『日本橋サステナブルサミット2023』開催レポート

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一般社団法人日本橋室町エリアマネジメントとサステナブルブランド・ジャパンは、『第3回 日本橋サステナブルサミット2023』を東京・日本橋で開催した。対話型AIに関心が高まる2023年度のテーマは、AI時代を生き抜く「人づくり・組織づくり」。経営者から、人事・CSR担当者、そして若手ビジネスパーソンにいたるまで、広く関心を集める「Myパーパス」「ウェルビーイング経営」「次世代教育」という3つのテーマについて議論を展開した。プログラムでは、議論を聞くだけにとどまらず、参加者がともに学び、交流できる場も充実。新たな出会いや共創を後押しする場となった。

2021年から始まった『日本橋サステナブルサミット』は、今年で3回目を迎える。当初から、日本橋企業各社のSDGsの取り組みの発信と、コミュニティを創出する出会いの場を提供し続けてきた。

もともと日本橋は、江戸時代より全国から人が集まり、新たなビジネスが生み出されてきた場所だ。地域同士の交流や、異業種間での共創を促す「日本のハブ」の役割を担ってきた歴史がある。その日本橋の地、コレド室町テラス内の室町三井ホール&カンファレンスを会場に、今年も思いを同じくする者同士が集まり、熱のこもったトークやセッションが繰り広げられた。

開催にあたり、主催者である日本橋室町エリアマネジメント黒田誠事務局長と、サステナブルブランド・ジャパン鈴木紳介ディレクターが登壇。「時代のイノベーション、知恵や工夫は、人同士の交流、会話、体験を通じて、人の熱意や仲間によって生み出されてきた。地域内外の共創例を共有し、今年のテーマである『人づくり、組織づくり』にアプローチしていきたい」(黒田氏)、「『Myパーパス』『ウェルビーイング経営』『次世代教育』の3つのテーマを、地域の方と共に考えることで、世の中全体のサステナビリティ、リジェネレーションに向けて一歩目を進めることができたら」(鈴木氏)と挨拶した。

  • #1 Myパーパス(若手ビジネスパーソン向け)

■トーク:「日本橋の社長:にんべん髙津氏」

 -株式会社にんべん 代表取締役社長 髙津伊兵衛氏

■ワークショップ:「Myパーパスづくり」

 -株式会社THINK AND DIALOGUE 代表取締役 富岡洋平氏

午前の部では、最初のテーマである「Myパーパス」(※パーパス=社会的な存在意義)についてのセッションが行われた。パーパス経営に取り組む企業が増える今、パーパスが浸透・定着していくために、社員一人ひとりが「Myパーパス」を発見することを試みる動きがある。

そこで、企業の組織変革をサポートしてきたTHINK AND DIALOGUE の富岡氏がファシリテーター を務め、「Myパーパス」を見つけるワークショップを開催。参加した日本橋の若手ワーカーたちに向けて、「WANT:もっともあなたの心が動く瞬間は?」、「MUST:あなたが解決すべき社会の課題は?」、「CAN:運命があなたに与えた能力は?」の3つの問いを投げかけ、会場中に対話の輪が広がった。

「企業課題はひとりでは解決できない。仲間たちと力を合わせ、「つながる」ことで解決できる。つながりを持つための一つの答えがMyパーパスにあるのではないか」と富岡氏。働く意味を再確認しつつ、自分自身の思いを深掘りする時間を持てたことで、参加者からは「新しい気付きを得た」などの声が聞かれた。

さらに、日本橋の老舗企業「にんべん」の社長に、自身の「Myパーパス」や、大切にしている人づくりの考え方について伺うトークも実施。1699年創業という老舗でありながら、「日本橋だし場」等の新たなチャレンジを続け、まさにサステナビリティ経営のお手本と言える「にんべん」の人づくり、組織づくりの理念について聞いた。髙津氏は、現場で多くの経験を積み、さまざまなつながりを持てたことで、知見を高めることができたという。「現代は多様化していて難しい面もあるが、逆にいつでもだれでもがつながることができる世の中でもある。それを活用すれば、より知見を高め、成果も得られる。パーパスを持ってつながった先に、答えがあるのではないか」と若者にエールを送った。

  • 基調講演:人を育てるコミュニケーション

登壇者:Deportare Partners代表 為末大氏

続く午後の部は、トップアスリートとして活躍した為末大氏による基調講演からスタート。スポーツから得た知見を生かし、社会の変革を目指す企業を立ち上げた為末氏は、「未来が予測できない今のような状況下では、計画的にやれることだけではなく、日常的に余白を作り、遊びを散りばめておくことが大事」と話した。そうした意図しないところからイノベーションが起こり、新しい形へと変化を遂げることで、サステナビリティが成り立つのだという。

そして、遊びを促すにはハードルを下げて挑戦すること、成功確率を上げるためには、今回の試みで何を学習したのか、みんなでシェアするというコミュニケーションが大事だと述べた。多くのスポーツの現場を見てきたからこその説得力のある話に、参加者も興味深く聞き入っていた。

  • #2 ウェルビーイング経営(人事・人材育成向け)

