(共同リリース)
2023年10月 6日
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構
日本航空株式会社
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(本社:東京都調布市、理事長:山川宏、以下「JAXA」)と日本航空株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:赤坂祐二、以下 「JAL」)は、JALが進めてきたパイロット訓練のDX(デジタルトランスフォーメーション)をさらに促進する、機長昇格におけるパイロットの成長過程を記述する確率モデル(*1)の構築に成功しました。JAXAは航空宇宙工学の知識を生かしてデータの理解を容易にすることで社会のDXを促進し、JALは科学的理解によりパイロット人財育成をデータで補強することで、すべてのお客さまにより安全で安心な空の旅を提供してまいります。
現在、航空事故の発生率は低く抑えられてはいますが、どのような場面に遭遇しても冷静的確に状況を判断して回復できる、“レジリエント”なパイロットを養成するために、近年のパイロット養成では「能力(Competency)」の向上に主眼が置かれています。特にパイロットが連携して安全に業務を遂行するために必要な認知、判断及び、対人等に関する能力であるノンテクニカルスキルの向上が求められており、単純な計測が困難なこれらの能力を適切に把握・理解し、成長のためにフィードバックする必要があります。
JALはこれまで国土交通省航空局と協調して先進的な訓練データ記録システム(以下「CBCTシステム」)を自社開発してDXを推進してきました。今回JAXAからの航空宇宙工学において重要な生存時間解析(*2)の知見を応用した統計分析での協力により、CBCTに蓄積された数千フライト分のデータから共同でパイロットの成長過程を記述する確率モデルの構築に成功し、IEEE Transactions on Reliability (Early Access, DOI: 10.1109/TR.2023.3294021)にて査読論文を発表しました。また、この成果を基に、成長過程をいくつかのパターンに分類することにも成功し、2023年10月1日〜4日に米国ハワイ州で開催された国際会議(IEEE Conference on Systems, Man, and Cybernetics)にて発表しました。
これらの確率モデル化によって、従来感覚的に理解されてきたパイロットの成長過程に関する基本的な性質を定量的に表現できるため、訓練インストラクターが被訓練者の改善の兆候や訓練効果をいち早く認識し、より効果的な訓練を実施する手助けとなる効果が期待されます。また、これによる結果として、訓練期間が短縮され、今後のパイロット不足の軽減につながることも期待されます。
JALでは、JAXAと協力しながら今回の成果をCBCTシステムに組み込むシステム開発を実施し、先進的なパイロット訓練環境の実装を通して、すべてのお客さまにより安全で安心な空の旅を提供してまいります。また、JAXAでは、今回の成果はパイロット訓練のみならず一般的な成長過程にも当てはまるものと考えており、リスキリングなどで社会的な需要の高まる様々な専門的分野での成長過程に応用して社会的な価値を生み出し、JAXAが有する技術を活用した社会のDX支援を推進してまいります。
【論文要旨】
「能力(Competency)」に改善が望まれるときに記録されるフラグ(要改善フラグ)の1フライト当たりの付与回数の確率分布が「生存時間解析(*2)」で使われる確率分布を応用したLMR(*3)分布に従うことを発見し、パラメータの一つを訓練の成長ステップと解釈することで、訓練のステップアップに従って付与されるフラグの数が減っていく様子(左図)を数理モデルとして表現できました。
(*1) ある現象が起こる確率を数学的に表現したものであり、ここでは訓練中に記録されるフラグが1フライト当たり特定の回数付与される確率の推移を表現したもの
(*2) 機器の故障時間や患者の生存時間などについて分析する統計解析
(*3) LMR=Limit of Marginal distribution of Ryu’s bivariate exponential distribution
本研究は科研費21K14350の助成を受けたものです。
以上