国境なき医師団(MSF)は、WTOが新型コロナ対策で知財保護の本格免除について合意できなかったことは地球規模の失態であり、約2年に及んだ協議に十分な成果が見られなかったことに失望。決定についてMSFインターナショナル会長の談話を発表する。
- MSFインターナショナル会長クリストス・クリストゥ医師の談話
「20カ月以上にわたる協議を経ても、新型コロナ医薬品の知的財産権の一時免除について不十分な成果に終わったことに私たちは失望しています。
今年5月に提示された「成果文書」案に含まれていた特に懸念すべき要素を一部緩和するような修正が合意されたことは確かです。しかしながら、あらゆる新型コロナ関連医療ツールとすべての国を対象とする、2020年10月当初の知財保護免除案は、1500万人以上の命を奪ったパンデミック(世界的流行)が続く中でも合意に至りませんでした。
この合意は、パンデミック下で必要な医薬品の普及を拡大するための効果的で有意義な解決策を示していません。必須となる新型コロナ医療ツールの全てに対し知財保護を適切に免除するものではなく、すべての国に適用されるわけでもないからです。今回の決定で示された措置は、製薬会社の独占権に対処し、命を救う医薬品を安価で入手できるようにするものでもありません。今後の世界的な健康危機やパンデミックに悪しき前例をつくることになるでしょう。
MSFは今回のパンデミックを通じて、新型コロナ患者をケアする最前線の医療従事者が直面する課題と困難について繰り返し声を上げてきました。高邁な政治的公約や連帯を掲げる言葉とは裏腹に、富裕国が低・中所得国の人びとの命を救う新型コロナ医薬品の普及において明らかな格差を解消できなかったことが残念でなりません。
医療が届かないというこの課題に対する、真に世界的な解決策の合意には至らなかったことから、MSFは各国政府に対し、人びとが必要な新型コロナ医療を受けられるよう、自国内での早急な対策を求めます。新型コロナ医薬品の知財権の停止、主要な医療技術の特許障壁を解消するための強制実施権の発動、ジェネリック(後発)医薬品の製造・供給促進に欠かせない必須の技術情報の開示を認める新たな法律や政策の採択など、考えられる限りの法的・政治的手段を検討すべきです。
MSFはまた、命を救うための医療ツールの開発・製造・供給が公平に行われ、独占と市場の原理が普及の妨げとならないよう、バイオメディカル開発の仕組みを再考・再編していく具体的な施策を各政府に求めます。企業や政治上の利益を守るのではなく、命を救うことを優先しなければなりません」