顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)は、16億人以上の人々に影響を与える20以上の熱帯感染症を中心とした疾患群であり、特に低中所得国の貧しい地域に偏り分布し、人々の健康や生活に大きな影響を与えています。NTDsの中には、診断薬、ワクチン、治療薬などの新たな医療技術が必要なものが多いにもかかわらず、資金や人材が不足し、研究開発が進んでいません。これまで47カ国が少なくとも1つのNTDsを制圧し、2010年と比較すると2020年にはNTDsに対する治療を必要する人が6億人も減少したという進展があった一方で、COVID-19の流行と世界経済の減速により、これまでの進展を脅かしています。継続的な行動を起こさない限り、これまでの成果を覆す恐れがあります。
顧みられない熱帯病(NTDs)制圧に関する声明「長崎アウトカム・ステートメント」は、世界中の産官学民ステークホルダーによるコミットメントである「キガリ宣言*2」を再認識し、NTDsの研究開発やアクセス&デリバリーを加速させるものです。長崎でG7保健大臣会合が開催されるにあたり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ*3の重要性とパンデミック対策に対して国際的な取り組みの強化を促すために策定しました。
「長崎アウトカム・ステートメント」の骨子は以下の通りです。
1)顧みられない熱帯病(NTDs)の研究開発の加速化
2)顧みられない熱帯病(NTDs)のアクセス&デリバリーの加速化
3)研究開発とアクセスの加速化のための連携・協力強化と、そのための環境整備
※長崎アウトカム・ステートメントの詳細は、まとまり次第、公表します。
GHIT FundのCEOである國井修は「G7の議長国である日本から世界に向けて、顧みられない熱帯病(NTDs)の現状を発信し、世界の産官学民のステークホルダーと一緒に課題解決に向けて前進できたと確信しています。当基金の役割は、パートナーの皆さまとともに、これまで以上に研究開発の加速化を目指し、イノベーションと製品開発を推進するため日本と世界の架け橋となることです」と述べています。
長崎大学の河野茂学長は「新型コロナウイルス感染症のパンデミック対策に多くの資源が割かれ、対策や研究などが大きく後退した顧みられない熱帯病(NTDs)に対して、世界保健機関(WHO)による緊急事態宣言の終了が発表されたこの時期に、NTDs対策と研究開発の再活性化の必要性をG7議長国である日本から発信できた意義は大きいと思います。日本を代表する熱帯医学研究施設を持つ本学は、学術界のみならず、産官学民を繋ぎ、世界のNTDs対策に貢献してまいります」と述べています。
Uniting to Combat NTDsのエグゼクティブ・ディレクターであるThoko Elphick-Pooley氏は、「私たちはG7がNTDsに関するキガリ宣言を支持したことに敬意を表します。UnitingはWHOのNTDロードマップで定められた目標の達成のため、G7首脳に対し新薬・診断薬の研究開発やイノベーションへの投資、NTDsのための持続的な資金調達を継続的に働きかけます。この投資により、最も弱い立場にある人々が効果的な治療や予防策を享受できるようになります。NTDsプログラムへの投資は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とパンデミックへの予防、備え・対応(Prevention, Preparedness, Response: PPR)の取り組みというG7の優先事項を達成するために不可欠です。NTDsの制圧のために早急な行動が必要です。今が正念場です。G7が一丸となって行動すれば、野心的な目標を達成することができます」と述べています。
*1 長崎アウトカム・ステートメント「顧みられない熱帯病(NTDs)」コミュニティ一同(順不同)
公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)、国立大学法人長崎大学、Uniting to Combat NTDs、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(DNDi)、The END Fund, The Global Health Innovation Alliance Accelerator (GHIAA)、Global Institute for Disease Elimination (GLIDE)、日本顧みられない熱帯病アライアンス (JAGntd )、日本製薬工業協会(JPMA )、Medicines Development for Global Health、Merck KGaA、MSF Access Campaign (国境なき医師団)、小児用プラジカンテル・コンソーシアム、SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)、世界保健機関(WHO)グローバルNTDプログラム及びアフリカ地域事務所(AFRO)、ベイラー医科大学、the Special Programme for Research and Training in Tropical Diseases (TDR)、国連開発計画-アクセス&デリバリーパートナーシップ
*2 キガリ宣言(「顧みられない熱帯病(NTDs)に関するキガリ宣言」)について
「顧みられない熱帯病(NTDs)に関するキガリ宣言」は、2022年6月にルワンダで開催された「マラリアと顧みられない熱帯病(NTDs)のキガリサミット」において発表されたNTDs制圧に関わるステークホルダーズのコミットメントです。「キガリ宣言」では、国連の持続可能な開発目標(SDGs)目標3に掲げるNTDs制圧ターゲットならびにWHOのNTDs ロードマップ(2021-2030)の達成、2030年までに、2つのNTDsを根絶、100カ国において少なくとも1つのNTDsを制圧、そしてNTDsの治療介入を必要とする人を90%減らすことを目指しています。
