※2 炎症性腸疾患:腸管の慢性的な炎症により、腹痛、下痢、血便などの症状を伴う疾患。指定難病である潰瘍性大腸炎とクローン病が含まれる。
- 概要
本研究では、整水器により生成される電解水素水を実験の10日前から飲用させ続けたラットに、炎症性腸疾患を引き起こす物質(TNBS)を投与し、その後の腹部疼痛(とうつう)の程度などを経時的に評価しました。結果として、電解水素水の日常的な飲用が炎症性腸疾患モデルラットにおいて、腸炎の症状を軽度に抑え且つ早期に回復させることが明らかとなりました。また腸組織の炎症程度や血液中の酸化ストレスマーカーや炎症マーカーも水道水飲用群に比べ有意に低い状態でした。電解水素水の日常的飲用は、再発しやすい炎症性腸疾患の予防策として期待されます。
- 研究意義・目的
炎症性腸疾患は腸の炎症が原因で、下痢、血便、腹痛、体重減少、倦怠感、発熱などの症状が悪い時期や落ち着いている時期を交互に繰り返す病気で、特に「潰瘍性大腸炎」や「クローン病」は難病指定されています。発症すると、QOL(生活の質)の低下ばかりではなく、時には大腸全摘出や大腸がんを併発することもあります。電解水素水は「胃腸症状の改善」が認められた管理医療機器の整水器から生成されます。本研究では、日常的な電解水素水の飲用が、炎症性腸疾患の症状を緩和するかを動物モデルで検証することを目的としました。
- 結果
(1)電解水素水飲用群は腹部疼痛の程度が水道水飲用群よりも軽く(閾値が高い)、TNBS投与後6日目には消失していました。一方、水道水飲用群は14日目に消失していました。8日目の腸組織には水道水飲用群は炎症性細胞がまだ見られましたが、電解水素水飲用群は見られなくなりました(右図)。
(##,#:TNBS処理0日目に対して有意差有)
(**,*:水道水群に対して有意差有)
※図は論文より一部改変し掲載
(2)電解水素水飲用は、TNBS投与による炎症マーカー、酸化ストレスマーカーの上昇を抑制し、抗酸化酵素活性(抗酸化マーカー)の低下を抑制しました(表1)。
表1 電解水素水飲用によるマーカーの変化
項目 | 指標 | 場所 | 水道水飲用群との比較 |
MPO | 酸化ストレスマーカー | 腸組織 | 2日目と4日目がそれぞれ66.6%、72.9%有意に低い |
総SOD活性 | 抗酸化マーカー | 腸組織 | 2日目と8日目がそれぞれ55.8%、61.7%有意に高い |
IL-1β,TNF-α、IL-6、MCP-1 | 炎症マーカー | 腸組織 | 2日目または4日目、またはその両方で51.4%~90.4%有意に低い |
S100A9 | 炎症性腸疾患特有炎症マーカー | 血液 | 2日目で27.9%有意に低い |
d-ROMs | 酸化ストレスマーカー | 血液 | 2日目と4日目がそれぞれ14.7%、16.6%有意に低い |
※表は論文情報より集約
- 結論
電解水素水の日常的飲用は腸内炎症を抑制し、再発しやすい炎症性腸疾患の症状緩和に効果が期待されることが示唆されました。
- 研究方法
8週齢のウィスター系ラットに2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を腸内に投与することで炎症性腸疾患を発症させ、電解水素水または水道水(対照水)は、TNBS投与の10日前から実験終了まで自由飲水させました。腹部疼痛は、腸管内に圧力をかけた際の腹筋(外腹斜筋)からの筋電図反応に基づいた疼痛閾値(mmHg)により評価しました。また、腸組織や血液の酸化ストレスマーカー、抗酸化マーカー、炎症マーカーも評価しました。
- 今後の期待
炎症性腸疾患の代表的疾患である難病指定の「潰瘍性大腸炎」の患者は166,060人(平成25年度末)、「クローン病」は44,245人(令和元年度)です(公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター情報)。
本研究により、炎症性腸疾患モデルラットの飲み水を電解水素水に替え継続飲用するだけで酸化ストレスや腸内炎症が抑えられ疼痛が緩和されていることから、今後、患者での効果の評価が待たれます。
- 研究支援
本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金No.19K20136、17H02172、20K2177、および株式会社日本トリム共同による研究費の支援により行われました。
- 論文概要
タイトル「Electrolyzed hydrogen water alleviates abdominal pain through suppression of colonic tissue inflammation in a rat model of inflammatory bowel disease」
(和訳:電解水素水は炎症性腸疾患モデルラットの腸組織の炎症を抑制することで腸の疼痛を緩和する。)
主な共同研究関係者
研究代表者:理化学研究所 生命機能科学研究センター チームリーダー 渡辺 恭良 医学博士
共同研究者:理化学研究所 生命機能科学研究センター チームリーダー 崔 翼龍 博士(医学)
共同研究者:理化学研究所 生命機能科学研究センター 胡 迪 博士(医学)
共同研究者:株式会社日本トリム MD室 室長 樺山 繁 博士(農学)
- 掲載先
Nutrients誌:
▼オープンアクセス論文のため下記よりご覧いただけます(英語サイト)
https://www.mdpi.com/2072-6643/14/21/4451
※Nutrients誌は、スイスに本社を置くMDPI社によって刊行されている査読付き学術雑誌です。