ノバルティス ファーマ株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:レオ・リー、以下「ノバルティス ファーマ」)は、本日、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤「ジャカビ®錠5mg、同10mg」(一般名:ルキソリチニブリン酸塩、以下「ジャカビ」)について、「造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(ステロイド剤の投与で効果不十分な場合)」の効能又は効果の追加承認を取得しました。
移植片対宿主病(GVHD)は、同種造血幹細胞移植(同種HSCT)で多く認められる移植合併症です。ドナー由来の免疫細胞が、同種HSCTを受けた患者さん(宿主)の正常な組織を異物とみなし攻撃することにより引き起こされます。GVHDは病理組織学的あるいは臨床兆候により急性GVHDと慢性GVHDに分けられ、同種HSCTを受けた患者さんのおよそ30~50%がそれぞれ発症するとされています1。急性GVHDは移植後早期にみられ、皮膚、肝臓、消化管が障害され、早期の死亡の原因の一つとなる重大な合併症です2。慢性GVHDは同種HSCT後の晩期合併症であり、急性GVHDと比較してより多くの臓器に障害を来し、晩期の死亡リスクを高めることに加えて、身体的及び機能的な健康状態、並びに生活の質(QoL)に悪影響を与え、社会復帰が困難になる等の要因ともなる疾患です3。このことから、GVHDの予防と治療は同種HSCTの予後改善において重要です。
GVHDの治療においては、現在の標準治療は、副腎皮質ステロイド(ステロイド)の全身投与とされていますが、およそ半数の患者さんがステロイド抵抗性を来すとされています4。そのような患者さんでは二次治療が必要となり、様々な免疫抑制剤、細胞療法、医療機器による治療などが行われています。しかし、いずれの治療法も前向き比較試験によって有用性が示されているものはなく、国内では保険償還されている薬剤も限られています。このような状況にあって、前向き比較試験によって有用性が検証された、より有効で安全な治療法が望まれていました5。
「ジャカビ」は、JAKと呼ばれる酵素を阻害する働きを持ち、JAK1およびJAK2に高い選択性を有しています。JAKの働きを阻害してシグナル伝達を阻害することにより、急性および慢性GVHDの発症に関与するドナー由来の免疫細胞の活性化を抑制し、急性および慢性GVHDの症状や長期予後の改善が期待されます。二つの国際共同第III相試験(急性GVHD:C2301試験/REACH2試験、慢性GVHD:D2301試験/REACH3試験)の結果、一次治療であるステロイドに抵抗性を来したGVHD患者さんで、「ジャカビ」の医師の選択による最良の治療(best available therapy,BAT)に対する優越性が検証され、安全性プロファイルとともに、臨床的なベネフィットをもたらすことが示されました。
同種HSCTは、さまざまな血液腫瘍や非悪性血液疾患の根治的治療として増加傾向にあります。同時に、同種HSCTの合併症に対する治療へのニーズも高まっています。GVHDの患者さんの中には、ステロイドによる治療で十分な効果が得られない方も多く、そうした患者さん、そしてご家族の負担は測りしれません。「ジャカビ」は、GVHDに対する新たな作用機序を有する治療選択肢として、急性および慢性のGVHDいずれに対してもベネフィットをもたらす可能性があります。「ジャカビ」の効能追加が、患者さんだけでなく、ご家族や治療に臨まれる医療従事者の方々の負担軽減と希望につながることを期待しています。
国際共同第III相試験について
この度の効能追加の承認は、急性GVHDに対する「ジャカビ」の有効性、安全性を評価した非盲検無作為化比較試験である国際共同第III相試験(C2301試験/REACH2試験、日本人患者30例を含む計309例)と、慢性GVHDに対する「ジャカビ」の有効性、安全性を評価した非盲検無作為化比較試験である国際共同第III相試験(D2301試験/REACH3試験、日本人患者37例を含む計329例)のデータに基づいています。両試験ともに主要評価項目を達成し、忍容可能な安全性プロファイルも示されました。また、両試験で、有効性および安全性について、全体集団と日本人集団で同様の傾向が示されました。
<国際共同第III相試験(C2301試験/REACH2試験)4>
C2301試験/REACH2試験では、有効性の評価が可能であった患者154例のうち主要評価項目である投与28日時の奏効率は62.3%で、BAT群(155例)の奏効率39.4%と比べて、統計学的に有意に高い結果が得られました(片側p<0.0001、層別 Cochran-Mentel-Haenzel検定)。副作用発現頻度は66.4%で、主な副作用は、血小板減少症23.0%、貧血16.4%、血小板数減少14.5%でした。
<国際共同第III相試験(D2301試験/REACH3試験)6>
D2301試験/REACH3試験では、中間解析において、ルキソリチニブ群97例、BAT群99 例が評価され、主要評価項目である投与24週時の奏効率はルキソリチニブ群で50.5%、BAT群で26.3%であり、BAT群と比較してルキソリチニブ群で有意に高い結果が得られました(p=0.0003、Cochran-Mantel-Haenszel検定、有意水準片側0.01176)。最終解析において、有効性の評価が可能であった患者165例のうち、主要評価項目である投与24週時の奏効率は49.7%で、BAT 群(164例)の奏効率25.6%よりも有意に高い結果が得られました。副作用発現頻度は67.9%で、主な内容は貧血23.6%、好中球減少症10.9%、ALT増加10.3%でした。
