本提言は、「既設インフラを最大限活用する仕組みの開発」「官民協働による新たな仕組みの開発」「長期的・連続的な流域経済価値創出のための仕組みの開発」の3つの観点による、8つの提言で構成されています。
本提言は、以下からご覧になれます。
ダムの治水・発電併用やデータ連携を起点にした流域全体の災害対策・地域振興に向けた政策提言
■背景と目的
気候変動の影響で水害が年々激甚化する一方、高度成長期に整備されたダムを中心に多くの治水インフラで老朽化が進んでおり、中には土砂や流木などの流入に維持管理が間に合わず、貯水機能が損なわれているケースも見られるようになりました。しかし、厳しい財政状況と人口減少に直面している地方自治体などにとって、ダムを新設することはもとより、維持管理に必要な費用の捻出や専門人材の確保などさえも容易なことではありません。
そこで、流域全体に点在するダムの貯水能力を引き上げたり、ダム以外で貯水能力のある既設インフラを活用したりするなど、費用を抑えながら総合的な貯水能力を引き上げられる方法の開発が求められるようになりました。また、発電能力を増強し収益性を高めることによって、ダムや流域への積極的な投資を促しながら、民間企業や地域コミュニティなどに新たな治水の担い手として参画してもらうことが、ダムの維持管理や地域振興にとって非常に重要と考えられるようになってきています。
日本総研では、流域全体の治水効果を高めながら、新たな地域価値を創出するこの構想を「流域DX」として本研究会で検討し、必要な施策や規制緩和について本提言として取りまとめました。
■本提言の概要
【既設インフラを最大限活用する仕組みの開発】
台風などの前に水位を下げて洪水調節容量を確保することと、水位を上げて発電に使う利水容量を確保することを、一つのダムで同時に満たすことは難しく、これまでは目的別にダムを建設するか、多目的ダムであっても利水容量を抑えた運用を行うのが一般的でした。
しかし、近年では、情報通信技術を活用して各地点の水位を詳細に管理することで、水田やため池、家庭や施設の貯水槽などを治水にも利用できるようになりました。また、精度が高くなった気象予測技術などを活用することで、洪水のリスクを高めずにダムの制限水位を引き上げ、利水容量、つまり発電容量を増やす研究が進められています。日本総研では、この技術によって、本来は洪水防止の際にしか水を貯めない洪水調節用ダムに水を貯め、発電に利用することも可能と考えています。
本提言では、ダムの新設に頼らず、既存インフラを最大限活用する上記の施策によって、治水能力を維持・向上させながら発電容量を増強することを提言しています。こうして収益性を高めることで、民間企業などからの投資や発電事業への参画を呼び込み、ダムの維持管理費や専門人材の確保を図ります。また、ダムの建設費用の一部を、建設後にダムを利用することになった事業者に負担を求めるバックアロケーションについても、使用水量や売上比率による費用負担への見直しを提言しています。
【官民協働による新たな仕組みの開発】
上記の施策は、自治体などが持つ水利権とダム使用権を活用しながら、民間企業が治水や発電、そして発電収益の一部を流域・水源地に還元する事業を行うものです。
本提言では、こうした事業のための新しいスキームとして、特別目的会社(SPC)を設立することを提言しています。このSPCは、下流域の水位データをダムに共有するとともに、ダムの発電利用のための天候予測、流入量予測データを河川管理者と共有します。また、中長期的には、農業用水や工業用水、水田、ため池、貯水槽などとの情報連携を行うことで、流域単位での水管理を統合し、管理者間での情報共有および運用の迅速化を図ります。
【長期的・連続的な流域経済価値創出のための仕組みの開発】
流域DXの構想では、中長期的には、ダムによる施策に限らず流域全体での治水・利水といった水管理を多くのステークホルダーと協働していくことになります。
本提言では、自治体や河川管理者、システム事業者、インフラ事業者、住民へのサービスを提供する事業者、地域企業などを取りまとめ、流域の安心安全、生物多様性と治水の両立等を推進する体制を構築することを提言しています。
■構成員(敬称略)
【一般会員】
株式会社日本総合研究所(事務局・代表幹事)
株式会社IHI
株式会社安藤・間
鹿島建設株式会社
株式会社JSOL
静岡ガス株式会社
東芝インフラシステムズ株式会社
株式会社日立製作所
株式会社明電舎
横河ソリューションサービス株式会社
【協力会員】
北九州市
鳥取市
ほか
【アドバイザー】
京都大学防災研究所 教授 角哲也
国立研究開発法人 防災科学技術研究所 総合防災情報センター 取出新吾
(注1)
年々激甚化が進む水害への対策として、流域全体に点在する既設インフラの活用や気象・河川情報をデジタル技術で連携させることによる治水方法を検討するために設立した研究会。
既設インフラ活用などによる流域全体の治水対策の研究会を設立(ニュースリリース/2022年9月1日)