電力は一般に貯められない性質があり、送配電網全体の排出係数(送配電網の全ての発電(1kWh)に伴うCO2排出量の平均値(炭素濃度(Carbon Density)))は、太陽光発電が多く稼働する晴天昼間と、火力発電が多く稼働する夜間では約2倍の格差が生じることがあります。
従来の、各電力小売会社ごとの年間平均の排出係数を全ての時間帯に一律に適用する手法では、こうした実態が反映されない課題がありました。
そこで、近年では、例えば米国カリフォルニア州では、規制当局(カリフォルニア独立系統運用機関(CAISO))が5分毎の時間帯別排出係数を正確に算定し、リアルタイムで公表するようになりました。また、欧州でも、時間帯別排出係数を用いて域内企業や消費者のCO2排出量を正確に算定する取り組みが広がっています。
わが国においても、全国の送配電会社は、送配電ネットワークにおける電源種毎の1時間毎の発電電力量の公表を開始し、この公開ビッグデータを用いて、時間帯別排出係数を第三者が合理的に推定することが可能になりました。
当社の特許技術では、家庭や企業の電力消費量を各時間帯別の排出係数とかけ合わせて、その値を期間全体で合算することで期間全体のCO2排出量を精緻に算出し、また、その値をその期間の電力消費量で割り戻すことで、それぞれの家庭や企業ごとに固有の排出係数を算定します。
これを、送電網の平均排出係数や他の利用者(プロシューマを含め)と相互比較することで、自身の環境配慮行動の成果の絶対水準や相対水準の評価や価値創出量の算定が可能となります。
電力消費に伴うCO2排出量を、電力消費量と排出係数に因数分解することで、CO2排出量の削減は、電力消費の量の削減だけでなく、電力消費量単位あたりのCO2排出削減量という効率性の向上の組合せで達成可能となることを可視化できるようになります。これにより、消費者に、より効果的な省エネを促すインセンティブを付与することができます。
これは、自動車運転に例えれば、ガソリン消費量の削減は、走行距離の削減と単位走行距離当たりの燃費の向上の両面でもたらされるものであることを可視化し、エコドライブ推進が国民の意識に定着化していることに似ています。電気においても、「再エネ比率の高い昼間に電力消費をタイムシフトしよう」という機運を醸成すべきと考えます。
現在の節電ポイント政策は電力消費量のみの削減を対象としていますが、もともとの省エネ励行者が不利になったり、気温や事業活動などにより変動が激しく、ベースラインの予測や蓋然性の担保が難しいなどの多くの課題がありました。
これに対して、排出係数も併せて比較する手法では、納得性も得やすく、ナッジなどの行動インサイトを活用して、ゴルフのように、レベルの違う人同士でも、ハンディキャップを付けての共通ルールで楽しくゲーム対戦が可能となります。
当該手法により、消費者は正確なCO2排出量を知ることができ、全国ランキング(あるいは世界ランキング)や、スコア(素点や偏差値)が確認できます。AIを活用して類似需要家との比較や、要因分析、将来予測などにより、精緻な目標管理が可能となります。
欧米では、日本よりも情報開示が進んでおり、この手法を用いることで、異なる地域や国の電力消費者同士での比較が可能となります。
また、サプライチェーン全体でのCO2排出量を精緻に積み上げて算定するSCOPE3によるLCAが求められている中で、企業は新たに生産・流通拠点を選定する際に、自社の時間帯別電力消費量を基に、各候補地のCO2排出量をシミュレーションすることが可能となるので、企業活動拠点の最適化にも役立ちます。
一方で、各地域・国の送配電網のCO2排出削減能力が、世界統一基準で客観的に評価できるようになることで、各送配電網を管理する国・自治体・地域等の送配電網の最適化(とりわけ夜間再エネの提供)による需要家獲得(工場誘致や住民移転)競争を喚起することが期待されます。
例えば、九州地域は原子力発電所の稼働と再エネ発電能力の増強により、系統全体の再エネ比率が相対的に高く、供給信頼度も高く、電気料金が安価(東京電力管内と概ね2倍程度の電気料金格差があるという報道もある)である傾向があり、そのことが半導体製造拠点化を促している可能性もあると考えています。
現在、東京電力管内では、原子力発電所の再稼働が見通せない一方で、他地域に比較して再エネ導入も遅れており、老朽化しつつある石炭火力に依存するいびつな電力システム構造となっており、電気料金が関西電力管内の2倍近くにまで高騰し、夏冬の需給逼迫時には常に停電リスクが生じ、しかもCO2濃度(Carbon Density)がカリフォルニアの2倍以上という危機的な状況にあります。