出典:外務省:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100362515.pdf
エーザイ株式会社:https://www.eisai.co.jp/news/2022/news202250.html
*3ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは、「全ての人が生涯を通じて必要な時に基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられること」を意味しており、2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)においても、ゴール3(健康と福祉)の中でUHCの達成が掲げられています。日本は50年以上前の1961年に、国民皆保険制度を実現するなど、保健医療システムの整備が進められ、医療格差が減少したことにより、今日、日本国民は世界一の平均寿命を享受しています。日本政府は、2015年9月に発表した「平和と健康のための基本方針」の中でUHCの推進を政策目標や基本方針として掲げるとともに、日本の経験を活かして、各国のUHC実現に向けて積極的に取り組んでいます。出典:日本製薬工業協会https://www.jpma.or.jp/about/
G7長崎保健大臣会合開催記念 国際シンポジウム
『顧みられない熱帯病に対する研究開発とアクセス&デリバリーの加速化に向けて』概要
【テーマ】:顧みられない熱帯病に対する研究開発とアクセス&デリバリーの加速化に向けて
【日 時】:令和5年5月12日(金)12:00-14:00
【会 場】:ザ・グローバルビュー長崎(長崎県長崎市宝町2−26)
【司 会】:グローバルヘルス技術振興基金 投資戦略 シニアディレクター 浦辺隼
【登壇者および式次第】(敬称略)
· オープニングスピーチ 長崎大学学長 河野茂
· ビデオメッセージ 参議院議員 財務副大臣 秋野公造
· NTDs対策の世界的な潮流、ニーズ、進捗について、WHOの新NTD部長のビジョン
WHO Global NTD Program部長 Dr Ibrahima Socé Fall
· 日本のNTDsへの貢献、産業界の視点から
日本製薬工業協会 常務理事 中川祥子
· NTDs対策になぜ協調と協力が重要なのか?
Uniting to Combat NTDs エグゼクティブ・ディレクター Thoko Elphick-Pooley
· 製品開発パートナーシップとは何か、NTDとの闘いにおけるその役割
DNDi 代表 ルイス・ピサロ
· 出資者の視点、なぜNTDに投資するのか?
ビル&メリンダ・ゲイツ財団 顧みられない熱帯病ディレクター
ケイティ・アインテルス・オウエン
· アクセスを調整するには?
Director, Special Programme for Research and Training in Tropical Diseases and Director, the Research for Health Department at the World Health Organization ジョン・リーダー
· Closing Remarks
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院教授、欧州委員会委員長 COVID-19特別顧問
ピーター・ピオット
【協力】DNDi Japan、日本顧みられない熱帯病アライアンス (JAGntd )、日本製薬工業協会(JPMA)、SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)、日経FT感染症会議、朝日新聞
【グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)について】
公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は、日本政府(外務省、厚生労働省)、製薬企業などの民間企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム、国連開発計画が参画する国際的な官民ファンドです。世界の最貧困層の健康を脅かすマラリア、結核、顧みられない熱帯病(NTDs)などの感染症と闘うための新薬開発への投資、ならびにポートフォリオ・マネジメントを行っています。治療薬、ワクチン、診断薬を開発するために、GHIT Fundは日本の製薬企業、大学、研究機関の製品開発への参画と、海外の機関との連携を促進しています。詳しくは、https://www.ghitfund.org をご覧ください。
【国立大学法人 長崎大学について】
長崎大学は,1857年にオランダ人医師ポンペ・ファン・メールデルフォールトにより行われた日本初の医学伝習を創基とし,戦争被爆による壊滅の体験を経て,1949年各種専門教育機関を糾合し、5学部1研究所から構成される新制大学として再構築された大学です。現在(2023.4現在)は、10学部8研究科(研究科等連係過程含む)からなる総合大学となっており、基本理念として「長崎に根づく伝統的文化を継承しつつ、豊かな心を育み、地球の平和を支える科学を創造することによって、
社会の調和的発展に貢献する。」ことを掲げ、世界的〝プラネタリーヘルス″教育研究拠点となることを目標として教育、研究、社会貢献等を推進しています。
【Uniting to Combat NTDsについて】
Uniting to Combat NTDsは、世界保健機関(WHO)のNTDsロードマップと持続可能な開発目標を支援し、リソースを動員してNTDsを終わらせるために存在しています。私たちは予防や治療が可能なこれらの病気に苦しむ人がいなくなる世界を目指しています。また、世界中の150を超えるパートナーと協力し、NTDsの危機に対処するための政治的意思と変化を可能にする環境を構築しています。私たちはともに、NTDsへの投資を支持します。