サーキュラーエコノミーの興隆:ビジネスと研究の最新動向 ~浮かび上がる欧州の関心の高さ~

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アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、環境問題の解決やサステナビリティにおいて重要な「サーキュラーエコノミー」に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

はじめに

地球温暖化をはじめとする環境問題の深刻化しています。それを背景に、資源の投入量や消費量をおさえ、ストックを有効活用しながら付加価値を生み出す「サーキュラーエコノミー(Circular Economy)」が注目されています。

サーキュラーエコノミーは、いわゆる「とって、作って、捨てる」という従来の線形経済モデルではなく、「無駄なく作って、捨てる量を減らし、捨てたものを再利用する」経済モデルです。リサイクル事業は、製品や材料を再生利用して、新たな製品や材料を作るプロセスですが、サーキュラーエコノミーは資源の循環利用を通じて経済を再設計する包括的なアプローチです。人々の価値観の変化やサステナブルファイナンスの拡大などを背景に、サーキュラーエコノミーへのとりくみは単なるビジネスチャンスではなく、企業価値向上につながる行動である、という認識が広がっています。

 

アスタミューゼは、社会貢献やSDGsへの取り組みにとどまらず、企業価値向上や投資の観点からの「サステナビリティ向上」にむけた課題設定と解決にむけて、具体的なアクションプランをふくめた提案を多くの企業に行ってきました。このレポートでは、アスタミューゼが独自に構築している世界最大級のデータベースを基に、サーキュラーエコノミーに関連するスタートアップ企業と研究プロジェクトについて、直近10年の動向と地域ごとの特徴を紹介します。

 

スタートアップの動向 

まず、「サーキュラーエコノミー」というキーワードが会社概要(description)に明記されているスタートアップ企業をデータベースから抽出しました。スタートアップ企業は、新しい技術で社会や既存プレイヤーにインパクトを与える企業であり、その資金調達額は社会の期待値を反映しています。

図1は、2013年から2022年までの10年間におけるスタートアップ企業設立件数と資金調達額の推移です。2022年は2013年に比べて、設立数は44倍、資金調達は約660倍に増加しました。

図1:2013年から2022年の10年間のサーキュラーエコノミーに関わるスタートアップ企業の設立数と資金調達額図1:2013年から2022年の10年間のサーキュラーエコノミーに関わるスタートアップ企業の設立数と資金調達額

最も多額の資金を集めた企業は、2021年に設立された米国のCircular Services社(注1)で、2022年に200万米ドルを調達しました。この企業は紙、金属、ガラス、プラスチック、有機物、繊維製品、電子機器などを選別、処理、再利用する技術を提供し、米国内のサプライチェーンで継続的な再利用を実現しています。なお、日本からはサーキュラーエコノミーを明示したスタートアップ企業は確認されていません。

 

注1: https://www.closedlooppartners.com/circular-services/

 

研究プロジェクトの動向

 

次に、グラント(科研費など競争的研究資金)の動向を見ていきます。グラントのデータには、まだ論文発表もなされていない問題や課題にむけた、新しいアプローチ手法や研究事例が記されています。

図2は、「サーキュラーエコノミー」というキーワードが明示された研究プロジェクトのうち、件数上位5か国と日本の動向です。ただし、中国はグラントデータの開示状況が年によって異なり、実態を反映しているとはいいがたいので除いています。

図2:2013年から2022年の10年間のサーキュラーエコノミーに関わるグラント(競争的研究資金)のプロジェクト件数推移図2:2013年から2022年の10年間のサーキュラーエコノミーに関わるグラント(競争的研究資金)のプロジェクト件数推移

2012年から2022年にかけて、「サーキュラーエコノミー」をキーワードとして含む研究プロジェクトは合計1,877件あり、日本のプロジェクト件数は26件で第9位となりました。

 

図3はこれらの研究プロジェクトに与えられた資金の推移です。金額上位5か国と日本、その他の国の合計額となります。

図3:2013年から2022年の10年間のサーキュラーエコノミーに関わるグラント(競争的研究資金)の賦与額の推移図3:2013年から2022年の10年間のサーキュラーエコノミーに関わるグラント(競争的研究資金)の賦与額の推移

2022年には、競争的な研究資金が約700万米ドルに上昇し、2012年の80倍に増加しました。最も多くの資金、約40万米ドルを受けたプロジェクトは、鉄道システムの持続可能性向上を目指し、エネルギーと資源の消費、環境への影響を最小限に抑える新しい交通モードを開発するプロジェクト(注2)で、サーキュラーエコノミーがキーワードの一部として挙げられています。

注2:Europe’s Rail Flagship Project 4 – Sustainable and green rail systems

2022-2026年

Europe’s Rail Flagship Project 4 - Sustainable and green rail systems | FP4 - Rail4EARTH Project | Fact Sheet | HORIZON | CORDIS | European Commission
This proposal is fully addressing the HORIZON-ER-JU-2022-FA4-01 call for project.It’s scope of work is covering the Sustainable and green rail systems including...

 

英国は研究課題数でリードしていますが、資金額ではEUのプロジェクトが圧倒的です。ノルウェーなどの北欧諸国も、米国よりも多くのプロジェクトを有し、資金額でも上回っています。

研究資金を獲得するためには、欧州ではサーキュラーエコノミーに焦点を当てることがプロジェクト採択の可能性を高める傾向がある一方、米国や日本ではあまり認識されていないようです。

おわりに

 

サーキュラーエコノミーに関連するスタートアップ企業、研究プロジェクトに投じられる資金は急増しています。「サーキュラーエコノミー」のキーワードを含まなくても、金属や食品などを対象に回収・リサイクル・再利用をめざす研究プロジェクトやスタートアップが多くありますが、キーワードとして「サーキュラーエコノミー」を入れることが研究資金・事業資金の獲得に貢献するという傾向が強調されています。とくに欧州のグラントで、その傾向が顕著です。

 

サーキュラーエコノミーの実現には、付加価値を生みながら社会全体で最大限の製品利用を図るビジネスモデルの拡大に加え、これまで廃棄・排出されていたものを活用するための技術を軸としたイノベーションが必要です。アスタミューゼでは、サーキュラーエコノミー分野における技術領域を、図4の(素材・物質)x(再利用・延命・再生)のマトリクスによって独自に定義しています。

図4:アスタミューゼで独自に定義した、サーキュラーエコノミー分野における技術領域図4:アスタミューゼで独自に定義した、サーキュラーエコノミー分野における技術領域

このマトリックスに基づき、サーキュラーエコノミー関連技術のトレンドについて、今後も詳しく説明する予定です。

著者:アスタミューゼ株式会社 源 泰拓 博士(理学)

さらなる分析は……

アスタミューゼでは「サーキュラーエコノミー」に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。

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