10月6-7日に発生した那須連峰の遭難について

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那須連峰での遭難事故は、信頼できる気象情報を得て、予想天気図を確認していれば防ぐことができたと思われる

報道によれば、10月7日(土)の朝、那須連峰の朝日岳付近の登山道で、60代から70代の男女4人が死亡しているのが発見された。前日の6日(金)正午すぎに登山中の男性から「同行している男性が低体温症で動けない」などと警察に通報があり、その後、別の登山者からも「滑落した女性がいる。複数の人が動けなくなっている」との通報があった。今日現在、死因などは不明であるが、現場の状況などから悪天候による低体温症による可能性は否定できない。

 ヤマテンの解析によると、6日の朝日岳山頂付近では、朝から平均15m/sを越える風速となり、特に午後は平均25m/s以上の暴風となる時間があったとみられる。那須連峰では、今回のように冬型の気圧配置になると、地形的に北西風が強まりやすい(図1)。

図1 那須連峰で風が強まりやすい理由(筆者著 山岳気象大全 山と渓谷社より)

特に、今回のように等圧線が込みあう場合(図2)には、平均20m/s以上の非常に強い風になることも珍しくなく、過去にも強風による転滑落や低体温症による事故が多発している。

図2 10月6日12時の天気図(気象庁提供)

今回の大荒れの天候については、事前に予想天気図を見れば誰でもわかることで、ヤマテンでも3日(火)の午前中、那須連峰を含む東北地方をはじめ、中部山岳から北海道までの広い範囲の山岳に「大荒れ情報」を発表している。大荒れ情報というのは、登山者にとって極めて気象リスクが高まるときに発表する警戒アラートで、気象遭難をゼロにするという弊社の創業当時からの理念実現のために実施しているものであるが、残念なことに大荒れ情報を発表しているときに、気象遭難が多発しているという現実があり、この情報をもっと広く登山者に活動してもらいたいと願っている。また、前々日、前日に発表された、弊社「山の天気予報」の那須岳山頂の風速は平均20m/sを越える予想を発表している。一方で、登山者に広く利用されている「てんきとくらす」ではC判定となっているものの、どういう気象リスクが想定されているのかや、C判定でも十分行動できるときと、行動が非常に難しい気象条件とがあり、その区別をすることはこの判定だけでは不可能である。また、気象予報サイトによっては、風速が実際よりかなり弱めに発表しているものもあり、このような予報を信頼して登っている登山者がいたら、「風が弱いので低体温症のリスクが低い」と勘違いをしてしまう可能性がある。

低体温症は、1.風が強い 2.雨や雪が降っているなどして体が濡れている 3.気温が低い ときに発症しやすく、風が強いか弱いかの条件は、体温の低下にとって非常に重要である。

気象庁には、山頂の予報を発表するのに厳しい条件をつけているのであるから、その精度についていい加減なものは認めないなど、仕組み作りに工夫をしていただきたいし、情報を利用する登山者も、気象情報が氾濫するほど沢山ある状態の中で、信頼できる予報を選択していかなければならない時代だと思う。その信頼性を確かめるためにも、登山当日の予想天気図を見る癖をつけて等圧線が込んでいるとき、特に那須連峰では東に低気圧、西に高気圧という気圧配置で線が縦じま模様になっているときには、森林限界を超える登山はしない、という鉄則を覚えておくべきであると思う。

また、悪天候の中、登山をする際には引き返しポイントをしっかりと決めることも大切である。これは私やヤマテンの気象予報士が講師を務める講習会では常々言っていることであるが、引き返しポイントとは、岩場などの危険地帯や低体温症や落雷など気象リスクが急激に高まるところの手前で、引き返すかどうかを判断すべき場所のことである。朝日岳は、那須連峰の真ん中付近に位置し、稜線に出てからある程度長い距離を歩く必要がある。つまり、風の影響を強く受けたり、落雷に襲われやすい場所を長く歩かなければならないことから、それらの危険が高まる場所に入る前、三本槍岳からの縦走の場合は三本槍岳山頂付近、峠の茶屋からの登山の場合は峠の茶屋跡避難小屋付近を引き返しポイントに設定すべきである。そこで既に体がよろめくような風の強さだったり、これから急速に風が強まる予想の場合には、そこで躊躇なく引き返す判断を下すことが重要である。特に、パーティリーダーはそのような決断を出せる人間が担当すべきである。

文責:

株式会社ヤマテン

代表取締役 気象予報士

猪熊隆之

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