日本におけるBIMの普及状況
BIMという概念が誕生して早数十年がたとうとしていますが、普及が始まったのはまだ近年です。近年日本では、国交省が「設計BIMワークフローガイドライン」などを提示し、令和5年までに公共施設の設計は原則BIM適用、令和7年までには確認申請をBIMで行えるようにと多くの取り組みを行っています。日本の多くの大手企業も積極的なアクションをとっています。
しかし、まだ業界全体としてはBIMの導入が進んでいるとは言い難い状況にあります。BIMの導入には、従業員のBIMスキルの習得や、ソフト・ハードウェアの高額な導入費用など様々な課題が存在します。特に中小企業や地方自治体では、導入のハードルが高く手を出せていないという現状があります。さらに、業界全体でのBIM人材の不足もBIMの普及の足を強く引っ張っている要因だと考えられます。
日本BIM協会は、その中でもBIM導入前後に存在する以下のような課題に着目し、それに対するアクションを起こそうと思っております。
-
BIMの概念に対する理解度が低い
-
作成方法や考え方の個人差が大きい
-
人材育成の方法が会社ごとにバラバラ
-
人材採用において、技術レベルの不確定性がある
-
個人のBIM制作技術レベルを定義する指標がない
「BIMエンジニアライセンス」の目指すところ
日本BIM協会では、BIMの概念を正確に理解しており、BIM制作ソフト(Archicad /Revit / Vectorworksなどソフトの種類は問わない)を用いてBIMモデルを作成し、さらにそれらをIFCモデルや設計図書としてアウトプットする能力を持っている者のことを「BIMエンジニア」と定義します。BIM普及には、このBIMエンジニアを育成していくことが最重要課題であり、さらにそれを証明するシステムが必要になると考えます。
「BIMエンジニアライセンス」は、等級別試験を通してそれら能力を測り、一定水準以上の能力が認められた者に各等級の資格を授与し、その者の能力レベルを証明する認証システムのことです。
「BIMエンジニアライセンス」の目的は主に以下の通りです。
-
BIMの概念、制作上の共通認識の普及
-
実務で活躍できるBIM人材の育成
-
BIM制作技術レベルの評価基準となり、学習目標となる
-
建築業界における、BIM推進の加速化
その他にも、BIMの本来あるべき姿をよく理解することによって、適切なモデルに適当な情報を入力することやIFCを用いてBIMモデルの共有を行うことなどの知識が浸透し、従業員間・企業間のBIMでのやり取りがよりスムーズに、より効率的になることも期待しています。
「BIMエンジニアライセンス」試験の概要
BIMエンジニアライセンスは、三つの等級で構成されます。等級の低い方から順に、BIMクリエイター、BIMエキスパート、BIMマスターです(BIMエキスパート及びBIMマスターは計画中)。それぞれの試験概要を以下に記載します。なお当試験は、すべてオンラインで完結できる新しい職業訓練システムVTEXというプラットフォーム上で行われる。
BIMクリエイター
-
試験内容:実施設計S3レベル(LOD250~300程度)のBIMモデル作成能力ならびにそれらをIFCや基本設計図書としてアウトプットする能力を測る試験
-
受験条件: BIM及びBIMエンジニアライセンスの目的や価値をよく理解している者(実務経験や学習時間は問わない)
-
試験時間:学科試験(30分)・実技試験(120分)
-
採点比重:学科試験(30%)・実技試験(70%)
-
合格基準:100点のうち80点以上
-
受験回数:一度の申し込みにつき、2回まで受験可能
-
受験料:15,000円(税抜)
-
学習方法:BIMクリエイター講習会を聴講し、十分に理解したうえで受験することを推奨
【計画中】BIMエキスパート A・S・MEP
-
試験内容:実施設計S4レベル(LOD300~350程度)のBIMモデル作成能力ならびにそれらをIFCや実施設計図書としてアウトプットする能力を測り、さらに、意匠(A)・構造(S)・設備(MEP)の一般的法規、各部の納まりや構法を理解し、それらをBIMモデルや図面で表現する能力を測る試験
-
受験条件: BIMクリエイターの資格を保有している、もしくはそれと同等のスキルがあり、BIMを用いて業務を行っている企業にて実務経験が2年以上ある者
