神経細胞を守る新たな品質管理機構を発見

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順天堂大学大学院医学研究科器官・細胞生理学の小松雅明教授、北海道大学遺伝子病制御研究所の野田展生教授、東京大学医科学研究所の稲田利文教授らの共同研究グループは、小胞体*¹上で働く新しい「たんぱく質品質管理システム*²」を解明しました。

細胞の中では、リボソーム*³と呼ばれる“たんぱく質工場”が生命維持に必要なたんぱく質を作っています。しかし、たんぱく質が作られる過程で異常が起こると、細胞に強いストレスが生じます。特に神経細胞はこうした異常に弱く、品質管理機構の破綻は神経発達障害や神経変性疾患につながることが知られています。

研究グループは、小胞体上で働くUFSP2–ODR4酵素複合体*⁴が、たんぱく質工場(リボソーム)で生じた異常を監視し、その品質管理を担うことで神経細胞を守っていることを発見しました。

さらに、遺伝子改変マウスおよび神経発達障害患者由来細胞を用いた解析により、この仕組みが破綻すると神経細胞死や小頭症が生じることを明らかにしました。

本成果は、神経発達障害の発症機構の理解を大きく前進させるものであり、新たな治療法開発への応用が期待されます。

本論文はMolecular Cell誌のオンライン版に2026年7月9日付で公開されました。

本研究成果のポイント

● 神経細胞を守る新しい「細胞内品質管理システム」を発見

● UFSP2–ODR4酵素複合体が、たんぱく質工場(リボソーム)の異常を監視していることを解明

● この仕組みの異常が、小頭症や神経発達障害につながることを発見

背景

細胞の中では、リボソームと呼ばれる“たんぱく質工場”が生命維持に必要なたんぱく質を作っています。特に、小胞体と呼ばれる細胞内器官の表面では、神経細胞の発達や情報伝達に必要なたんぱく質が盛んに作られています。

しかし、この工場で異常が起こると、不完全なたんぱく質や異常なリボソームが生じ、細胞に大きな負担を与えます。特に神経細胞はこうした異常に弱く、品質管理機構がうまく働かなくなると、神経発達障害や神経変性疾患につながることが知られています。

細胞には、こうした異常を監視して対処する品質管理システムが備わっています。しかし、小胞体上で行われる品質管理がどのように制御されているのかについては、まだ多くのことが分かっていませんでした。

内容

研究グループは、細胞やマウス、患者由来細胞を用いた解析により、小胞体上で働くUFSP2–ODR4酵素複合体が、たんぱく質工場(リボソーム)の品質管理を担い、神経細胞を守っていることを発見しました。この酵素複合体は、異常なたんぱく質を除去するとともに、リボソームを再利用可能な状態に戻すことで、神経細胞を保護しています(図1)。さらに、この仕組みが破綻すると、神経細胞死や小頭症が生じることを、遺伝子改変マウスおよび神経発達障害患者由来細胞を用いて明らかにしました。また、神経発達障害患者では、この品質管理システムの異常によって、たんぱく質工場の制御が乱れていることも見出しました(図1)。

今後の展開

本成果は、神経細胞を守る新たな品質管理機構を明らかにしたものであり、神経発達障害の病態理解を大きく前進させるものです。今後は、この品質管理システムを標的とした新たな治療法開発や、神経発達障害に対する診断・治療戦略への応用が期待されます。

図1:本研究で明らかになったたんぱく質工場の品質管理メカニズム

小胞体上でたんぱく質を合成するリボソーム(たんぱく質工場)に異常が生じると、UFSP2–ODR4複合体が品質管理を行い、異常なたんぱく質を除去するとともに、リボソームを再利用可能な状態に戻す。これにより神経細胞の恒常性が維持される。一方、UFSP2–ODR4複合体の機能が失われると品質管理機構が破綻し、神経細胞死や小頭症を伴う神経発達障害を引き起こす。

用語解説

*1 小胞体: 細胞の中にある構造で、たんぱく質を作ったり、その品質を管理したりする重要な役割を担う。

*2 たんぱく質品質管理システム: 細胞の中で、異常なたんぱく質が作られたり蓄積したりしないように監視し、取り除く仕組み。

*3 リボソーム: 細胞の中でたんぱく質を作る「たんぱく質工場」。遺伝子の情報を読み取り、生命活動に必要なたんぱく質を作る。

*4 UFSP2–ODR4酵素複合体: UFSP2とODR4という2つのたんぱく質が結合してできる酵素です。小胞体上で働き、たんぱく質工場(リボソーム)の品質管理を支えることで、神経細胞を守る役割を担う。

原著論文

本研究はMolecular Cell誌のオンライン版に2026年7月9日付で公開されました。

タイトル: The UFSP2–ODR4 complex spatially confines and dynamically controls UFM1 deconjugation to safeguard neuronal proteostasis

タイトル(日本語訳): UFSP2–ODR4酵素複合体によるUFM1脱修飾の空間制御機構の解明と神経細胞プロテオスタシス維持における役割

著者: Gaoxin Mao, Sota Ito, Ryosuke Ishimura, Jun-ichi Sakamaki, Ryohei Sasaki, Takefumi Uemura, Kei-ichi Ishikawa, Satoko Komatsu-Hirota, Wado Akamatsu, Manabu Abe, Satoshi Waguri, Sunita Bijarnia-Mahay, Nobuo N. Noda, Toshifumi Inada, Masaaki Komatsu

著者(日本語表記): 毛 高鑫1)、伊藤 壮太2)、石村 亮輔1)、坂巻 純一1)、佐々木 諒平3)、植村 武文4)、石川 景一5)、小松−廣田 聡子1)、赤松 和土5)、阿部 学6)、和栗 聡4)、Sunita Bijarnia-Mahay 7)、野田 展生3)、稲田 利文2)、小松 雅明1)8)

著者所属: 1)順天堂大学大学院医学研究科器官・細胞生理学、2)東京大学医科学研究所基礎医科学部門RNA制御学分野、3)北海道大学遺伝子病制御研究所生命分子機構分野、4)福島県立医科大学医学部解剖・組織学講座、5)順天堂大学大学院医学研究科ゲノム・再生医療センター、6)新潟大学脳研究所脳生理機能・修復領域モデル動物開発分野、7) Institute of Medical Genetics & Genomics Sir Ganga Ram Hospital、8)順天堂大学大学院医学研究科オートファジーリサーチセンター

DOI: https://doi.org/10.1016/j.molcel.2026.06.026

本研究はJSPS科研費JP23K20044, JP24H00060, JP25H01323, JP24H01901, JP23K27134, JP23K06065, JP25H01419, JP25H00966, JP25H01320, JP25H0132, JP25H00315, P22H04926およびAMED JP22gm1410004h0003, JP21gm6410019h0001, JST-CREST JPMJCR20E3,公益財団法人 武田科学振興財団、公益財団法人 上原記念生命科学財団、公益財団法人 小林財団、公益財団法人 三菱財団の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。

なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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