このたび、最新の調査結果を報告書としてまとめた「スポーツライフ・データ 2022」(調査期間:2022年6月10日~7月10日)を、2023年3月24日に刊行いたしました(Amazonブックストアなどで発売中)。新型コロナウイルス感染症は、スポーツを「する」「みる」「ささえる」にどのような影響を及ぼしたのか。実態のデータに加え、ITを活用した新しいスポーツの価値などに関する調査結果を掲載しております。
▼公式ウェブサイト
https://www.ssf.or.jp/thinktank/sports_life/datalist/2022/
- 調査結果の主なポイント
■「する」スポーツ
・年1回以上の運動・スポーツ実施率:72.9% →前回2020年調査73.3%から横ばい
・実施場所・利用施設「体育館」:13.3% → 2018年調査 20.0%、2020年調査17.1%と減少傾向
・スポーツクラブ加入率:全体16.6% → 調査以来最も低い水準
■「みる」スポーツ
・直接観戦率:19.3% → 調査以来最も低い水準
・インターネット観戦率:21.4% → 前回調査より7.5ポイント増。格闘技が6.7%で1位。
■「ささえる」スポーツ
・スポーツボランティア実施率:4.2%(調査以来最も低い水準)
■「する」「みる」「ささえる」スポーツ参画の実態
・すべてのスポーツ参画にかかわらない人が35. 6%を占めている
■ ITやテクノロジーの活用と運動・スポーツ実施
・運動・スポーツ実施者のうち、アプリ等を使用している人は、コロナ禍前と比較し実施頻度増
- 【研究担当者コメント】
今回の調査は2022年6~7月に実施された。コロナ禍の行動制限がある程度解除された時期ではあるが、調査には1年間を振り返って回答する質問が多く、新型コロナの流行や同時期の社会変化を反映した結果となった。
「する」スポーツの代表的指標である運動・スポーツ実施率については、全体では大きな変動はみられなかった。身近な場所で一人でも実施できるエクササイズ系種目(散歩、筋トレ等)の人気が高く、行動制限がある中でも多くの人が可能な方法で運動・スポーツをしていた様子がうかがえる。
一方で、体育館やグラウンドといった施設の利用は減少し、スポーツクラブ加入率も過去最低水準を記録した。また、「みる」スポーツでも直接観戦率は減少、「ささえる」スポーツでもボランティア実施率が過去最も低い水準となった。調査後のサッカーW杯やWBCの盛り上がりにみられるように、おそらく「みる」スポーツを中心に、ポスト・コロナで元の水準に戻る数値も多いだろう。対して皆で集まり、ささえあい、楽しむスポーツの衰勢については、以前からのトレンドがコロナ禍で加速した様相もあり、今後の動向についても注視が必要である。
スポーツライフの質の充実に向けて、地域のクラブ・施設・イベントをどのように活性化するか、政策や自治体の施策に加えてITやテクノロジーの活用など、さまざまな工夫が求められる。
笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター 宮本 幸子
- 主な調査結果 詳細
【「する」スポーツ】
■運動・スポーツ実施率の年次推移
・年1回以上の運動・スポーツ実施率
1992年には50. 9%と半数をわずかに超える程度であったが、2000年には70. 7%に上昇した。その後、2006年までは60%台から70%台の範囲を行き来し、2008年以降は70%台での横ばい状態が続いている。今回の2022年調査では72. 9%となり、前回調査から0. 4ポイント減少したが、年1回以上の運動・スポーツ実施率の大きな変化はみられない。
・週1回以上の運動・スポーツ実施率
1992年の23. 7%から漸増を続けていたが、2012年の59. 1%から2016年まではわずかに減少傾向へと転じ、定常状態となっていた。2018年に再び上昇し、2020年には過去最高の59. 5%となったが、今回の2022年調査では58. 5%となり、前回調査を1. 0ポイント下回った。
・週2回以上の運動・スポーツ実施率
1992年の16. 1%から漸次増加を続け、2000年には40%台に達した。2008年以降は40%台後半で推移する。今回の2022年調査では49. 1%となり、前回調査を0. 8ポイント下回った。
・アクティブ・スポーツ人口
週2回以上、実施時間1回30分以上、運動強度「ややきつい」以上という3つの条件をクリアしている運動・スポーツ実施者を「アクティブ・スポーツ人口」と定義し、その割合を追跡している。2014年以降はゆるやかな増加傾向が続いていたものの、2022年調査の割合は20. 2%で、前回調査を1. 9ポイント下回った。
図表1. 運動・スポーツ実施率の年次推移
注1) 2014年までは20歳以上、2016年以降は18歳以上を調査対象としている。
注2) アクティブ・スポーツ人口:運動・スポーツ実施レベル4(週2回以上、1回30分以上、運動強度「ややきつい」以上の実施者)
資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022
■年1回以上の種目別運動・スポーツ実施率(年代別)
18・19歳は「筋力トレーニング」、20歳代から40歳代、60歳代は「散歩(ぶらぶら歩き)」、50歳代と70歳以上では「ウォーキング」が1位であった。これらの種目以外に、「ジョギング・ランニング」「体操(軽い体操、ラジオ体操など)」もすべての年代において上位15種目に入る。「ジョギング・ランニング」は、40歳代以下では上位5位以内に入るが、50歳代以降では順位が低くなる。
