1. 開発の経緯
日本国内では年間約11.2億トンのCO2が排出され、そのうち35%を産業分野が占めており、多くの工業炉から排出されています。工業炉は国内に約3.7万基あるといわれ、政府の掲げる2050年カーボンニュートラルの実現には、それら設備においてCO2排出量削減策を講じていく必要があります。
大陽日酸では、カーボンフリー燃料としてアンモニアに着目し、2014年からアンモニア-酸素バーナの開発を実施しております。水素はアンモニアと共に工業炉向けのカーボンフリーな燃料として注目されており、工業炉分野でのCO2排出量削減に向け様々な選択肢をお客様へ提案できるよう2021年度より水素-酸素バーナの開発に取り組んできました。
2. 開発の概要・特徴
高速酸素バーナランス「SCOPE-JETⓇ」
SCOPE-JETⓇは、鉄スクラップ溶解用電気炉向けの省エネルギー技術であり、超音速の酸素ジェットを形成するバーナランスです。従来の助燃バーナと異なり、電炉の製鋼プロセスにおいて鉄スクラップが投入された直後の「溶解期」では酸素バーナとして機能しスクラップ溶解を促進させ、スクラップが溶け落ちた「精錬期」では酸素ランスとして機能します。その結果、電炉製鋼プロセスの生産性向上とエネルギー原単位削減に大きく寄与します。
SCOPE-JETⓇの水素燃焼化では、火炎温度が高く燃焼速度も速くなるためバーナ近傍が高温になり、バーナへの熱負荷軽減対策が課題でしたが、独自のノズル構造を適用することにより安定した燃焼を達成するとともに、天然ガスを燃料とした場合と同等の噴流特性を達成しました。
図1 SCOPE-JETⓇの燃焼火炎
超低NOx酸素(富化)バーナ 「Innova-JetⓇ」
Innova-JetⓇは、加熱炉や溶解炉向けの省エネルギー技術であり、排ガスによる熱損失を大幅に低減する事でエネルギー原単位削減に大きく寄与します。
加熱炉などに酸素(富化)燃焼を適用する場合、大量に生成されるNOxを抑制することが必要となりますが、独自のノズル構造および多段燃焼を適用することにより、大幅なNOx低減を実現し、さまざまな工業炉への展開を進めてきました。
Innova-JetⓇの水素燃焼化では、火炎温度が高くなるため更なるNOx抑制対策が課題でしたが、従来のノズルコンセプトを更に水素用に最適化することにより工業炉で運用可能なレベルまでNOxを低減し、天然ガスを燃料とした場合と同等の伝熱特性を達成しました。なおInnova-JetⓇは欧州にて実炉での評価試験を進めています。
図2 Innova-JetⓇの燃焼火炎
自励振動型酸素(富化)バーナ 「Innova-JetⓇ Swing」
Innova-JetⓇ Swingは、高温の加熱炉や溶解炉向けの省エネルギー技術であり、排ガスによる熱損失を大幅に低減できるとともに、炉底が浅い炉などに対して自励振動現象を利用して火炎を左右に振動させ、広範囲に均一加熱することが可能です。
Innova-JetⓇ Swingの水素燃焼化では、バーナへの熱負荷軽減対策として酸化剤ガスによる自己冷却構造を水素用に最適化することにより安定した燃焼を確認しました。
図3 Innova-JetⓇ Swingの燃焼火炎
3. 今後の予定
大陽日酸では、開発した水素-酸素燃焼技術をベースに、今後は各種の工業炉向けに様々なお客様のニーズに対応できる最適な水素-酸素バーナの開発・設計を行い、お客様の工業炉への導入を提案してまいります。本技術を通して、水素エネルギーの社会実装および CO2排出量削減を目指します。
【会社概要】
大陽日酸株式会社
事業内容:酸素・窒素・アルゴン等各種産業ガス、LPガス、医療用ガス、特殊ガスの製造・販売及び溶断機器・材料、各種ガス関連機器、空気分離装置の製造・販売、電子部品の組立・加工・検査、設備メンテナンス
創 業:1910年10月30日
設 立:2020年2月4日
資本金:15億円
株 主:日本酸素ホールディングス株式会社(出資比率100%)
売上収益:4,204億円※
※日本酸素ホールディングス㈱2023年3月期の日本セグメントの売上収益
本件に関するお問い合わせ
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