臨床検査においては、1つの検査で 1 種類の項目を測定することが一般的でしたが、近年の技術の進歩に伴い、複数の項目を一度に測定する多項目遺伝子解析技術が広く用いられるようになってきました。PCR 法を用いた複数バイオマーカー測定によるがんの治療予後予測、個別化医療のためのゲノム解析、次世代シーケンサーによるがんのプロファイリングに基づく治療薬選択や、マイクロアレイを用いた miRNA バイオマーカーの測定など、感染症からがんの診断や遺伝学的解析まで、その応用範囲はますます広がっています。
このような多項目検査では、測定項目が 1 つであった従来の検査と異なり、複数の微生物の同時測定のように 1 度に多くの情報が得られることや、がん遺伝子パネル検査など多くの情報を必要とする高度な診断に用いられる検査結果が得られることがメリットですが、一方で、その検査の妥当性の確認や検証には、単一測定対象に用いられる検査とは異なった考え方が必要になります。
これまで、国際的な標準化の活動では、臨床検査の品質と力量に関する要求事項をまとめた ISO 15189 を中心に、検査室で精確な検査を実施するために必要な、様々な議論が行われてきました。特に近年、患者から採取した血液や、がん組織などの試料から、核酸を抽出し、様々な解析技術を用いてマーカーの量を測定する前処理の工程(プロセス)に関する議論が活発に行われてきました。しかし、測定対象が 1 つの検査から、複数の測定対象の検査結果を同時に出すような上述のトレンドに応える標準化は、あまり進んでいませんでした。
このような状況の中、JCCLS と JMAC は、マイクロアレイを始めとする多項目解析が、今後の遺伝子(関連)検査の主流になるとのトレンドをいち早く捉え、多項目解析に使われるDNA や RNA など核酸の品質の定義や、核酸品質の評価方法の標準化を中心とする提案を実施、多項目検査のため、生体試料から抽出される核酸の品質に関する世界的な共通認識の基準となる国際標準の開発を TC 212 において進め、2020 年、ISO 21474-1「In vitro diagnostic medical devices — Multiplex molecular testing for nucleic acids — Part 1:Terminology and general requirements for nucleic acid quality evaluation 体外診断用医薬品・医療機器—核酸の多項目分子学的検査—第一部:核酸の品質評価に関する用語と一般要件事項」を発行に導きました。
今回 5 月 13 日に新たに発行された本規格は、ISO 21474-1 の続編にあたり、ゲノム時代の臨床検査において、多項目検査のための測定法の妥当性確認及び検証のための一般要求事項の標準化を実現しました。この標準により、現在の単一項目の検査から多項目検査のトレンドに乗って進歩し続ける技術を用いた良質な検査を軸に、関連の医療産業の活性化につながることが期待されます。医療・診断分野の国際標準化は、グローバルな視点で診断結果を共有化する活動であり、我が国の医療産業の国際市場でのシェア拡大のための基盤構築、安全・安心な社会づくりに貢献できるものと期待されます。
*1 ISO
国際標準化機構(International Organization for Standardization)の呼称であり、スイスのジュネーヴに本部を置き、電気分野を除く工業分野の国際的な標準である国際規格を策定するための、民間の非政府組織。
*2 PCR
Polymerase Chain Reaction の略。DNA を増幅するための手法であり、遺伝子(関連)検査においては、特定の遺伝子や塩基配列を検出するために用いられる。
*3 DNA マイクロアレイ
DNA をガラスや、プラスチックの基盤、電極基盤、中空繊維などに固定化して、生体分子や生体活動を定性的、定量的に検出する機能を構成したもの。バイオチップの一種である。
*4 ISO/TC 212の邦文分科委員会名称
「臨床検査と体外診断用検査システム」(臨床検査と体外診断検査システムの質的な向上を図るための国際的な専門委員会)
公益社団法人日本臨床検査標準協議会
日本臨床検査標準協議会(JCCLS)は、1967年に設立された米国のNCCLS(米国臨床検査標準 委員会、2005 年 1 月より CLSI:Clinical and Laboratory Standards Institute と改名)や ECCLS(欧州臨床検査標準委員会)などの動向を踏まえ、日本における臨床検査の標準化と質的改善を目的とし、1985 年、発起学会 4 団体を含む 14 学会と 8 協会団体が加盟し、任意団体として発足致しました。
JCCLSは、現在、特別会員 9 団体(官公庁)、正会員 31 団体(学会、協会等)、賛助会員 46 社(企業)、個人賛助会員 20 人を擁する一大組織に成長しています。合計 20 の専門委員会が組織され、それらの専門委員会によって 30 以上の臨床検査の標準化に関する指針文書が作成され、承認されています。
また、JCCLは、1995 年に発足した国際標準化機構(ISO)の「臨床検査と体外診断用検査システム」専門委員会(ISO/TC212)の事務局として、日本工業標準調査会(JISC)より委嘱を受け、 臨床検査分野における ISO 規格作成に携わっております。既に幾つかの国際規格が発行され、 財団法人 日本規格協会(JSA)より和訳版も発行されています。また、ISO15189:「臨床検査室- 品質と能力に関する要求事項」に基づき、財団法人 日本適合性認定協会(JAB)と提携し、グローバルに普及しつつある臨床検査室認定プログラムの導入が予定されています。
当協議会に関する詳細な情報は、http://www.jccls.org/をご覧ください。
特定非営利活動法人バイオ計測技術コンソーシアム
「バイオ計測技術コンソーシアム(JMAC:Japan bio Measurement & Analysis Consortium)」 は、マイクロアレイ等のバイオチップ関連の産業促進・市場創出を目的とし、「バイオチップコンソーシアム」として2007 年 10 月 19日に設立され、2008 年 10 月には東京都の認可を受けて特定非営利活動法人となったバイオテクノロジー産業分野の業界団体です。前述のとおり、 2013 年にはバイオチップに関する国際標準 ISO 16578 の発行を達成いたしました。その後、バ イオチップ以外にも広くバイオテクノロジー関連の産業化活動の推進を行っていくため、2018 年 10 月に「バイオ計測技術コンソーシアム」と名称変更し、主に標準化活動を行っています。
バイオテクノロジー関連技術は飛躍的に発展を成し遂げ、今日では有用な研究ツールとして、 大学等の研究機関や製薬・食品企業等の研究所にて広く利用されるに至っています。しかしながら、精度測定、サンプル前処理、データ解析・判定、試薬管理などの方法および手順の確立をはじめとする関連技術の標準化がなされていないため、研究利用よりもはるかに大きな市場規模が想定される産業利用が十分になされていません。
一方で、世界各国においてはバイオテクノロジー関連技術の標準化活動が活発に行われており、市場のグローバル化が進む昨今、我が国の産業界もこれらの影響を看過できなくなってきています。
我が国でも、産業界が中心となって、バイオテクノロジー関連技術の産業化に向けた標準化を検討し、欧州や米国をはじめとする国外団体との国際協調を図り、標準化を推進していくことで、 バイオテクノロジー関連技術の市場を創生していけるものと期待しています。
また特許や推奨基準などの勉強会を開催するなど、バイオテクノロジー関連技術に関する参加企業が情報を持ち寄って交流し、産業化に向けた課題が導かれ解決されていくことが、バイオテ クノロジー関連技術の産業化を促進していくと考えます。
以上の趣旨の下で、バイオテクノロジー関連技術の標準化を通じて、産業化促進、および市場創生を行うことを目的として、当コンソーシアムは設立・運営されています。
当コンソーシアムに関する詳細な情報は、https://www.jmac.or.jp をご覧ください。