・2020年調査との比較
18・19歳で「散歩(ぶらぶら歩き)」が33. 3%から21. 3%へ、「ウォーキング」が20. 8%から14. 7%へ、20歳代では「筋力トレーニング」が29.7%から23.3%へ、30歳代では「筋力トレーニング」が23. 1%から17. 6%へと、それぞれ減少した。これらの実施率は2018年から2020年にかけて増加し、その後2022年調査において減少した点で共通している。2020年には若年層において、コロナ禍でも特定の施設を必要とせず一人で行える種目の実施率が大きく増加したが、2022年はその傾向が落ち着き、2018年と同程度に戻っている。
図表2. 年1回以上の種目別運動・スポーツ実施率(年代別:複数回答)
資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022
■運動・スポーツの実施場所・利用施設の年次推移
過去1年間に「よく行った」(実施頻度の高い)運動・スポーツ種目の実施場所・利用施設の年次推移を示した。2018年調査以降は「道路」の利用率が最も高く、2018年の50. 3%から2020年の57. 3%へと7. 0ポイント増加した。2022年は56. 9%で前回調査と同程度であった。2位は「自宅(庭・室内等)」で、2018年の23. 9%から2020年の32. 9%へと9. 0ポイント増加し、2022年では31. 3%となった。
2018年と2020年の3位は「体育館」であったが、2018年20. 0%、2020年17. 1%、2022年13. 3%と徐々に減少し、2022年は「公園」に抜かれ、4位となった。新型コロナウイルス感染症の拡大による運動・スポーツ施設の利用制限が続き、2020年に増加した自宅および自宅周辺の公共空間の高い利用率が継続していると考えられる。
図表3. 運動・スポーツの実施場所・利用施設の年次推移(全体:複数回答)
資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022
■スポーツクラブ・同好会・チームへの加入状況
スポーツクラブや同好会・チーム(以下、スポーツクラブ)への加入状況をたずねた。調査を開始した1992年の加入率は19. 7%で、1994年の16. 9%に減少した後、2000年22. 0%まで上昇が続く。その後、2006年18. 4%まで再び下降するが、全体的には横ばい状態にある。2014年20. 0%を起点に、2016年18. 1%、2018年18. 5%、2020年17. 3%と再び下降の推移をみせ、今回の2022年調査では16. 6%と調査開始以降最も低い水準となった。
性別にみると、1992年は男性24. 2%、女性15. 6%と8. 6ポイントの差があったが、今回の2022年調査では男性16. 9%、女性16. 2%となり、加入率の男女差はほとんどない。
図表4. スポーツクラブ・同好会・チームへの加入率の年次推移(全体・性別)
注)2014年までは20歳以上、2016年以降は18歳以上を調査対象としている。
資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022
【「みる」スポーツ】
■直接スポーツ観戦率
過去1年間にスタジアムや体育館等で直接スポーツを観戦した者の割合(直接スポーツ観戦率)は、2022年は19. 3%であり、前回2020年の21. 8%から2. 5ポイント減少し、1994年以降で最低となった。
また、今回の結果から、過去1年間のわが国における直接スポーツ観戦人口は2, 035万人と推計された。2020年の調査時には、設問でたずねている「過去1年間」には、新型コロナウイルス感染拡大前の時期が半年ほど含まれていた。それに対して2022年調査の対象となる期間は、「過去1年間」を通してコロナ禍にあった。そのため、直接観戦の機会がより限られていたと推察される。
図表5. 直接スポーツ観戦率の年次推移
注)2014年までは20歳以上、2016年以降は18歳以上を調査対象としている。
資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022
■インターネット観戦率
インターネットによるスポーツ観戦率の年次推移を示した。2022年のインターネットスポーツ観戦率は全体の21. 4%で、前回2020年の13. 9%から7. 5ポイント増加した。今回の結果から、過去1年間のわが国におけるインターネットスポーツ観戦人口は、2, 257万人と推計された。
図表6. インターネットによるスポーツ観戦率の年次推移
資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022
過去1年間にインターネット観戦した上位5種目を示した(図表7)。1位は「格闘技(ボクシング、総合格闘技など)」6. 7%で、2位以降は「プロ野球(NPB)」5. 6%、「メジャーリーグ(アメリカ大リーグ)」4. 7%、「海外プロサッカー(欧州、南米など)」「サッカー日本代表試合(五輪代表・なでしこジャパン含む)」が同率で3. 4%であった。18歳以上人口を乗じて推計観戦人口を算出すると、1位の「格闘技(ボクシング、総合格闘技など)」は707万人であった。
2020年と比較すると、男性では「格闘技(ボクシング、総合格闘技など)」が4. 8%から11. 0%へと、「メジャーリーグ(アメリカ大リーグ)」が3. 4%から8. 2%へと増加した。
