大分県の安心院(あじむ)地域から発見された約350万年前のサイの化石を報告しました

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琵琶湖博物館の半田直人学芸員らが、大分県宇佐(うさ)市の安心院(あじむ)地域から発見された哺乳類の化石を調査し、約350万年前のサイ類の下顎であることを明らかにしました。
 日本でこの時代のサイ化石は少なく、今回で4例目となります。調査の結果、本地域のサイ化石は同時代の中国北部にいた種類に近いと思われ、その地域から当時の日本に渡ってきた可能性が考えられます。詳細は別紙をご覧ください。

 本研究の成果は、国際誌の『ヒストリカル・バイオロジー』誌において、5月29日にオンライン公開されま

安心院地域から見つかったサイの下顎化石(所蔵:琵琶湖博物館)安心院地域から見つかったサイの下顎化石(所蔵:琵琶湖博物館)

した。また本研究は下記の共同研究者によって行われました。

・半田直人(琵琶湖博物館)
・加藤敬史(倉敷芸術科学大学)
・高橋啓一(琵琶湖博物館)
・馬場理香(日立製作所)
・北林栄一(日田市立博物館)
 

  • 論文情報

・雑誌名:『Historical Biology』
・論文題名:『An additional remain of Pliocene Rhinocerotidae from Ajimu, western Japan』
・著者:半田直人(琵琶湖博物館)・加藤敬史(倉敷芸術科学大学)・高橋啓一(琵琶湖博物館)・馬場理香(日立製作所中央研究所)・北林栄一(日田市立博物館)
・発行:2023年5月29日
(Online版 アドレス:https://doi.org/10.1080/08912963.2023.2217197
・ページ数:7ページ

 <詳細情報>

  • さまざまな動植物化石が見つかる安心院地域

 大分県安心院盆地には鮮新世*にあたる時代の淡水域の地層が広がっており、そこから様々な動植物化石が発見されています。これまでも絶滅したゾウの仲間であるミエゾウのほか、シカやクマ、小型動物ではネズミの化石が発見されています。このほかカメやワニ、ヘビといった爬虫類、鳥類、さらにはたくさんの魚類の化石も知られています。日本国内において、安心院地域の化石と同時代で多様な動植物化石が見つかる場所は少なく、これらの化石群は安心院動物化石群として紹介されています。これまで琵琶湖博物館も多くの研究者と協力しながら、安心院地域の化石やそれらが見つかる地層の調査に取り組んでおり、その成果は琵琶湖博物館研究調査報告18号、31号で公表してきました。

*鮮新世・・・約533万年前から約258万年前の範囲の時代
 

  • 新たに発見されたサイの下顎化石

 共同研究者の一人である北林氏が安心院地域で調査中、今回の哺乳類化石を発見しました。共同研究者の北林氏と加藤氏によって化石産地の地層を調べたところ、この化石の見つかった地層の時代はおよそ350万年前と考えられています。検討を重ねた結果、この化石はサイの右下顎の化石であることが明らかになりました。これまで安心院地域からサイの下顎の歯が発見されているため、今回のサイ化石の発見は同地域で2例目となります。また日本国内において鮮新世のサイの骨や歯の化石は少なく、今回の発見は4例目です。今回報告したサイ化石の具体的な種類は不明ですが、現在も生きているサイを含むサイ亜族というグループの仲間と考えられます。
 

  • 中国から日本へやってきたかもしれない安心院地域のサイ

 安心院地域のサイがいつ、どこから当時の日本へやってきたのか、その詳細は分かっていません。今回の発見によって、ひとつの考えとして当時の中国北部からやってきた可能性が考えられます。鮮新世の当時、一時期を除いて日本列島はアジア大陸の一部であったといわれています。そのため、陸続きであった当時の日本へアジア大陸からさまざまな動物が移動したと考えられています。安心院地域のサイ化石は中国北部で見つかるサイ化石と形態が似ていることから、おそらくその地域にいたサイの一種が日本に渡ってきた可能性が考えられます。琵琶湖周辺から見つかっているミエゾウの祖先もまた、中国北部にいたゾウの仲間と考えられています。もしかしたらサイも同じ道筋を通って日本へ渡ってきたのかもしれません。今後より多くのサイ化石が国内各地から発見されることで、この考えを検討できるでしょう。

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