背景
社会人は誰もが様々な障壁に直面します。その中でも、特に学生から社会人になる新入社員は、生活環境が大きく変化します。入社前に抱いていた理想と入社後の現実との大きなギャップから、リアリティショックを受ける新入社員も多いでしょう。近年、離職率の高まりが課題とされている中、そのようなリアリティショックが、ネガティブな影響を与えると、早期離職に繋がりかねません。そこで、当社では、入社1年目の新入社員がどのような場合にギャップを感じているか、またそのギャップをどのように受け止めているか実態調査を行いました。
調査結果の概要
1. 社会人1年目の7割が入社前後で「生活リズムや社会人としての考え方の習得」にギャップを実感
2. 「生活リズムや社会人としての考え方の習得」はネガティブなギャップであり、「上司とのコミュニケーション」「職場の雰囲気」はポジティブなギャップ
3. 社会人の生活リズムや考え方の習得は、『辞めたい・不安』といった感情に繋がるほど高い障壁
4. 勤務時間・仕事の難易度・仕事量のギャップはマイナスな感情を抱きやすい
5. 上司との関係性が、新人のギャップの捉え方に大きく影響
6. 職場の雰囲気・文化のギャップは『安心』に繋がり、『辞めたい』に最も繋がりにくい
調査結果の詳細
1. 社会人1年目の7割が入社前後で「生活リズムや社会人としての考え方の習得」にギャップを実感
社会人1年目(以下『新人』と記載)に対し、生活リズムや社会人としてのマナー、仕事に関するもの、上司との関わりなど、11個の項目(以下『11のギャップ項目』と記載)について、入社前後にギャップを感じたか質問したところ、全ての項目で半数以上の新人が何らかのギャップを感じていることが明らかになりました。特に「生活リズムや社会人としての考え方(顧客志向・当事者意識など)の習得」は7割もの新人がギャップを感じています。その他「上司からの仕事のアドバイス(64.3%)」「社会人の基礎的なマナーの習得(60.6%)」に関しては6割以上の新人がギャップを感じている結果となりました。(図1)
2. 「生活リズムや社会人としての考え方の習得」はネガティブなギャップであり、「上司とのコミュニケーション」「職場の雰囲気」はポジティブなギャップ
多くの新人がギャップを感じていることが明らかとなりましたが、それらのギャップはネガティブなものなのか、ポジティブなものなのか、詳細を見ていきます。
まずは、図1からネガティブに感じる回答*1を抽出し比較したところ、「生活リズムや社会人としての考え方(顧客志向・当事者意識など)の習得」が最も高く、48.0%の新人が『想定よりもとても難しい・やや難しい』と回答しました。次に多いのは「社会人の基礎的なマナーの習得」であり、42.4%が『想定よりもとても難しい・やや難しい』を選択しました。また、3位には「仕事の難易度(42.3%)」が入りました。(図2)
*1 各ギャップ項目に対し、想定よりも難しい、勤務時間が長い、仕事量が多い、上司と話しにくい、アドバイスが細やかではない、相談しにくい、サポートがないといった回答層をネガティブと設定
次に、ポジティブに感じる回答*2を抽出し比較したところ、1位は「上司とのコミュニケーション」で『想定していたよりとても・ややフランクで話しやすい』と回答した割合が26.3%という結果でした。2位には「上司からの仕事のアドバイス」が入り『想定していたよりもとても・やや細やかにアドバイスをもらえている』割合が24.4%でした。(図3)
*2 各ギャップ項目に対し、想定よりも簡単、勤務時間が短い、仕事量が少ない、上司と話しやすい、アドバイスが細やか、相談しやすい、サポートがあるといった回答層をポジティブと設定
続いて、11のギャップ項目以外にも、職場の雰囲気・文化について入社前後でどのようなギャップがあったか、複数選択で質問したところ、「想定していたより、自由度が高かった」が26.2%、「想定していたより明るい雰囲気だった」が24.9%となりました。他にも「熱気にあふれる雰囲気だった(16.2%)」「意見を言い合える風通しが良い職場だった(15.7%)」と、ポジティブな評価がTOP5の中で4つを占め、職場に関しては肯定的な受け止め方が多い傾向が見られました。