パネルディスカッション “できるところから実施する”ためのウェルビーイング経営の出発点

 -カゴメ株式会社 健康事業部課長 湯地高廣氏

 -エール株式会社 代表取締役 櫻井将氏

 -三井不動産株式会社 法人営業統括一部 統括 上柿愛夕氏

 -ファシリテーター :新生インパクト投資株式会社 代表取締役 高塚清佳氏

次に、2つめのテーマである「ウェルビーイング経営」についてのセッションが行われた。心身ともに健康で、熱心かつ協力的な社員が増えれば、 離職防止・生産性向上が進み、企業価値が高まる、というのが「ウェルビーイング経営」の考え方だ。社会でも注目を集め、大企業中心に取り組みが進んでいるものの、現場では実践知が不足しているのが実情と言える。そこで、働く人の成長と幸せをサポートする多様なスペシャリストがトークセッションを展開。ウェルビーイング経営の糸口を探った。

モデレーターを務めたのは、インパクト投資のスペシャリスト高塚氏。「ウェルビーイング経営には経営レベル、施策レベル、それに対する評価、それを回し続けるポジティブ・ループ、という4つの切り口がある」として、各企業の施策や意識に切り込んだ。

顧客の健康増進に貢献する商品・サービスを展開するカゴメの湯地氏は、「従業員一人ひとりが心身ともに健康であることが、事業内容に説得力をもたせ、会社のパフォーマンス向上にもつながる」ことから、積極的に社内での健康の管理・増進に取り組んでいるという。推進する上では「コミュニケーションが重要」であり、日々の生活に取り込めること、また誰かに話したくなる、共有したいという欲を刺激することが大事だと話した。

三井不動産では、社員の健康に関する課題解決をサポートする健康経営支援サービス「&well」を提供している。自社の健康経営施策としてだけでなく、日本橋の企業のワーカーなど社外の健康経営施策としても活用され、企業を超えたコミュニティ組成、街のウェルビーイング向上につながる取り組みも拡大中だ。担当の上柿氏は、「『一緒だから、たのしい! たのしいから、続けられる!』がコンセプト。社会的に良い状態とは、人とのつながりが大きい」と語った。

両社とも、経営から降りてくる課題に対し、身体の健康をフックにしながら、コミュニケーションを重要視していることに共通項がある、と高塚氏。これに対し、さまざまな企業に入り込み、社外人材によるオンライン1on1サービスなどを行うエールの櫻井氏は、別の視点を提供。「自分の話をすることがウェルビーイングにつながる」とし、話をする際には上司や身近な人だけでなく、利害関係のない、斜めの関係・横の関係のコミュニケーションを多様に作るのが望ましい、と述べた。

さらにディスカッションでは、「褒める、肯定するなどのポジティブアプローチが重要」、「自社の枠を超えたコレクティブな取り組みが有効」といった意見や、メンタル的な健康についての施策についてなど、積極的な議論が交わされた。

  • #3 企業発の次世代教育(CSR向け)

最後に、3つめのテーマである「企業発の次世代教育」のセッションが行われた。次世代教育は参加社員のエンゲージメント向上が確認されるなど、インナーブランディング活動としても期待でき、さらにオフィスではなく街で展開することで、地域共生にも寄与する。そこで、教育スタートアップの経営者や、先行事例を持つ企業が集結し、CSR・インナーブランディングとしての次世代教育の取り組み方を紹介した。

トーク:企業が次世代教育に本気で取り組むべき理由とは

 -ライフイズテック株式会社 取締役 CEAIO(最高教育AI責任者)讃井康智氏

 -前さいたま市教育長 うらわ美術館館長 細田眞由美氏

はじめに、次世代人材の育成の重要性、学校・家庭における教育の問題点、そして、企業発の次世代教育の可能性についてのトークが行われた。

高校教師から校長、さいたま市教育長など現場と行政の第一線で教育に携わってきた細田氏は、若者の意識調査を見て、社会のさまざまな課題が自分ゴトになっていない事実を知り、衝撃を受けたという。そこで地元企業の協力を得て、中学生たちが実際にビジネス提案をおこなう次世代教育プログラムを立ち上げた。学校が自前主義を捨てて多くのプロフェッショナルと交わることで、子供たちは探究的な学びを推進し、企業は自社に対する深いリサーチをする機会を持ち、教員もアップデートできるという「三方良し」の成果を得られたという。

これを受けて、中高生向けにITでのものづくりを学ぶ教育事業を提供するライフイズテックの讃井氏は、「地域の教育力をいかに最大化するか、さまざまなプレーヤーのアセット(資産)をどう使っていくかが大事」と発言。「持続性を持つためには発展性が大事。発展性をどう作るかは、未来志向の教育」(讃井氏)、「いま高校生以下のこどもの半数以上が22世紀を生きる。教育とは未来」(細田氏)という両者の話からは、次世代教育の持つ大きなポテンシャルが感じられた。