-
試験時間:学科試験(30分)・実技試験(120分)
-
採点比重:学科試験(15%)・実技試験(85%)
-
合格基準:100点のうち80点以上
-
受験回数:一度の申し込みにつき、2回まで受験可能
-
受験料:30,000円(税抜)
-
学習方法:BIMエキスパート講習会を聴講し、十分に理解したうえで受験することを推奨
【計画中】BIMマスター A・S・MEP(条件付き自動授与)
-
授与条件:BIMエキスパートの有資格者であり、且つ一級建築士・建築設備士のどちらかの資格を保有している者。さらに、日本BIM協会の一般個人会員であることを条件とします。
BIMエンジニアライセンス講習会
BIMクリエイター試験及びBIMエキスパート試験の内容に則した学科及び実技の講習会をe-Learning形式で実施します。詳細は試験告知ページにてご案内します。
※実施設計S3・S4レベルというのは、国土交通省が定義したBIM作成フェーズのこと。詳しくは建築設計三会「設計BIMワークフローガイドライン」参照。
一般社団法人日本BIM協会の思い
今まで建築業界ではCADオペレーターという役割がありましたが、日本BIM協会はBIMに変わることによりオペレーターという役割が徐々に減っていくと考えます。CADではすべての図面を別々に作成していたため、図面作成に膨大な労力と時間がかかっていました。そのため、デザイナーはデザインに専念するために図面作成・修正を代行するCADオペレーターが必要でした。
それがBIMになることにより、BIMモデルによるデザイン検証と同時に各種図面が更新されるため、デザイン検証後の図面作成作業が大幅に減少し、オペレーターに頼らずともデザインチームの若手が対応できる範囲になると考えます。
将来のBIMを用いたデザインチームは、BIMマスター、BIMエキスパート、BIMクリエイターで構成され、BIMマスターはデザインの方向性を決め、BIMエキスパートはその方向性に合わせて細部の構成を考え、BIMクリエイターがそれら指示に従いBIMモデルを完成させていくという形になっていくと考えます。BIMクリエイターは実務経験を積むことによって、BIMエキスパートとなり、更に経験を積むことでBIMマスターへと育っていきます。
それは企業のBIM導入初期にも当てはめることができます。企業のBIM導入において最優先人員はBIMクリエイターです。チーフデザイナーやデザイナーはBIMを操作することができなくても、BIMクリエイターが彼らのデザインをBIMモデルとして作成することによって、デザイン検討及び作図を進めていくことができます。それによりチーフデザイナーやデザイナーはBIMのメリットを得ることができ、よりクオリティの高いデザインを追求することができます。BIMクリエイターは実務経験を得ることができます。実務経験を得たBIMクリエイターはデザイナーの役割を果たすことができるようになりBIMエキスパートへと進化していき、更なる実務経験と一級建築士などの資格を得てチーフデザイナーの役割を果たすまでに成長していきます。ここまでくると、彼のチームはフルBIM対応のチームとなり、企業としても完璧なBIM化を果たすことができます。この様な、新陳代謝的方法でのBIM導入が今の時代には最適だと考えます。
これらから、「BIMエンジニアライセンス」は未来のオペレーターを育成するのではなく、未来チーフデザイナーになりうる人にその基礎であるBIM知識を提供しBIMクリエイターやBIMエキスパートを育成したいと強く思っております。そのためには、それに値する技能を持った人材を評価するシステムが必要で、そのシステムが「BIMエンジニアライセンス」となります。
日本BIM協会としては、ライセンスの取得よりも人材育成というところに重点を置き、資格制度にはもちろん講習にも力を入れていき、建築業界の将来へ微力ながら貢献していきたいと思っております。
【組織概要】
組織名:一般社団法人日本BIM協会
所在地:〒151-0051東京都渋谷区千駄ヶ谷5-27-5 リンクスクエア新宿16F
事業内容: BIM資格認定試験/BIM人材育成/BIM導入運営サポート
BIMに関する研究/BIM技術・最新情報の交流プラットフォームなど
HP:https://www.japanbim.or.jp