昨今、クラウドコンピューティングやAI技術を用いたデータ活用ニーズの高まりにともない、データを安全に取り扱うセキュリティ技術として秘密計算、特に完全準同型暗号（Fully Homomorphic Encryption以下“FHE”）の注目が高まっています。FHEによって暗号化されたデータは、暗号状態であるにも関わらずデータ分析やAIによる機械学習が可能です。そのため、昨今規制が進んでいるプラットフォーマによるプライバシーデータ活用において、データ提供者が暗号化されたプライバシーデータを提供しても、プラットフォーマはデータ利活用が可能となります。
また製造業においては、サプライチェーン間でのデータ連携を通じて、製造装置保守の効率化をはじめとするスマートファクトリー推進や、材料メーカーにおけるマテリアルズインフォマティクス高度化など、様々なユースケースが期待されています。そのような技術や社会的な背景もあり、FHEはビックテック企業などにおいても盛んに研究されている技術です。しかしながら、FHEは暗号化によって元のデータよりデータ量が大きくなったデータに対し、AI等を利用した高度な計算を実行する際には、計算速度の面でまだ課題があり、社会実装という観点では利用が難しいのが現状です。
■共同開発契約の概要
FHEの計算速度に関する課題は、暗号化によるデータサイズ拡大と、ストレージからのデータ抽出〜計算にいたる演算オーバーヘッドが、機械学習、深層学習、ビッグデータ解析といった複雑な計算を実行する際に顕著に発生します。これは、今後のビッグデータ処理、オンタイム処理といった社会実装に向けた需要に対応するには、ソフトウェア改良によるアプローチだけでは困難な課題です。
本共同開発契約では、このFHEの課題解決に向け、フラッシュメモリ・SSDといった高速ストレージの開発製造を行うキオクシアと、秘密計算技術の開発サービス提供を行うEAGLYSが、両社の技術を組合せ、ハードウェアレイヤーからソフトウェアレイヤーまで連携した高速化を実現するFHEを用いた秘密計算の実証実験を2024年を目標に実施します。
キオクシア株式会社 メモリ技術研究所長 石丸一成様コメント
高度情報社会において、情報のセキュリティ確保はますます重要になっています。安心・安全な社会の実現に向けて今後幅広く活用が期待される秘密計算システムの高速化、実用化が今回の共同開発により加速されることを期待しています。
EAGLYS株式会社 代表取締役社長 今林広樹コメント
EAGLYSの『世の中に眠るデータをつなぐハブとなり、集合知で社会をアップデートする』というビジョンのインフラ実現に向けた共同開発を、世界的なフラッシュメモリとSSDのリーディングカンパニーであるキオクシア様と共創できることを大変嬉しく思います。
近年、製造・サプライチェーンのDX、ヘルスケア・バイオ領域での創薬AI・遺伝子解析をはじめ、インダストリーやヒトのデータをつないだ価値創出について様々な場面で議論されるようになりました。その様な際に利用される企業や個人のプライベートデータを、個社や業界の枠組みを超えて連携・解析する需要に対応するためにも、プライベートデータ解析を高速かつ安心・安全に実現するコンピューティングへの取り組みは、ユニークかつ将来を見据えた意義のある取り組みと考えています。
今回の共同開発をきっかけとし、世の中に眠るデータの安心・安全なデジタル化・データ活用支援を加速していきたいと思います。
【完全準同型暗号について】
完全準同型暗号は、秘密計算を実現する技術の一つです。データを暗号化したまま計算や検索ができる暗号化方式で、演算するときに複数の事象の類似性を利用する”準同型”という数学的な性質を応用して実現しています。準同型暗号のいくつかある種類の一つで、理論上あらゆる計算を暗号状態で実現することが可能な理想的な暗号方式です。例えば、ビッグデータ解析やAI解析等を始めとするデータ分析目的では、任意の四則演算を暗号状態で実現する技術が必要で、それを実現するのが完全準同型暗号です。
※下記ブログ記事も併せてご参照ください
https://www.eaglys.co.jp/news/column/homomorphicencryption/
【各社概要】
キオクシア株式会社
代表者 ：代表取締役社長 早坂伸夫
URL ：https://www.kioxia.com/
ミッション：「記憶」で世界をおもしろくする
事業内容： メモリ及び関連製品の開発・製造・販売事業及びその関連事業
EAGLYS株式会社
代表者 ：代表取締役社長 今林広樹
URL ：https://eaglys.co.jp/
ミッション：あらゆるデータを安全に活用し、価値に変える
事業内容：秘密計算技術を中心とした、AIセキュリティ、データ・セキュリティ、AIアルゴリズム設計事業、ならびにこれら技術を活用したサービスプロダクトの開発販売。