今後、 電気自動車の普及により電力需要がますます増大する一方で、老朽化する火力発電所が退出し、新設も見通せないため、その状況はますます悪化する懸念があります。
速やかに、抜本的な対策を講じる必要があることは明らかですが、長期的視点で見れば、電気料金の低廉化や供給信頼度に加え、グリッドCO2排出係数がメルクマールとなって、首都圏から九州などの再エネが潤沢にある地域へ、産業が移転し人口も移動することで、首都圏の需要が縮小し、均衡がもたらされるということも考えられます。
当社の技術により、各グリッドの管理者(あるいは国家・地域)は、緊張感をもって産業を誘致し、人流を呼び込むSDGsを考慮したあらたな基準での公正な競争を喚起することで、世界全体の持続可能性を高めていくきっかけが作れると期待しています。
当社は、2017年の創業時より、GDPの極大化のみを指向し、大量生産・大量輸送・大量消費によるムリ・ムダ・ムラを喚起する世界共通市場化を要諦とする行き過ぎたグローバリゼーションから、デジタルを活用する新しいシェア経済への移行と金銭でははかれない価値を創出する共生社会の実現への貢献を社是として掲げてまいりました。
私たちが、SDGsの実現を希求して、再エネ電力を私たちが選択した以上は、「貯められない、遠くに運ぶのにコストがかかるという」電力の性質を考えれば、住む場所や、生活時間を自然(再生可能エネルギー)に合わせて、快適さ・便利さ・安さをある程度は犠牲にしなければいけないという、飾りごとではない、SDGsの当たり前の厳しい本質に、一人ひとりが正面から向き合う必要があり、この技術がそのきっかけとなれば、「電力シェアリング」という社名に宿した企業理念が具現化できればと考えております。
また、近年は、家庭や企業がオンサイトで太陽光発電を行うプロシューマが増加していますが、スマートメータでは、再エネ自家消費によるCO2排出削減価値の創出分が計測できないため、本特許技術では、レバレッジ係数という新しい概念を用いて、プロシューマのオンサイトでの自家消費等による環境価値の創出分を一体的に算定・評価・取引することを可能としています。
当社の技術を用いて、1.スマートメータによる電力取引量に加え、2.オンサイト再エネの充放電量、3.送配電網の時間帯別排出係数の3つのビッグデータを用いて、(1): 家庭や企業・地域の電力消費量(削減量)、(2): 家庭や企業・地域の排出係数(削減値)、(3): (1)と(2)のかけ合わせで表される家庭や企業・地域のCO2排出量(削減量)の3つの指標で、CO2排出削減努力を見える化し、消費と再エネ発電が相互追従する仕組みを実装いたしました。
今後、市民生活や産業活動のあらゆる局面でのCO2排出量を測り、評価し、削減してネットゼロを達成することが求められており、脱炭素会計が新しいビジネスとして注目されています。そこで、当社は、この特許技術を用いて、生活・産業全般での電力消費や再エネ・低炭素発電によるCO2排出量や削減量を、デジタルを活用してより一層公正に測定・分析・評価・取引する手法を、商用化サービスとして提供するとともに、日本発の国際標準として、国際機関や海外のスタートアップなどと協力して世界に発信してまいります(注2)。当社が現在準備中の複数の事業については、当社ウエブサイトにて随時公表してまいります。
(注1)なお、この特許は先に発表した電気自動車の昼充電やトランジション・ファイナンスに関わる特許と同一のものです。現在、これに加えて3の応用特許を出願中です。
(注2)2023年2月20日から22日まで3日間にわたり開催されたアジア開発銀行研究所(東京都・千代田区)主催の国際会合(Workshop on Energy Transition from Coal to a Low-Carbon Future)において、当社代表・CTOが登壇し、本技術のアジア新興国への適用可能性について発表致しました。https://www.adb.org/news/events/virtual-workshop-on-energy-transition-from-coal-to-a-low-carbon-future また、本メソドロジーを用いた途上国におけるCO2排出量モデル策定作りに関する政策・規制当局者の能力開発プログラムへの参画について、国連やアジア開発銀行研究所と協議を行っております。