「政策のためのデザインアプローチ」共同研究の開始について

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武蔵野美術大学(所在地: 東京都小平市、学長: 長澤忠徳)が立ち上げたソーシャルクリエイティブ研究所および株式会社日本総合研究所(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 谷崎勝教、以下「日本総研」)は、政策検討・立案・実行のモデル化および地域経営や行政変革の推進・支援を目的としたデザインアプローチ(注1)の活用方法についての共同研究(以下「本共同研究」)を開始します。
■背景
少子高齢化やテクノロジーなどの急速な進展によって社会環境は大きく変化を続け、また、近年では特にSDGs意識の高まりを受けながら社会や個人のニーズの多様化が進んでいます。それらの影響の下で行政に対する要請も年々複雑化しており、画一的な政策を効率的に大量供給する従前の行政手法では、それぞれの課題を確実に捉え、適切に応え続けることは困難となっています。
そうした中、海外の公共・行政機関では、公共政策の課題の設定から解決までの考え方の見直しとして、人間中心起点の考え方を基盤とする「デザインアプローチ」を取り入れる動き(注2)が始まっています。これまで政策や公共サービスの設計や実施は行政のみが担ってきましたが、デザインアプローチでは、サービス利用者となる市民や市民ニーズへの理解を行政が深めた上で、市民や民間企業などの関与を得ながらそれらを行います。
サービスの提供者と関係者、そして利用者による協力関係の中で課題を定義し、試行錯誤を重ねながら解決策を見つけ出していくデザインアプローチによって、地域で真に求められ、市民の共感を呼ぶ政策の実行が可能になることが期待されるようになってきました。デザインアプローチを政策に取り入れる動きは各地で広がっており、例えばデンマークのある都市では、高齢者向けの配食サービスについて、デザインアプローチを活用した改善プロジェクトを民間企業と共同で行うことで利用者の満足度を向上させました。詳細な行動観察やインタビュー調査を行い、そしてメニュー開発や配送方法などの改善を繰り返すことで、各利用者の健康状態や嗜好に合ったサービスの提供を可能とさせています。

共同研究について
このような「デザインアプローチによる政策形成プロセスおよび政策オプションの創出を市民・企業・行政が共創して行うこと」について、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所と日本総研は「政策のためのデザインアプローチ」と呼び、昨年度には公務員の方々を対象とした予備調査を行っています(注3)。
本年度に実施する本共同研究では予備調査を一層発展させ、海外事例の調査・研究のほか、日本における「政策のためのデザインアプローチ」のモデル化とその実験に取り組みます。日本の官公庁や基礎自治体での浸透・定着を目指し、複雑化する政策課題に向き合う行政職員やパブリックセクターに従事されている方々に活用いただける方法論やツールの開発を検討していきます。同時に、本共同研究の成果については、セミナーやイベント、研修などの提供を通じて、広く社会に共有していく予定です。

武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所は、激しい環境の変化や未来が予測しづらい現代が抱える課題を、企業、地域、行政、教育の壁を越え、領域横断的に取り組み、ビジョンとプロトタイプを研究提案していきます。

日本総研は、本共同研究から蓄積される知見を行政向けの新たなコンサルティングサービスの創出に活用していきます。今後も「顧客価値の共創」という経営理念に基づき、大学等学術機関を含む外部組織との連携・共創を通じ、次世代の社会価値の創造を図ります。

なお、本共同研究を嚆矢とし、本共同研究を包含する形で、本学と日本総研は、デザインによる個人と地域社会の変革・創造をテーマにした共同研究を開始します。2022年11月1日には、当該共同研究に関するシンポジウムを開催する予定です。
<シンポジウムの詳細については本学および日本総研のホームぺージ上で10月3日に公表予定です。>

注1: デザインアプローチは、利用者を中心に据えつつ仮説探索・検証を繰り返しながら新たな課題解決の方法を発見していく手法です。社会の不確実性が高まり、論理的思考力や技術を中心とした考え方だけでは課題に対応することが難しくなった中で、人々の行動や経験の在り方、それらを提供するオペレーション、組織のシステムの在り方の設計など、活用の場面が広がっています。なお、本共同研究における「政策のためのデザインアプローチ」では、人間中心起点(human centered)、未来志向(vision)、共創(co-creation)、可視化(visualization)、試行(prototype)、実験的(experiment)などの方法論が活用されます。

注2: 国内外の公共・行政機関においてデザインアプローチを取り入れた具体的な例については、以下の記事で紹介しています。
【デザインによる仮説探索・検証型公共サービスの新たな価値創造】
第一回 「デザインによる仮説探索・検証型公共サービスの新たな価値創造」連載開始にあたって ~なぜ、公共サービスにデザインの視点が必要なのか~(日本総研ホームページ/2021年8月31日)
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=39446

注3: 予備調査は、基礎自治体におけるデザインアプローチの浸透度と導入課題をテーマに実施しました。予備調査の概要と結果については、以下を参照ください。
「政策へのデザインアプローチの導入可能性」(日本総研ホームページ/2022年7月25日)
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=103182

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