消費期限の動的設定

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消費者のもとで毎年大量に発生している食品ロス削減に向けて、食品メーカーが率先してできることとは何か、インフォアの食品・飲料業界およびソリューション戦略ディレクターであるマルセル・コークス(Marcel Koks)が問いかけます。
国際連合環境計画の食品廃棄物指標レポート(※1)によると、毎年9億トン以上の食品廃棄物が発生しており、そのうち60%が家庭で捨てられていることがわかりました。世界の温室効果ガス排出量の24%を占める食料システムは、気候変動の主要な原因のひとつ(※2)でもあり、これほど膨大な食品が廃棄されていることは信じがたい事実です。

喫緊の課題として、これまで世界各地のさまざまな機関が食品ロスの大幅削減に向けて取り組んできました。特に賞味期限と消費期限に焦点を当てた取り組みが多く、先進的な企業が先頭に立ち、この決して無視できない問題を解決するためのソリューションを模索しています。

■期限表示の明確化
対策を講じるべき問題のひとつに、食品の期限表示に関する消費者の誤解が挙げられます。廃棄物削減に取り組むイギリスの慈善団体「WRAP」によると、イギリスの家庭で捨てられた食品の約60%(※3)(6.7億ポンド相当)は、期限内に食べられなかった食品であることがわかっています。さらに、期限切れで捨てられた食品の30%近くは、「消費期限」ではなく「賞味期限」が記載されており、本来廃棄される必要が無かったはずの食品でした。このように期限表示が誤解を招いていることは明らかです。

これは、イギリスに限った問題ではありません。毎年国内の食品の30~40%が廃棄されているアメリカでも、消費期限、使用期限、賞味期限、販売期限、開封後の賞味期限といった複雑な期限表示が問題になっています。また、欧州委員会は、EUで発生する年間8,800万トンの食品廃棄物のうち最大10%(※4)は期限表示に関係していると予測しています。

消費者教育が食品ロス削減につながることは明白です。賞味期限と消費期限の違いについて認識を広め、可能な限り一貫性のある表示基準を設けることが鍵となります。また、冷蔵庫の温度が1度上がるだけで、食品の寿命が1日縮まる可能性があると判断した場合は、冷蔵庫の温度に関する情報を詳しく表示することも重要です。しかし、既知のとおり、さらなる食品ロス削減を実現するために食品業界が率先して取り組めることは他にもあります。

■スマートシェルフと消費期限の動的設定
たとえば、一部のスーパーマーケットでは、消費期限や賞味期限が近づくにつれて商品を値下げするスマートシェルフが試験運用されており、消費期限の近い食品を通知する機能を搭載したスマート冷蔵庫などのテクノロジーが、家庭にも普及していくことが期待されています。また、食品の貯蔵寿命を実際の商品状態に合わせて変動させる、動的貯蔵寿命の導入は、メーカー、小売、消費者にとって非常に魅力的なアプローチです。この方法では、食品業界の中心的存在である食品メーカーが主体となって、入手可能な情報とテクノロジーを道しるべとして最大限に活用し、貯蔵寿命を最適化することで、日々発生している膨大な食品ロスに劇的な変化をもたらすことができます。

食品の貯蔵寿命を決める要因には、製品の原材料、製造方法、製造時期、消費者に届くまでの過程でどのように運ばれたか、そして、消費者の手元でどのように保管されるのかなど、数えきれないほどの不確定要素があります。メーカーは、入手可能な情報をもとに消費期限と賞味期限を決定しますが、安全衛生上のリスクを軽減するために、概ね慎重な判断を下す傾向があります。そうした慎重な姿勢は理解できるものの、消費者による食品ロス増加の一因となる可能性があるのは明白で、適切なテクノロジーによって解決すべき問題です。

■データを基にした消費期限
貯蔵寿命は、特に生鮮食料品では、それぞれの食品で異なるだけでなく、バッチごとに大きく異なる場合もあります。人工知能(AI)と機械学習(ML)の導入によって、メーカーは、農場から食卓まで、サプライチェーンの全段階におけるさまざまな要因を考慮しながら、食品ごとの貯蔵寿命を動的に設定することができます。

具体的には、材料と完成品の状態をサプライチェーンの上流から下流までモニタリングし、生産前、生産中、生産後の保管・輸送時間と状況の把握、原材料の品質調査、小売店に到着した後の製品状態を検査することも必要です。このアプローチに最適なのがIoTデバイスで、重要な不確定要素を判断して、必要な情報をデータ分析システムにフィードバックし、バッチごとの品質特性に合わせた最適な消費期限と賞味期限の決定を可能にします。

■オペレーションの最適化
サプライチェーン全体の細かい情報管理と可視化がメーカーにもたらすメリットは他にもあります。適切なシステムを使うことで、計画や調達に関する意思決定に必要となる深い洞察を得ることができます。たとえば、どのような材料が入手できるのか予測することが可能であれば、メーカーは、材料の品質や特性の不足に備えて、生産方法を変えることができます。また、特定のサプライヤーで問題が起こった場合に代替の材料を調達する手段を調べたり、現行のサービスが貯蔵寿命を縮める原因となっている場合に輸送手段を変えたりすることも可能になります。

さらに、こうした戦略を採用することで、コスト面でのメリットも得られます。たとえば、高品質の材料は貯蔵寿命が長くなる傾向がありますが、在庫数を可能な限り抑えることが求められている近年、最終製品の貯蔵寿命が限られているにもかかわらず、安定して長持ちする材料に高いコストをかけることに意味があるのか疑問を持たなければなりません。こうしたアプローチによって、メーカーはオペレーションを最適化できるだけでなく、食品ロスを大幅に削減することにもつながるのです。

適切なテクノロジーの活用は、食品メーカーが中心となって食品ロス削減に向けて取り組むための鍵となります。先見性のある企業は、このことをすでに認識しており、大規模なサプライチェーン全体で入手可能な情報とツールを駆使し、食品の消費期限を動的に決定するためのベストプラクティスに必要な知見を得ています。このような、世界全体の食品ロス削減への道をひらくアプローチを通じて、食品業界は、今日私たちが直面している喫緊の課題の解決に向けて一丸となって取り組む必要があります。

(※1)https://www.unep.org/resources/report/unep-food-waste-index-report-2021
(※2)https://drawdown.org/drawdown-review
(※3)https://wrap.org.uk/sites/default/files/2020-12/Consumer-attitudes-to-food-waste-and-packaging.pdf
(※4)https://food.ec.europa.eu/safety/food-waste_en

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