本技術は、生物系特定産業技術研究支援センター(以下、「生研支援センター」)の「令和3年度スタートアップ総合支援プログラム(SBIR支援)」の支援を受け開発されました。本件は特許出願中の技術です。
従来のAI技術では、「ストール」と呼ばれる柵で1頭ずつ区切って飼養する方法でのみ、繁殖豚の発情管理が可能でした。本技術では、豚が自由に動けることから欧米を中心にアニマルウェルフェアの観点で望ましいとされている、「フリーストール」で飼養される繁殖豚を管理することが可能となります。
◆ 開発背景
国内で飼養される繁殖豚(=母豚)のほとんどは、飼養管理の効率性・困難性の面から1頭のみを収容する「ストール」と呼ばれる柵で飼われています。ストールの中で受胎から出産までの繁殖サイクルを6回~7回程度繰り返して飼養されることが一般的です。
近年、EU加盟国を中心に動物福祉「アニマルウェルフェア」※の観点から、繁殖豚の飼養方法として、動物が動物らしく自由に活動可能な大きさの区画内で多頭飼養される「フリーストール」への転換が図られています。
農林水産省でも、アニマルウェルフェアの考え方を踏まえた飼養管理を普及するべく、令和2年3月に『アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について』の技術指導通知や、『アニマルウェルフェアに関する意見交換会』を令和3年度より開催し、普及に係る活動を実施しています。
従来の「ストール」では1頭ごとに区切られた区画で豚が飼養されるため、それぞれの状態に合わせた管理が可能でした。「フリーストール」は大きな区画において複数頭を群飼養するため、1頭1頭に合わせたきめ細やかな管理が難しいことが、新たな課題となっています。
※アニマルウェルフェア
世界の動物衛生の向上を目的とする国際獣疫事務局(OIE)において、「動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義されています。家畜を快適な環境下で飼養することで家畜のストレスや疾病を減らし、結果として生産性の向上や安全な生産体制にも繋がりうるとされ、欧州を中心に普及が進んでいます。欧州では2013年1月より、原則的に繁殖母豚を群れで飼育すること(ストール飼いの禁止)が完全施行されました。
◆ 開発したAI技術の概要/詳細
生研支援センターの「令和3年度スタートアップ総合支援プログラム(SBIR支援)」にて、国内では初となる群飼養に対応したAI(人工知能)による個体別発情検知技術を開発しました。
1.個体識別技術
AIカメラが、区画内にいる繁殖豚を自動で見つけ、それぞれの繁殖豚の耳に取り付けた識別子(耳標の色組みあわせ)を検出し、その色味の組みあわせパターンを用いて個体を特定します。
移動する繁殖豚をAI技術で自動追跡し、複数の画像を用いて判断することで、99.7%の精度で個体の特定が可能です。これにより、「フリーストール」内に豚が複数飼われている状態でも、特定の豚を識別することが可能となります。
2.発情判定技術
AIカメラが、繁殖豚の生殖器の状態をAI技術により分析し、発情/非発情のいずれであるかを判別します。生殖器の状態を適切に捉えるための最適な静止画を、AIが動画から自動取得し発情判定を行うことで、判定精度98.3%を実現しました。豚舎の明るさや環境が異なる場合でも、判別精度を保つ事が可能です。
◆ 今後の予定
国内養豚農家は、配合飼料価格・生産資材等の価格上昇や労働力の不足等により、効率化が強く求められています。本技術は養豚農家の効率化を支援するものであり、アニマルウェルフェアに養豚農家が対応する際のソリューションとして、2023年度内の製品化を目標に開発を継続します。
■株式会社Eco-Porkについて
”食肉文化を次世代につなぐ”を企業理念に掲げ、世界40兆円市場である養豚の、データによる持続可能化に取り組むアグリテック企業。養豚経営管理ツール「Porker」および関連IoT機器を開発・販売する。東京都「令和2年度 第1回 革新的サービスの事業化支援事業」、経済産業省「グローバル・スタートアップ・エコシステム強化事業」(2021年度)、農林水産省「令和2年度・令和3年度/令和4年度・令和5年度 スマート農業実証プロジェクト」などに採択される。
https://eco-pork.com/