える。A社の場合、女性を管理職に昇格させることで、男女賃金格差が公正に縮まるだけでなく、企業のイノベーション力も全体的に高まる可能性がある

※3 イノベーションに関わるコンピテンシー:ハーバード・ビジネス・スクール クリステンセン教授ら著書「イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル」を元に、IGSが再定義

【大手企業A社 分析結果詳細】
■基本給に影響を与える要素

年齢・性別・勤続年数、及びコンピテンシーのスコアを元に、基本給に影響を与える要素を分析した。影響度が高い順に年齢、勤続年数、性別であった。日本企業の年功的な昇給の仕組みを反映したものと言える。更に、性別も賃金格差に影響していると言える。
 

グラフ:基本給に影響を与える要素グラフ:基本給に影響を与える要素

■男女別、コンピテンシーのスコア比較
男性と女性のコンピテンシー25個を、GROW360で取得・比較した。女性の方が男性よりも、コンピテンシーのスコア平均が、統計的に有意に高かった。(女性のスコア-男性のスコア:+2.6)
また、男性の方が高いコンピテンシーは、感情コントロール力(男性のスコア:65.84、女性のスコア-男性のスコア:-2.78)、論理的思考力(64.62、-0.96)だった。
一方、女性の方が高いコンピテンシーは、外向性(女性のスコア:64.33、女性のスコア-男性のスコア:-+6.03)、共感・傾聴力(69.44、+5.87)だった。
以上から、男性と女性で得意なコンピテンシーが異なることがわかる。

・コンピテンシーのスコア平均:女性:62.57、男性:59.97

グラフ:男女別 コンピテンシー 総合平均グラフ:男女別 コンピテンシー 総合平均

■女性が得意なコンピテンシーは、イノベーション力
女性が得意なコンピテンシーに関する特徴的な点として、ハーバードビジネススクール クリステンセン教授らによる定義をベースに算出した「イノベーションスコア※4」が男性よりも統計的に有意に高かった。(女性のスコア-男性のスコア:+4.98)
また、「イノベーションに関わるコンピテンシー」全てにおいて、女性の方が男性よりもスコアが高く、特に、外交性、共感・傾聴力などの他者と関わる力や、創造性や個人的実行力についてスコア差が大きかった。
※4 クリステンセン教授らが定義した「イノベーターの5つのスキル」に対応するコンピテンシー、およびSDGs視点(地球市民力)の6項目の掛け合わせにより算出するスコア

・イノベーションスコア平均:女性:39.63、男性:34.65

グラフ:男女別 イノベーションスコア平均グラフ:男女別 イノベーションスコア平均

・イノベーションに関わるコンピテンシー、女性のスコア平均、男女のスコア差、定義
※男女のスコア差が大きい順に記載

イノベーションに関わるコンピテンシー 女性のスコア平均 女性のスコア-男性のスコア コンピテンシーの内容
外交性 64.33 +6.03 多様な人的ネットワークを利用し、解決策を検証する能力
共感・傾聴力 69.44 +5.87 顧客を観察し、深く共感する能力
創造性 56.99 +4.91 様々な知見、経験を組み合わせ、新たな次元、新たなビジネスモデルへと結実させていく能力
個人的実行力 67.94 +4.01 仮説を検証し、改良を重ねる能力
地球市民力 54.62 +2.17 グローバルかつ中長期的な広い視野を持ち行動する能力
課題設定力 67.01 +1.83 顧客の課題を抜き出す能力
イノベーションスコア 39.63 +4.98

 

【その他の分析結果詳細】

【男女賃金格差の問題を、コンピテンシーという物差しで分析する】
上記の分析結果から、女性はコンピテンシーが男性よりも高いにもかかわらず、賃金格差があることがわかります。その要因の一つとして、性別によって得意なコンピテンシーが異なり、女性の方が得意な「イノベーションに関わるコンピテンシー」が十分に評価されていない可能性があると言えます。

このように、給与とコンピテンシーの関係を分析することで、特定の能力偏重型の評価や登用をしていないか、改めて確認する必要性が示唆されました。今回分析した管理職手前層の女性は、能力が男性と比較しても全体的に十分高いため、「女性だから」という理由ではなく、能力面で管理職の候補になり得ます。そして女性管理職比率が高まれば、長年日本企業の課題とされる、男女賃金格差の縮小や、企業のイノベーション力も全体的に高まる可能性があると言えます。

男女賃金格差の開示を目的とするのではなく、開示を契機に人材戦略をアップデートするためには、まず「人的資本」の可視化が欠かせません。可視化にあたっては、取得する人材データの質が重要であり、信頼性の高さと、比較分析するために汎用性の高い指標であることが求められます。

IGSでは、特にこの2点にこだわった人材能力データの取得のため、評価者の甘辛・忖度などの「評価に関わるバイアス」をAIで補正する360度評価ツール「GROW360」を提供し、データアナリストによる高度な分析を行ってまいりました。そしてこの度、男女賃金格差の分析に特化した「GROW Analysis for DEI」を提供することとなりました。今後も人的資本の可視化・分析を通して、企業価値を高める人的資本経営の支援を行ってまいります。

【Appendix】
■GROW360とは

組織で成功している人材の思考・行動から導き出される共通の「行動特性(コンピテンシー)」と、潜在的な性格「気質」を可視化するAI評価ツールです。これまで約74万人※5の学生・社会人が受検しています。
※5 2022年6月末時点

評価者の甘辛傾向や忖度等、上司や採用面接官等、評価者固有の「評価の偏り(バイアス)」をAIが分析・補正することによって、より正確な評価結果が得られます(特許技術)。更に、受検者が意図的に「受けがいい」と思われる選択肢を選べないように工夫されている設問が特徴です。

従来の人物評価テストでは見落としてしまっていた、ポテンシャルある人材を発掘できるツールとして、大手企業を中心に新卒採用や中途採用で活用されているほか、人材の配置、人材育成の場面での活用が増えています。

■Institution for a Global Society(IGS)株式会社 会社概要

「分断なき持続可能な社会を実現するための手段を提供する」を企業パーパスに掲げるHRTech/EdTech企業。2021年12月29日に東証マザーズ市場(現・グロース市場)に上場。

所在地:〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南1-11-2 4F
設立:2010年5月
資本金:388百万円
事業内容:AIを活用した人材評価プラットフォームを企業や学校に提供

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