本研究成果を、「第50回日本毒性学会学術年会」(2023年6月19日(月)~6月21日(水)、於:パシフィコ横浜)にて発表しました。
◆研究の背景・目的
皮膚感作性は化粧品の安全性において重要な評価項目のひとつとされています。化学物質の皮膚感作性は従来、動物実験によって評価されてきました。しかし、EUにおいて動物実験が実施された原料を含む化粧品の販売が全面禁止となったことを契機に、動物を使用しない皮膚感作性評価法の開発が強く求められています。
化学物質の皮膚感作性の「有無」を判断する定性的な評価手法は、「ハザード」評価法と呼ばれます。このハザード評価においては、標準的な試験方法として広く普及している公定法*1で、動物実験を行わない方法が複数存在します。その一方で、化学物質が皮膚感作性を示す場合にその「強弱」を定量的に評価する「リスク」評価においては、AIを含む動物を使用しない方法の開発と検証が進められている状況です*1,2。
そこで本研究では、サンスター独自に皮膚感作性リスク評価を実施可能なAIを構築し、その予測精度を検証しました。AIによる皮膚感作性リスク評価を実現することで、化粧品に配合される化学物質について、アレルギーの引き起こしやすさ(強弱)に関する安全性評価を、動物実験に頼ることなく効率的に実施可能になることが期待されます。
*1 OECD. Guideline No. 497: Defined Approaches on Skin Sensitisation. 2021, OECD Publishing.
*2 Kleinstreuer NC et al. Non-animal methods to predict skin sensitization (II): an assessment of defined approaches, Critical Reviews in Toxicology, 2018, 48:5, 359-374
◆方法
既存の文献情報から、動物実験で皮膚感作性の強さを示すEC3値*3が公開されている195物質のデータを取得し、以下の3つの役割に振り分けました。
(1)学習用117物質:AIを学習させるためのデータ
(2)内部検証用39物質:学習したAIが、(1)以外のデータでも機能するように修正するためのデータ
(3)外部検証用39物質:(1)と(2)から構築されたAIが、それ以外のデータでも機能することをテストするためのデータ
AIの構築に関与していない(3)のデータによって、客観的にAIの予測精度を評価することができます(図1)。
今回構築したAIには、機械学習においてよく利用される手法のひとつであるCatBoostモデルを組み込んでいます。予測精度を上げるため、皮膚感作性の有無にかかわらず予測可能な機械学習モデルAに加え、皮膚感作性のある物質に対して、特に予測精度の高いモデルBを組み合わせています。すでに確立されている皮膚感作性の有無を評価するハザード評価の公定法を用いることで、2つの機械学習モデル(モデルAとB)が1つのAIとして有効に機能するように組み合わせました(図2)。
*3 EC3値は化学物質がアレルギーを引き起こす濃度を意味し、値が小さいほどより低い濃度でアレルギーを引き起こす、つまり、皮膚感作性が強い物質であることを示します。
また、AIに皮膚感作性を予測させるための入力データ(説明変数と呼ぶ)として、細胞等を使用した実験から得られる値や、分子量のような化学物質の性質を使用することの有用性が、先行研究によって示されています。本研究ではこれらのデータに加えて、「類似物質に関する数値」を7つ*4定義し、説明変数として利用しました(図3)。この変数は、毒性学において「未試験物質の毒性や性質を試験データのある類似物質から推計する手法」であるリードアクロス手法の考え方に基づいて考案されました。被験物質に類似した物質のEC3値が高ければ被験物質のEC3値も同じく高いことが推測され、この考えをAIの学習に組み込んでいます。
◆研究結果
構築したAIを評価したところ、予測精度の指標であるR2値として(1)学習用物質で0.995、(2)内部検証用物質で0.787、(3)外部検証用物質で0.824であり、良好な予測精度を示しました(図4)。R2値は1に近いほど予測精度が高く、0.7~0.8以上で充分に良いとされる指標です。また、図4のとおり、正解の値の1/5~5倍の範囲(5-fold)内に90%以上の物質が収まっており、予測の誤差が少ないことが確認できました。
*4 「最も近い皮膚感作性NS(陰性)物質との距離」、「最も近い皮膚感作性Weak(弱い)物質との距離」、「最も近い皮膚感作性Moderate(中程度)物質との距離」、「最も近い皮膚感作性Strong(強い)物質との距離」、「最も近い皮膚感作性Extreme(非常に強い)物質との距離」、「最も近い物質のEC3値(%)」、「最も近い物質のEC3値(μmol/cm2)」の7変数
◆今後の展望
本研究では、皮膚感作性を定量的に予測するAIをサンスター独自に開発し、その予測精度を検証しました。本AIの活用により、アレルギー誘発リスクの低い安全な処方設計への貢献が期待できます。今後は本AIの実用化に向けて、適用範囲の明確化や他データでの充分な検証を実施する予定です。サンスターは最新の技術を活用した安全性評価法の開発を行い、お客様に安心してご使用いただける製品開発を進めて参ります。
<学会タイトルと著者>
演題:複数のin silico モデルを組み合わせた皮膚感作性定量予測系の開発
発表者:浅井 崇穂、梅下 和彦、櫻井 光智子、坂根 慎治
サンスター株式会社 研究開発推進部
【サンスターグループについて】
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100年mouth 100年health
人生100年時代、サンスターが目指すのは、お口の健康を起点とした、全身の健康と豊かな人生。毎日習慣として行う歯みがきなどのオーラルケアは、お口の健康を守り、そして全身の健康を守ることにもつながっています。
100年食べ、100年しゃべり、笑う。一人ひとり、自分らしく輝いた人生、豊かな人生を送るためにも、お口のケアを大切にしていただきたいと考えています。今後もお口の健康を起点としながら全身の健康に寄与する情報・サービス・製品をお届けすることで、人々の健康寿命の延伸に寄与することを目指していきます。
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