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公衆衛生を口実にした難民封じ
2020年にトランプ政権によって発動され、バイデン政権によって何度も延長されたタイトル42は、新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に、米国に保護を求める人びとを阻止し、追放してきた。米国から280万人余りが合法的に追放され、多くの人びとが暴力の脅威にさらされる状態でメキシコの都市に放置された。
MSFは、レイノサ、マタモロスなど国境沿いのメキシコ側の都市で医療援助活動を行ってきた中で、この政策によって弱い立場にある人びとが基礎的な診療や心のケアを受けられず、避難所や食料も不足する中で、暴力や搾取など危険にさらされる様子を目撃してきた。
メキシコと中米におけるMSFの現地活動責任者、アドリアナ・パロマーレスは、「私たちはタイトル42の失効に伴って、保護を求める人たちを救済する手続きの復活を期待していました。しかし、バイデン政権は難民申請を禁じる新たなルール造りに注力しているようです。多くの人びとが保護を切実に必要としており、抑止策に効果はないことは明らかで、実際には暴力と危険にさらされる人が増えるだけです」と警鐘を鳴らす。
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難民申請を阻む新たな規制
タイトル42が失効し、米国政府はタイトル8と呼ばれる既存の移民審査に戻る。タイトル8では、米国への不法入国を繰り返した場合、5年から20年間は、米国への入国や難民申請を禁じられる可能性や刑事責任を問われる場合がある。またバイデン政権は、米国南部国境に向かう途中で他国を通過する者が無許可で米国に入国した場合、その難民申請を認めないとする新たな規制も発表した。
さらにバイデン政権による新たなルールの問題の一部に、「CBP One」というスマートフォンのアプリを通じて行う難民申請手続きが挙げられる。MSFが集めた証言によると、一部のスマートフォンではアプリが正常に動作しない、1日あたりの手続きの予約枠が非常に少ない、特定の都市でしか手続きができない、電源やインターネット接続が無い人や読み書きのできない人は申請すらできないなどの問題が浮かび上がる。
パロマーレスは、「バイデン政権は、安全で公正かつ人道的な移民制度を構築すると約束しました。しかし実態は、国境で難民申請を求める人びとを遠ざける方法を継続または拡大しています。MSFが移民ルートで治療する多くの患者にとって、母国に帰るという選択肢はありません。移民を追い返したり、勾留したり、放置したり、あるいは意図的に審査を難しくして、米国行きをあきらめさせようとするのは、相手を危険にさらすだけの残酷な政策です」と訴える。