そこで帝国データバンクは、電気料金の値上げの影響などについてアンケートを行った。同様の調査は2022年12月に続き2回目。
- 電気料金の総額、1年前と比べ39.4%増加
- 57.2%の企業が全く価格転嫁できず。全体の転嫁率は14.9%にとどまる
調査期間:2023年4月10日~13日(インターネット調査)
調査対象:有効回答企業数は1,097社
調査機関:帝国データバンク
電気料金の総額、1年前と比べ39.4%増加
電気料金の総額が1年前と比べてどのように変化したかを尋ねたところ、「【増加】20~40%未満」とした企業が全体の33.1%で最も高かった。次いで「【増加】40~60%未満」(21.1%)、「【増加】20%未満」(20.0%)が続いた。【増加】した企業の合計は93.6%に達し、9割超の企業で1年前より電気料金の総額が増加した。他方、「変わらない」は3.3%、「減少」は1.0%だった。電気料金の総額は1年前より平均*1で39.4%増え、約1.4倍に増加した。
2022年12月に実施した前回調査と比べると、【増加】した企業を合わせた割合は7.0ポイント増加(前回調査86.6%⇒今回調査93.6%)。20%以上増加した企業の割合が高まっており、料金変化率の平均は10.7ポイント上昇(同28.7%増⇒同39.4%増)。
企業からは、「新電力会社との契約更新時に価格が2.5倍になるため、別の新電力会社を見つけて契約したが、年間400~500万円のコストアップ」(金属プレス製品製造)や「新電力会社が電力供給を止め、大手電力会社に変更したが、電力料金は前期の2倍以上になった」(旅館)と、大手・新電力会社を問わず大幅に電気料金が上昇しているとの声が聞かれた。他方、「昨年に駐車場の電灯のLED化やエアコンを入れ替えた結果として、使用量が減少し、電気料金の総額はほぼ変わらなかった」(鉄鋼卸売)と、節電策の実施で使用量を削減したことが奏功し、電気料金の総額を抑えられた企業もあった。
57.2%の企業が全く価格転嫁できず。全体の転嫁率は14.9%にとどまる
電気料金の増加分を販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているかを尋ねたところ、『全く価格転嫁できていない』と回答した企業が57.2%と6割近くを占めた。
一方、『多少なりとも価格転嫁できている』企業は42.8%だった。内訳をみると、電気料金の増加分に対し、「2割未満」と回答した企業が20.7%で最も多く、「2割以上5割未満」が10.1%、「5割以上8割未満」が7.1%で続いた。
今回の価格転嫁の回答から算出した電気料金の増加分に対する販売価格等への転嫁割合を示す「価格転嫁率*2」は14.9%にとどまった。これは電気料金が100円増加した場合に14.9円しか販売価格等に反映できていないことを示している。
前回調査(2022年12月)と比べると、『多少なりとも価格転嫁できている』企業の割合は13.2ポイント増加(前回調査29.6%⇒今回調査42.8%)し、「価格転嫁率」も5.0ポイント上昇(同9.9%⇒同14.9%)した。
企業からは、「部品や原材料の値上げ分の転嫁が目先の課題で、電力代まで手が回らない」(電気機械器具卸売)や「原材料の転嫁が精一杯。それ以上の価格改定は客足が遠のきそうで転嫁できない」(美容)と、原材料価格の上昇分を価格転嫁する事に取り組むなかで、電気料金までは厳しいという声が多数聞かれた。また「競合の少ないジャンルは電気料金の値上げを概ね転嫁できているが、取引先が多い大手企業や新規開拓先は申し入れにくい」(ねん糸製造)といった競争原理が強く働く取引関係においては、転嫁が難しい実情が浮かび上がってきた。その一方で、「電気料金上昇の実績データをもとに価格転嫁の交渉を客先と行って、一部の製品の価格転嫁が実施できた」(自動車駆動・操縦・制動装置製造)とあるように、電気料金の値上がりが続くなかで、価格転嫁は低水準ながらも進んでいるケースもある。