3. 社会人の生活リズムや考え方の習得は、『辞めたい・不安』といった感情に繋がるほど高い障壁
ここからは、ギャップを感じた新人を対象に、11のギャップ項目をそれぞれどのように捉えたか調査しました。回答項目は以下の通りです。
『嬉しいと思った』『安心した』『成長の機会だと感じた』『貢献したいと感じた』『不安に感じた』『落ち込んだ』『不満を抱いた』『大変だと感じた』『我慢した』『会社を辞めたくなった』(以下、まとめて『10の感情』と記載。うち、前半4つをプラスの感情、後半6つをマイナスの感情と設定)
まずは、学生と社会人との違いである「生活リズムや社会人としての考え方(顧客志向・当事者意識など)の習得」と「社会人の基礎的なマナーの習得」でそれぞれギャップを感じた人がそのギャップをどう捉えたか見ていきます。結果、どちらも『会社を辞めたくなった』、『不安に感じた』、『大変だと思った』という項目が上位を占めました。特に「生活リズムや社会人としての考え方の習得」にギャップを感じる人の中で、離職を考える人は25.2%、不安を感じる人は23.3%でした。この2つの数値は、11のギャップ項目で比較すると、最も高い結果となっています。
4. 勤務時間・仕事の難易度・仕事量のギャップはマイナスな感情を抱きやすい
次に、勤務時間・仕事の難易度・仕事の量におけるギャップの捉え方について質問しました。
「勤務時間」にギャップを感じる人の中で、そのギャップを『嬉しいと思った』『安心した』『成長の機会だと感じた』などプラスな感情と捉える割合がいずれも約1割であるのに対し、『会社を辞めたくなった(20.1%)』、『大変だと感じた(17.2%)』、『不満を抱いた(16.6%)』が上位を占めました。
「仕事の難易度」では、『不安に感じた(21.2%)』『大変だと感じた(21.2%)』『会社を辞めたくなった(20.6%)』といったマイナスの感情が突出する結果となりました。
「仕事の量」では、『大変だと感じた』という回答が23.0%となり、11のギャップ項目の中でも最も高い結果でした。
5. 上司との関係性が、新人のギャップの捉え方に大きく影響
続いて、上司との関係性におけるギャップの捉え方について調査しました。
「上司とのコミュニケーション」においては、想定よりも話しやすいといったポジティブなギャップの中で1位であったこともあり(図3)、そのギャップを『安心した』と捉えた割合が最も高く24.3%となりました。一方で、『会社を辞めたくなった』と回答した人が20.8%いたことも見逃せません。そのように捉える新人の内訳を見てみると、想定よりも厳しくて話しにくいというネガティブなギャップを感じた人が大多数でした(参考資料参照)。
「上司からの仕事のアドバイス」に関してギャップを感じた新人は、そのギャップを『会社を辞めたくなった』と捉える割合が最も高く22.3%となりました。続いて『成長の機会だと感じた』が20.0%となり、11のギャップ項目の中で比較すると最も高い結果となりました。また、『貢献したいと感じた(14.9%)』割合は高くはないものの、11のギャップ項目の中ではこちらも最も高い結果となりました。『会社を辞めたくなった』を選んだ新人の内訳を見ると、9割が想定よりもアドバイスをもらえていない新人でした(参考資料参照)。上司からの仕事のアドバイスの有無は、新人の成長意欲や貢献意欲、離職の意向など、様々なところに影響していることがわかります。
「上司への悩みなどの相談」に関してギャップを感じた新人は、そのギャップを『安心した』『会社を辞めたくなった』と捉えた割合が同等の20.9%となりました。それぞれの内訳を見てみると、『安心した』の9割以上が想定よりも相談ができており、『辞めたくなった』の9割以上が想定よりも相談できていないという結果でした(参考資料参照)。上司への悩み相談ができていると安心につながり、相談できない場合は離職を考えるという両極端な結果が明らかとなりました。