図表7. インターネットによる種目別スポーツ観戦率(全体・性別:複数回答)
資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022
【「ささえる」スポーツ】
■スポーツボランティアの実施率
過去1年間にスポーツボランティアを行った者の割合を示した。2022年調査におけるスポーツボランティア実施率は4. 2%で、2020年の5. 3%から1. 1ポイント減少し、スポーツボランティア実施状況の調査を始めた1994年以降、最も低い実施率となった。新型コロナウイルス感染症の流行によるスポーツボランティアの活動機会の減少が、実施率の低下をもたらしたと予想される。
図表8. スポーツボランティア実施率の年次推移
注)2014年までは20歳以上、2016年以降は18歳以上を調査対象としている。
資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022
【「する」「みる」「ささえる」スポーツ参画の実態】
「する」「みる」「ささえる」スポーツ参画の構成比をみる。国民のスポーツ参画は「する」側面に偏っており、同時に「ささえる」参画が弱くかつ減少傾向にあるため、極端に偏った状態にある。そして「する」「みる」「ささえる」すべてのスポーツ参画にかかわる人がわずか2. 1%でしかないこと、すべてのスポーツ参画にかかわらない人が35. 6%を占めることを、まずは認識する必要がある。その上で、政策としての「する」「みる」「ささえる」スポーツ参画を促進していかなければならない。
図表9. 2022年時点の「する」「みる」「ささえる」スポーツ参画の構成
資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022
【ITやテクノロジーの活用と運動・スポーツ実施】
運動・スポーツ実施者の、コロナ禍前と比べた運動・スポーツの実施頻度の変化を、使用したアプリ・ゲーム等の種類別にみる。運動・スポーツ実施者全体では、コロナ禍前と比べ「増えた」が14.8%、「変わらない」が48.2%、「減った」が35.2%であった。
運動・スポーツ実施者全体で、コロナ禍前と比べ「増えた」が14.8%であるが、アプリやインターネットを使用している人では、「増えた」が、「健康・ヘルスケアデータの管理用アプリ」使用者25.3%、「ウェアラブル端末」24.9%、「インターネット上の無料動画」22.4%、「トレーニング・運動の記録用アプリ」使用者では21.3%となっている。ITやテクノロジーを活用している人は、活用していない人と比較して「増えた」が10ポイント程度高い。「減った」と回答した割合に、大きな差はなかった。
今回の結果から因果関係にまで言及することはできないが、ITやテクノロジーの活用によって、運動やスポーツの実施頻度を増加させる可能性が示唆されたといえるだろう。
図表10. コロナ禍前と比べた運動・スポーツの実施頻度の変化(使用したアプリ・ゲーム等の種類別)
注1)使用したアプリ・ゲーム等は複数回答。
注2)グレー網掛けはサンプル数が少ないため参考値として扱う。
資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022
- 「スポーツライフ・データ2022」調査概要
調査内容:運動・スポーツ実施状況、運動・スポーツ施設、スポーツクラブ・同好会・チーム、スポーツ観戦、スポーツボランティア、日常生活における身体活動、生活習慣・健康 他
調査対象:全国の市区町村に居住する満18歳以上の男女3,000人(男性: 1,503人、女性1,497人)
地点数:300地点(大都市90地点、人口10万人以上の市122地点、人口10万人未満の市64地点、町村24地点)
調査時期:2022年6月10日~7月10日
SSFスポーツライフ調査委員会:
委員長 高峰 修 明治大学 政治経済学部 教授
委員 青野 博 公益財団法人 日本スポーツ協会 スポーツ科学研究室 室長代理
委員 大勝 志津穂 愛知東邦大学 人間健康学部 教授
委員 甲斐 裕子 公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所 上席研究員
委員 鎌田 真光 東京大学大学院 医学系研究科 講師
委員 佐々木 玲子 慶應義塾大学 体育研究所 教授
委員 澤井 和彦 明治大学 商学部 准教授
委員 野井 真吾 日本体育大学 体育学部 教授
委員 横田 匡俊 日本体育大学 スポーツマネジメント学部 准教授
委員 吉田 智彦 公益財団法人 笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 シニア政策ディレクター
(所属・肩書は刊行時)
笹川スポーツ財団
宮本 幸子 スポーツ政策研究所 政策ディレクター
武長 理栄 同 シニア政策オフィサー
鈴木 貴大 同 政策オフィサー
姜 泰安 同 政策オフィサー
- スポーツライフ・データ2022
発売日:2023年3月24日
仕様:A4判 / 204ページ
価格:定価 3,300円(本体 3,000円+税 10%)
調査結果:
1. 運動・スポーツ実施状況
2. スポーツ施設
3. スポーツクラブ・同好会・チーム
4. スポーツ観戦
5. 好きなスポーツ選手
6. スポーツボランティア
7. 日常生活における身体活動・座位行動
8. 体力の主観的評価・体格指数・生活習慣