本アンケートの結果、電気料金の総額が1年前と比べて増加した企業は9割超に達した。電気料金の総額は平均で39.4%増え、1年前の約1.4倍に膨らんだことがわかった。こうした電気料金の増加に対して、販売価格やサービス料金に『全く価格転嫁できていない』企業が57.2%と6割近くを占めた。『多少なりとも価格転嫁できている』企業は4割を超えたものの、「価格転嫁率」は14.9%にとどまり、企業の収益を圧迫する状況が続いている。
前回調査(2022年12月)に比べると、電気料金の総額が増加した企業の割合は7.0ポイント、料金変化率の平均は10.7ポイント上昇し、電気料金の値上がり継続で企業の負担が増していることを示している。そのなかで、販売価格やサービス料金に『多少なりとも価格転嫁できている』企業の割合は13.2ポイント、「価格転嫁率」は5.0ポイントそれぞれ上昇し、価格転嫁が徐々に進んではいるものの、電気料金の値上げペースに追いついていない状況といえよう。
政府は、毎月の電気料金を2023年1月使用分(2月の請求分)から9月使用分まで値引きすることを決めた。また3月には「物価・賃金・生活総合対策本部」を開き、物価の高騰を受けて総額2兆円あまりの追加策を決定、電気の使用量が多い「特別高圧」と呼ばれる契約を結ぶ中小企業への支援が行われる見通しである。
しかし、今回の調査が示す通り、電気料金の値上げによって企業負担が増し、収益環境の厳しい状況が続いているのが実情である。電気料金がコスト全体に占める割合は業種・業態によって差異はあるものの、電気料金の値上げが続くなかで価格転嫁が十分に進まなければ事業継続が難しくなる企業が増えそうだ。
<企業からの主なコメント>
電気料金の「総額」について
- 電気料金がここまで増額するとは想定していなかった。夜間工事等の場合は事務所の灯りを消灯するよう今後検討せざるを得ない状況(舗装工事)
- 社内で電力費削減委員会を設け、休憩時間などの消灯や機械電源OFFの徹底、電球のLED化で使用量を削減しているが、コストの上昇に追い付かない(印刷)
- 電気使用量は88%まで下げているが、それでも電気料金は130%と伸長(スーパーストア)
- 新電力会社と契約していたが、昨年の9月に契約解除になり、セーフティネット(最終保障供給)の電力を使用しはじめて、大幅に電気料金が上がった(建設機械・鉱山機械製造)
- 電力自由化で域外の電力会社から割安な提案を受け切り替えたが、この1年で燃料費調整単価が上昇し、電気料金が3~4割増しになった。最終的に契約を打ち切られ、当月から選択の余地なく旧契約先に戻すが、直近の1.6倍以上、1年前の2倍以上の水準(機械工具製造)
- 従来の職場環境や顧客サービスを維持するため、電気料金の抑制は困難な状況(医薬品小売)
- テナントビルに入居しているので、電気料金に変動はない。ただ先々上げるかもしれないと家主からは言われいる(ソフト受託開発)
- 高圧受電から低圧受電に切り替え、工場の水銀灯をLEDランプにして電力量を下げたことで、電気料金は減少(建築材料卸売)
価格転嫁について
- 原材料費が上昇した分の転嫁を第一優先で行っているが、完全には反映できていない。その状況下で電気料金の話をするのは難しい(フェルト・不織布製造)
- 社会的に原材料や人件費などを含めて、値上げは仕方ないといった雰囲気が醸成されてきている。ただし、値上げの相談をしたら他社に見積もりを取られて、取引がなくなった得意先もあった。簡単に値上げは行えない(印刷)
- 顧客も電気料金が上がっているため、お互い様という雰囲気で、こちら側だけが値上げできない状況(プラスチックフィルム加工)
- 現場でできる使用量の削減程度では、電気料金の上昇を抑制することが不可能な状態。価格転嫁が客数の減少に影響してしまった営業所もあり、打開策が見いだせない(結婚式場)
- 仕入価格の上昇は比較的転嫁しやすいが、製造経費となる電気代等は価格交渉において具体的な数字を出しにくい(電気メッキ)
- IT業界のビジネススタイルとして「1人月単価」に電気料金は反映しにくい(ソフト受託開発)
- 電気料金という項目で請求書を作成しておらず、転嫁はなかなか難しい(環境計量証明)
- 電気料金以外のあらゆるものが値上げとなっている環境から、価格転嫁について顧客側も納得して了承を得ることができた(食料・飲料卸売)