■パネルディスカッション:子供・社員・まちの三方良しを実現した日本橋の事例

 -三井住友信託銀行株式会社 日本橋営業部 財務相談室 兼

  プライベートバンキング室 調査役 平岡 祥一 氏

 -中外製薬株式会社 総務部 社会貢献グループ 辰巳 皓哉 氏

 -株式会社コネル プロデューサー/エディター/ライター 丑田 美奈子 氏

 -ライフイズテック株式会社 取締役 CEAIO(最高教育AI責任者) 讃井 康智 氏

 -前さいたま市教育長 うらわ美術館館長 細田 眞由美 氏

 -ファシリテーター:一般社団法人日本橋室町エリアマネジメント

           三井不動産株式会社 日本橋街づくり推進部 主任 小芝俊輔

次に、街一体型をテーマに据えた次世代教育プログラムの事例として、8月に行われた「日本橋キッズサマーキャンプ2023」の参画企業によるパネルディスカッションが行われた。このイベントは、「〜日本橋がこどもたちの未来にできること〜、地域貢献、次世代教育」をキーワードに、地元・日本橋の企業13社が参画して開催された。そのうち3社の担当者が登壇し、普段の取り組みや課題を共有しつつ、街ぐるみで次世代教育プログラムを展開することのポテンシャルを語り合った。

三井住友信託銀行は、次世代教育の取り組みとして、普段から中高生向け金融リテラシー教育を行っている。キッズサマーキャンプでは、小学生に向けて金融教育や銀行の内部見学などを実施した。担当の平岡氏は「実際にやってみると、企業側もいろいろな気付きがあり、双方向の好循環があった」と成果を語った。

中外製薬は、次世代育成を社会貢献活動として掲げ、小学生対象の実験教室などによる科学に対する興味・関心の醸成、学生向けキャリア教育の推進といったさまざまな活動を行っている。キッズサマーキャンプでは、聴覚障害者の生活を知り、手話を学ぶワークショップを開催した。担当の辰巳氏は、「想定外の成果を得るという意味で、新たに気づけることがあった」と、予想を超えた可能性の広がりについて言及した。

デザイン・テクノロジー・アートの分野で活動するコネルは、子供たちとともに、ワークショップや商品開発などクリエイティブな試みを行う企業。キッズサマーキャンプでは、開発商品を使って、「お菓子を使ったボードゲームクリエーターになろう」というワークショップを開催した。担当の丑田氏は、「個社でやるよりもたくさんの人に集まっていただけた。シンプルにお祭り感があり、温かい街のつながりを感じた」と語った。

セッションでは、このイベントが「三方良し」であることが共有された。子供にとっては多様な人とのつながりが持て、企業にとっては普段は出会えない他社とのつながりや街の中での企業の存在意義の確認ができ、街の目線では日本橋のアセットの魅力を再認識できるなど、それぞれにとって大きなメリットがあることが再認識された。

■クロージングセッション

 -新生インパクト投資株式会社 代表取締役 高塚清佳氏

 -ライフイズテック株式会社 取締役 CEAIO(最高教育AI責任者) 讃井康智氏

 -一般社団法人 日本橋室町エリアマネジメント 事務局長 

  三井不動産ビルマネジメント株式会社 オフィス事業推進本部 日本橋エリアマネジメントグループ

  グループ長 黒田 誠

 -ファシリテーター:Sustainable Brands Japan, Country Director

  株式会社博展 執行役員 CSuO 鈴木 紳介

最後に、モデレーターと主催者がサミットを振り返りながら学びを集約するまとめのセッションが行われた。

「ウェルビーイング経営」のセッションを担当した高塚氏は、「経営課題という部分では共通項が多いが、それに対する施策は非常に多様。全体設計と個別の施策のバランスが大事」と感じたという。そして「難しいテーマだったが、学びが多く楽しいセッションだった」と締めくくった。

「次世代教育」のセッションを担当した讃井氏は、「学校が求められているものが大幅に増えているいまの時代は、教育力の総量を上げていくことが必要。学校だけでは限界があるが、企業といっしょにやることでギャップを埋められる」と述べ、その現場では「教育」を超えた「オープンイノベーション」が起きていると指摘。さらに、「日本橋キッズサマーキャンプ2023」の事例に触れ、「子供だけでなく企業にとってもメリットのある試み。複数の社が入って地域の取り組みになることが、地域の教育の総量を高めることにつながる」とその将来性に期待を寄せた。

最後に、黒田氏が「1社でできないことは、街でみんなと取り組みませんか?」と投げかけた。すでに日本橋のあちこちで、さまざまな可能性をはらんだ種が蒔かれている。今回のサステナブルサミットを通して、多くの人が日本橋という街の持つ大きなポテンシャルに期待感を強め、新たな「人づくり・街づくり」に向けてアクションを起こすヒントやきっかけを得られたのではないだろうか。今後の日本橋のサステナブルな発展に要注目だ。

  • 日本橋サステナブルサミット2023 概要

■日本橋 SUSTAINABLE SUMMIT 2023

日程: 2023年9月28日(木)10:00〜19:00

場所: 室町三井ホール&カンファレンス

主催: 一般社団法人日本橋室町エリアマネジメント

共催: サステナブル・ブランド ジャパン(博展)

後援: 株式会社月刊総務

企画: アティーク

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