「上司からのスキルアップのサポート」に関するギャップでは、『不安に感じた』と捉えた割合が18.5%と最も多い結果となりました。内訳を見ると、3/4が想定よりもサポートしてもらえていないと回答しています(参考資料参照)。
「自分のキャリアについて上司と話す場」に関するギャップでは、『会社を辞めたくなった』と捉えた割合が19.9%であり、内訳を見ると9割以上が想定よりも話す場がないと回答していました(参考資料参照)。
6. 職場の雰囲気・文化のギャップは『安心』に繋がり、『辞めたい』に最も繋がりにくい
最後に、職場の雰囲気や文化のギャップについて、新人はどのように捉えているか質問をしました。
「配属先」に関してギャップを感じている人のうち、21.1%が『会社を辞めたくなった』と回答する結果となりました。
「職場の雰囲気・文化」については、ギャップを『安心した』と捉える割合が21.0%と突出する結果となりました。一方、『会社を辞めたくなった』は9.6%と11のギャップ項目の中において最も低くなり、職場のギャップはポジティブなギャップが多かったことがこちらでも表れる結果となりました。
まとめ
今回の調査より、社会人1年目の新人は、入社前後で何らかのギャップを感じていることが明らかとなりました。特に、生活リズムや社会人としての考え方・ふるまいの習得が想定以上に難しいと感じる新人が多く、学生生活と社会人生活の違いにつまずきを感じていることがわかりました。また、そのギャップは、会社を辞めたい・不安に感じるなど、マイナスな感情に繋がりやすい傾向が見られました。さらに、勤務時間や仕事の難易度、仕事量におけるギャップも、同じような傾向にありました。近年、問題視されている新人の離職を防止するためにも、内定時代から社会人への変化対応の大変さを伝え、少しずつ慣れさせていく、働き方や業務のイメージを正確に伝え、会社の方向性や部署の役割などを丁寧に説明して理解してもらうなど、対策を講じるとよいでしょう。
一方で、上司との関係性においては、想定以上に上司が話しやすい、仕事のアドバイスをもらえるといったポジティブなギャップを感じ、プラスの感情を抱いている新人が他のギャップ項目よりも多いことがわかりました。プラスの感情の中では特に成長意欲や貢献意欲が高く、他にはない傾向が見られました。しかし裏返すと、アドバイスがもらえない、サポートしてもらえないなど、上司と接点が少ないことにギャップを感じている新人は、不安に感じるだけでなく、会社を辞めたくなる傾向も明らかになりました。上司の歩み寄りが新人の成長意欲に大きく影響していることを踏まえ、上司側の接し方の育成も考えていくことが重要と言えるでしょう。
社会人1年目は、学生から社会人となり、様々なギャップを感じながら仕事をしています。ネガティブなギャップを取り除くことも重要ですが、たとえ、ネガティブに感じられるギャップでも、それを乗り越えることで成長することもあります。新人の育成計画を立てる際は、新人の直面するギャップが離職にも繋がりかねないこと、また上司との関係性が大きな影響を与えることを理解したうえで、育成計画やサポート体制を検討するとよいでしょう。
参考資料はこちら
https://www.learningagency.co.jp/download/all/news_20220819_reference.pdf
調査概要
調査対象者 | 22~34歳の社会人1年目である就労者 |
調査時期 | 2022年7月22日~7月25日 |
調査方法 | 調査会社によるインターネット調査 |
サンプル数 | 300人 |
属性 | (1)性別 ①男性:62.7%(188人) ②女性:37.3%(112人) (2)所属企業の従業員数規模 |
*本調査を引用される際は【ラーニングエージェンシー「若手社員の意識調査(社会人1年目の入社前後のギャップ編)】と明記ください
*各設問において読み取り時にエラーおよびブランクと判断されたものは、欠損データとして分析の対象外としています
*構成比などの数値は小数点以下第二位を四捨五入しているため、合計値が100%とならない場合がございます
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