〈基調講演〉
●共生社会の実現に対する貢献が 企業の持続可能な発展につながる
浜市立大学都市社会文化研究科教授・CSR&サステナビリティセンター長
影山 摩子弥さん
・企業に期待されるものとは
現在、共生社会の実現は大きな課題となっており、行政機関などさまざまな組織が取り組みを行っています。特に、企業による取り組みには、大きな期待が寄せられています。
共生社会とは、様々な人々が排除されず、一方的な負担を負うこともなく、人として尊重されつつ、ともに社会を形成している状態であり、全ての人が人としての権利を認められ、尊重される社会のことです。企業には人権擁護の取り組みが期待されています。
なぜ企業にそのような期待が寄せられるかというと、企業では多くの人々が働いており、労働は人々の生活の中でも大きな領域を占める上、プライベートの部分など労働以外の生活領域へも影響を及ぼすことから、資金力も含め企業の社会に対する影響力は非常に大きいものがあります。そのため、人権擁護の取り組みを企業が実践していくことは不可欠です。
国際的な機関や行政機関も企業に対して働きかけを図ってきています。国連は2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を作り、日本政府はこれを受けて2020年に「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-25)」を策定しました。
また、これらの取り組みを企業が行う際には、経営戦略的な観点を持って取り組むことが重要です。それを端的に示しているものの代表的な例が、SDGsです。実際に、SDGsの17の目標を、企業が取るべき行動指針へと具体化した「SDGコンパス」という文書があります。その中には「世界にとって重要な課題を解決することが、企業の価値を向上させる。その結果、売り上げの上昇や人材の確保につながる」ということが記載されています。
・中小企業においても業績が向上した事例あり
日本の中小企業においても、人材の多様化が業績の上昇につながった事例はいくつもあります。例えばある運送会社では、性的マイノリティの方や障害者の方にも働きやすい環境を整えたところ、「あの会社は従業員思いだ」という評判が広まって、優秀な人がたくさん入社したそうです。
また、ある印刷会社では、障害者や外国人実習生がいる職場は周りがやさしくなったそうです。このような場合、人間関係が良くなり、互いに思っていることを素直に発言できるため、会社全体の生産性が上がることになります。
企業の方には、「人権に配慮すれば事業によい影響がある」ということも意識しながら、取り組みを進めていただけたらと思います。
〈基調報告〉
●多様な障害のある社員が幅広い職場で活躍している
株式会社資生堂 人財本部ビジネスパートナー室
ダイバーシティ採用・サポートグループ グループマネージャー
大西 敦博さん
資生堂グループは「ビューティーイノベーションでよりよい世界を」という企業ミッションの達成のために、人材の多様化が不可欠だと考えています。なぜなら、イノベーションは、さまざまな人材が集まり、お互いの価値観を認め合うことで生まれるからです。
当社の障害者雇用の特長は、障害の種類や程度が異なる社員が、幅広い職場で働いているということです。2022年の障害者雇用率は2.62%、障害を持つ社員の数は375名で、現在も採用を拡大しています。障害がある方でも選考を受けやすいよう、障害に配慮した選考スキームを導入しました。また、仕事体験を目的に障害のある方対象のインターンシップを実施しています。
入社していただいた後に、それぞれの定着・活躍に向けて環境を整えるのはもちろん、障害者の方が担う新しい職務の開発にも注力しています。近年では、視覚障害のある社員の傾聴力や論理的思考力の高さなどを生かすべく、通信営業を担当してもらっています。
今後も多様性を通じてイノベーションを生み出す会社であるために、取り組みを加速していきます。
●外国籍人材の活躍をグループの競争力の源泉に
イオン株式会社 ダイバーシティ推進室 室長
経営人材・人事システムチームリーダー
江藤 悦子さん
イオングループは、世界15か国で事業を展開し、連結会社の合計が約280社と、大規模かつグローバルな企業集団です。そして「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」という基本理念のもと、全ステークホルダーの人権を尊重することが重要であると捉えています。
多様な人材が活躍する企業を目指し、外国籍人材の採用を積極的に行っていますが、採用・定着に関して課題が多いのも実情です。外国籍の従業員からは「日本企業は意思決定が遅い」「キャリアのステップアップが遅い」という不満を聞くこともあります。職場に定着し活躍を推進するには、このような意識の違いも留意しなくてはなりません。
イノベーションを起こすためには、組織に多様な価値観を取り組むことが必要です。人材のグローバル化をより推進するために、日本人社員の語学力やグローバル意識も向上させる必要があるでしょう。このように、外国籍人材を受け入れることは組織にさまざまな好影響をもたらし、結果的にはグループ全体の競争力向上につながると考えています。
●障害の有無に関わらずいきいきと働ける社会へ
社会福祉法人江寿会 理事・アクセシブルジャパン 主宰者
グリズデイル・バリージョシュアさん
私はカナダ出身で、現在日本で暮らしており、両国でウェブマスターとして働いた経験があります。また、脳性まひにより両手両足に障害がありますが、ヘルパーさんがいれば健常者と同じように働くことができます。
カナダでは、障害者はヘルパーさんと共に働いています。採用面接においても、障害の有無ではなく、「必要なスキルを持っているか否か」を評価されるので、採用された後は安心して働けました。
一方、日本では就職先探しに苦労しました。なぜなら、当時は「オフィスがバリアフリー非対応だから」などの理由で障害者を採用しない企業が多かったのです。私は非常にショックを受けましたが、その後、福祉施設を運営するグループに就職することができました。現在は、多様な人材を雇用する取り組みを進めています。環境整備には少し時間がかかりますが、企業を学び合いの場にすることにもつながります。コロナ禍によって、世界中でリモートワークなどの多様な働き方が一般化しました。そして「在宅でなら働ける」という障害者の方も多いと思います。さまざまな属性を持つ人たちが学び合いながら、共に生きていける社会が築かれることに期待します。
◎このシンポジウムの模様は、動画共有サイトYouTubeの[人権チャンネル]でご覧いただけます。
https://youtu.be/JZyPjnKnYf0
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◎『ビジネスと人権に関する調査研究』報告書
企業において、『ビジネスと人権』をテーマとする研修を実施する際に活用することが可能な資料を提供しています。
https://www.jinken-library.jp/database/materials.php
◎あなたの会社やあなたの人権課題への取組を宣言してください。
https://www.jinken-library.jp/my-jinken/