摂南大学にて、漢方薬の原料植物に新知見

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摂南大学(学長:荻田喜代一)薬学部の伊藤優講師らの共同研究グループは、漢方薬の原料である生薬タクシャの基原植物※1 サジオモダカの仲間について、世界中で採取した試料を用いてDNA解析を行い、東南アジアの高原地帯に取り残されて進化した種がいることを突き止めました。
  • 本件のポイント

・中国南部ー東南アジアの高原地帯に固有種を認めた

・NHK朝ドラのモデル、牧野富太郎博士も研究していたサジオモダカ属で新知見

・SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」につながると期待

ミャンマー・シャン州で発見した東南アジア高原地帯の固有種Alisma orientale.ミャンマー・シャン州で発見した東南アジア高原地帯の固有種Alisma orientale.

本研究グループは、五苓散(ごれいさん)や八味地(はちみじ)黄丸(おうがん)などの漢方薬に配剤される生薬タクシャの基原植物サジオモダカに着目し、欧州各地やアジア、オセアニアで収集したサジオモダカ及びその近縁種のDNAの塩基配列を調べ、分子系統解析※2を行いました。

その結果、主に北半球の冷温帯に広く分布しているとされてきたサジオモダカのうち、分布の南端にあたる中国南部と東南アジアの個体が、独自に進化した固有種であることが示されました。本成果は、熱帯アジア有数の規模を誇るインド・ミャンマー生物多様性ホットスポットの未知なる多様性の一端を裏付ける発見であり、SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」※3につながると期待されます。

一方で、今回の発見により、生薬タクシャの基原植物が、日本を含む北半球に広く分布するサジオモダカなのか、今回見つかった中国ー東南アジア固有種なのか、という疑問を残しました。そこで伊藤講師の研究室では今後、さまざまな生薬タクシャのDNA試料を解析し、現在流通している生薬タクシャの真の正体に迫ります。

なお本研究では、現在放送中のNHK朝ドラのモデル、牧野富太郎博士が発見し命名したホソバヘラオモダカ(サジオモダカ属)も解析しており、その固有性も確認されました。

本研究成果は、前述の牧野博士が創刊に携わった植物学雑誌の後継雑誌である日本植物学会誌「Journal of Plant Research」(2023年7月4日付)に掲載されました。

URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s10265-023-01477-1

分子系統解析によって得られたサジオモダカ属の系統樹。欧州や東アジアのサジオモダカ(紫)と中国、ミャンマー、ベトナムのサジオモダカ(ピンク)がそれぞれ独自に進化した独立種であることを示す。分子系統解析によって得られたサジオモダカ属の系統樹。欧州や東アジアのサジオモダカ(紫)と中国、ミャンマー、ベトナムのサジオモダカ(ピンク)がそれぞれ独自に進化した独立種であることを示す。

  • 用語説明

※1 漢方薬の構成原料である生薬の由来となる植物を指す。生薬タクシャの場合は、サジオモダカが基原植物であるとされているが、国際版では、今回発見された固有種を指すラテン名Alisma orientaleが用いられている。

※2 DNAの塩基配列をコンピューター上で比較し統計処理をすることで、従来の外部形態の比較では分からなかった種の違いや進化の道筋を明らかにする手法。

※3 人類がこれまでに享受してきた地球からの恩恵を今後の世代にも受け継ぐための世界共通の目標の一つで、本研究で得られたような分類学的知見を基に、保護すべき動植物種や生態系の選定が行われている。

  • 論文情報

論文名 Phylogeny of Alisma (Alismataceae) revisited: implications for polyploid evolution and species delimitation(東南アジア高原地帯で固有種を発見:オモダカ科サジオモダカ属の分子系統から)

著者名 伊藤 優 1、田中 法生 2(1 摂南大学薬学部、2国立科学博物館筑波実験植物園|植物研究部 多様性解析・保全グループ)

雑誌名 Journal of Plant Research(日本植物学会誌)

DOI 10.1007/s10265-023-01477-1

公表日 2023 年7 月4 日(火)(オンライン公開)

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