「ジャカビ」(一般名:ルキソリチニブリン酸塩)について
「ジャカビ」は、経口投与のJAK阻害剤です。4種類存在するJAKファミリーのうちJAK1 及びJAK2 を選択的に阻害し、シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT) 等を介したサイトカイン及び成長因子のシグナル伝達を抑制することで、造血及び免疫機能を制御します。これまで、国内においては、2014年7月4日に「骨髄線維症」、また、2015年9月24日に「真性多血症(既存治療が効果不十分又は不適当な場合に限る)」に対する治療薬として承認を取得しています。「ジャカビ」は世界110カ国以上で承認されており、GVHDについては、急性GVHD、慢性GVHDに対してそれぞれ60カ国以上で承認されています(2023年5月現在)。ノバルティスは、米国外における「ジャカビ」の開発および販売を目的としたライセンスをIncyte社から取得しました。米国ではIncyte社がJakafi®という商品名で販売しています。
移植片対宿主病(GVHD)について
GVHDは、移植を受けた患者さんの健康な組織(宿主)をドナー(移植片)由来免疫細胞が異物とみなし、攻撃することで発症します。GVHDの症状は、皮膚、消化管、肝臓、口腔、眼、生殖器、肺、関節等の多様な臓器で認められる可能性があり、同種HSCTを受けた患者さんにおけるII度以上のGVHDの発症率はおよそ30~50%とされています1。
ノバルティス ファーマ株式会社について
ノバルティス ファーマ株式会社は、スイス・バーゼル市に本拠を置く医薬品のグローバルリーディングカンパニー、ノバルティスの日本法人です。ノバルティスは、より充実したすこやかな毎日のために、医薬の未来を描いています。ノバルティスは世界で約10万3千人の社員を擁しており、約8億人の患者さんに製品を届けています。詳細はホームページをご覧ください。
以上
参考文献
1. 免疫不全・骨髄不全の同種造血幹細胞移植 | 国立成育医療研究センター (ncchd.go.jp). https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/immunodeficiency-allogeneic.html#section5.
2. 8-2. 急性移植片対宿主病|一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 (jstct.or.jp).
https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=21.
3. 11-1. 慢性移植片対宿主病|一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 (jstct.or.jp).
https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=37.
4. Ruxolitinib for Glucocorticoid-Refractory Chronic Graft-versus-Host Disease, New England Journal of Medicine 2021; 385: 228-238.
5. 造血細胞移植ガイドライン GVHD 第5版、2022年11月 一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会. https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_02_gvhd_ver05.1.pdf.
6. Ruxolitinib for Glucocorticoid-Refractory Chronic Graft-versus-Host Disease – PubMed (nih.gov).
<参考資料>
ジャカビ®︎錠5mgと同錠10mgの製品概要
製品名:
・「ジャカビ®錠5mg」(JAKAVI®︎ Tablets 5mg)
・「ジャカビ®錠10mg」(JAKAVI®︎ Tablets 10mg)
一般名:
ルキソリチニブリン酸塩
効能又は効果*(下線部が今回追加):
・骨髄線維症
・真性多血症(既存治療が効果不十分又は不適当な場合に限る)
・造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(ステロイド剤の投与で効果不十分な場合)
用法及び用量*(下線部が今回追加):
<骨髄線維症>
通常、成人には本剤を1日2回、12時間毎を目安に経口投与する。用量は、ルキソリチニブとして 1 回 5 mg~25 mg の範囲とし、患者の状態により適宜増減する。
<真性多血症>
通常、成人にはルキソリチニブとして1回10mgを開始用量とし、1日2回、12時間毎を目安に経口投与する。患者の状態により適宜増減するが、1回25mg、 1日2回を超えないこと。
<造血幹細胞移植後の移植片対宿主病>
通常、成人及び 12 歳以上の小児にはルキソリチニブとして 1回 10 mg を 1日2回、12 時間毎を目安に経口投与する。患者の状態により適宜減量する。
承認取得日:
2023年8月XX日
製造販売:
ノバルティス ファーマ株式会社
*「効能又は効果に関連する注意」、ならびに「用法及び用量に関連する注意」の詳細については、電子化された添付文書(電子添文)をご覧下さい。