※1 産業界との融合的連携研究制度のもと、2018年から株式会社ユーグレナと理研で組む研究チーム。本制度では、理研と企業が一体となる研究チームを作り、社会的課題の解決につながる研究成果の実用化に取り組む。https://bzp.riken.jp/oneteam/
※2 2019年1月に、リバネスマレーシアとマレーシア工科大学が連携して、研究シーズのインキュベーションと同プロセスを通じた人材育成を行うための研究所「Nest-Bio Venture Lab」を設立し、ユーグレナ社も参加。天然資源探索、微細藻類探索、腸内細菌解析などの研究プロジェクトを行っており、今回はその微細藻類探索の研究成果にあたる。https://lne.st/2019/01/21/lvnsmy/
※3 「同定」とは、動物・植物の分類学上の所属を決めること、「単離」とは、生体や生物組織、微生物集団から、特定の細胞、遺伝子、たんぱく質などを採取し、分離すること。
※4 分子に含まれる炭素数が11以上の脂肪酸。汎用性が高く、ディーゼル燃料などへの精製に活用しやすい特長がある。
マレーシアを含む東南アジアに広がる泥炭地には、熱帯雨林と一体となり独特の生態系が構築されます。泥炭地は一般的には有機物が豊富である一方、低pHかつ貧栄養であり、その中の川や沼には環境に適応した特徴的微生物が生存します。この環境で生存できる微細藻類は、低pHでの産業的藻類培養に適性があることが期待され、本研究ではマレーシアの泥炭地から増殖の速い微細藻類を取得することを試みました。取得された微細藻類株※5の一つは、環境中のCO2濃度により形態を変化させることが特徴的であり、CO2濃度が高い環境で早い増殖を示すことが確認されました(図1)。本株は、テトラスティココッカスの一種であると同定され、ゲノムも解読しました。
※5 株とは、微生物などの集まり
取得した株は、pH3から5の酸性条件で最もよく育ち、高い増殖速度(μ=1.47 d-1)と、最終到達光学密度※6(OD730の値が9.25)を示しました(図2)。テトラスティココッカスがトリアシルグリセロール※7などの形態で含有する脂肪酸の総量はpH5で最も多く、次いでpH3、pH7でそれぞれ102.88 μg/mg, 75.8 μg/mg, 67.77 μg/mgとなりました。
※6 光学密度とは、微細藻類中に含まれるクロロフィルαに起因する吸光度や蛍光強度を利用してバイオマス量を測定する方法。手早く簡単に、かつ正確にバイオマス量を把握できる間接的な手法の代表的な方法。
※7 トリアシルグリセロールとは、油脂の主成分の1つ。トリグリセリドともいう。
■今後の期待
マレーシアの酸性泥炭湿地林から特徴的な新規藻類・テトラスティココッカスを同定・単離し、その特性を明らかにすることができました。本研究は、新規藻類・テトラスティココッカスは耐酸性の高さから酸性条件下での開放池での大規模培養を行うことで、不要な藻類株や他の微生物による混入(コンタミネーション)を防ぎ、燃料利用が可能なバイオマスを低コストで生産できる可能性があることを示唆しています。
今後も、国内外の地域資源である微細藻類を活用し、脂質成分など有用成分の量産化などを軸にした研究を実施していく予定です。
<株式会社ユーグレナについて>
2005年に世界で初めて微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養技術の確立に成功。微細藻類ユーグレナ、クロレラなどを活用した食品、化粧品等の開発・販売のほか、バイオ燃料の製造開発、遺伝子解析サービスの提供を行っています。また、2014年よりバングラデシュの子どもたちに豊富な栄養素を持つユーグレナクッキーを届ける「ユーグレナGENKIプログラム」を継続的に実施。「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」をユーグレナ・フィロソフィーと定義し、事業を展開。https://euglena.jp