第44回「石橋湛山賞」受賞作決定

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 2023年度・第44回の「石橋湛山賞」(石橋湛山記念財団主宰、東洋経済新報社・経済倶楽部後援)は、三浦まり氏の『さらば、男性政治』(岩波新書、2023年1月刊)ならびにケネス・盛・マッケルウェイン氏の『日本国憲法の普遍と特異――その軌跡と定量的考察』(千倉書房、2022年6月刊)に決定しました。

 全国の有識者から推薦いただいた多くの著作の中から、厳正なる審査を行いました。最終選考委員会での選考に残った両氏の著作は共に水準が高く、本年も、2作品への同時授賞となりました。

 三浦まり氏の『さらば、男性政治』は、豊富な事例とデータによって、ジェンダー後進国日本の「男性ばかりの政治」の歴史と実態を明らかにしています。ジェンダー不平等がもっとも顕著なのが政治の世界であり、多くの女性候補者が、さらには女性議員が輩出することが必要だとします。

 氏は「市民と政党の新しい関係性の中核にジェンダー平等と多様性を据えることが、男性政治を打破する鍵となる」と主張、具体的な打開策としてクオータ制の導入を提案しています。ジェンダーと政治について考えるための啓蒙書として評価されました。

 また、石橋湛山は戦前、市川房枝と共に「婦人経済会」を組織し、女性の政治的・経済的地位の向上のための支援を惜しみませんでした。その意味からも本書は石橋湛山賞にふさわしいといえます。

 一方、『日本国憲法の普遍と特異』は、世界各国900の成文憲法データベースを計量政治学の手法で分析、日本国憲法と比較した研究書です。日本国憲法だけが、なぜ75年もの間、変わらないのか。他の憲法と比して、統治機構や制度を、過度に法律に委ねているため、改正の必要性が構造的に低い。小選挙区制や、選挙運動への規制等を憲法を変えることなく、法律で変えることができる点が、政治アクターの恣意的な操作を呼び、民主主義にとって大きな問題だと指摘します。氏は選挙制度に最高裁が介入できる根拠と権限を付与することによって、この問題を解決すべきだとします。

 計量政治学による分析手法の斬新さとその問題提起は憲法改正論議にも一石を投じるものと思われ、有意義な研究書として評価されました。

三浦 まり著『さらば、男性政治』(岩波新書 2023年1月刊)

三浦 まり(みうら まり)氏 上智大学法学部教授

略歴:1967年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業、カリフォルニア大学バークレー校大学院修了。Ph.D.(政治学)。2021年フランス政府より国家功労勲章シュバリエ受章。専攻は現代日本政治論、ジェンダーと政治。著書に『私たちの声を議会へ:代表制民主主義の再生』(岩波書店、2015年)、『社会への投資〈個人〉を支える〈つながり〉を築く』(編集、岩波書店、2018年)、『日本の女性議員――どうすれば増えるのか』(編集、朝日新聞出版、2018年)、『女性の参画が政治を変える――候補者均等法の活かし方』(共編、信山社、2020年)、「日本政治の第一歩』(共編、有斐閣、2018年)、『ジェンダー・クオータ――世界の女性議員はなぜ増えたのか』(共編、明石書店、2014年)、『政治って、面白い! : 女性政治家24人が語る仕事のリアル』(編著、花伝社2023年)などがある。

ケネス・盛・マッケルウェイン(Kenneth Mori McElwain)著『日本国憲法の普遍と特異――その軌跡と定量的考察』(千倉書房、2022年6月刊)

ケネス・盛・マッケルウェイン(Kenneth Mori McElwain)氏 東京大学社会科学研究所教授

略歴:1977年日本生まれ、アイルランド国籍。プリンストン大学卒業。スタンフォード大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。ハーバード大学日米関係プログラム研究員、ミシガン大学助教授などを経て、2015年から現職。専門は憲法の制度設計、選挙法、比較政治制度、政党政治。平成28 年度東京大学卓越研究員。Social Science Japan Journal編集委員長。

主要論稿に“The Proposer or the Proposal? An Experimental Analysis of Constitutional Beliefs”, Japanese Journal of Political Science 22(1), 2021 (with Shusei Eshima and Christian G. Winkler); “The Japanese Constitution”,In The Oxford Handbook of Japanese Politics, edited by Robert J. Pekkanen and Saadia M. Pekkanen, Oxford University Press, 2021; “Manipulating Electoral Rules to Manufacture Single-Party Dominance”, American Journal of Political Science 52(2), 2008; “What’s Unique about Japan’s Constitution? A Comparative and Historical Analysis”, (with Christian Winkler) Journal of Japanese Studies, 41(2), 2015.などがある。

授賞式

 日時:2023年11月9日(木)15時30分~

 会場:東洋経済ビル 9階 経済倶楽部ホール(東京都中央区日本橋本石町 1-2-1)

「石橋湛山賞」について

石橋湛山賞は、石橋湛山記念財団により、東洋経済新報社と経済倶楽部の後援の下に、1980年に創設されました。政治経済・国際関係・社会・文化などの領域で、その年度に発表された論文・著書の中から、石橋湛山の自由主義・民主主義・国際平和主義の思想の継承・発展に、最も貢献したと考えられる著作に贈られています。 政界・経済界・学界・マスコミ関係者から寄せられた推薦論文・著書をもとに、財団理事・評議員らによる選考委員会が授賞候補を数点に絞ります。この中から最終選考委員の田中秀征(福山大学客員教授)、加藤丈夫(前国立公文書館館長)、山縣裕一郎(経済倶楽部理事長)、駒橋憲一(東洋経済新報社 取締役会長)各氏の合議を経て、最終選考委員会の場で決定します。

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