【HR総研】「人的資本経営・開示の現状2023」に関する調査結果を公開

この記事は約10分で読めます。
人事のプロを支援するポータルサイト「HRプロ」を運営するProFuture株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長CEO:寺澤 康介)の研究機関であるHR総研は、「人的資本経営・開示の現状」に関する調査を行いましたので、結果を報告いたします。

今後も続くであろうVUCAの時代を生き残り、企業が持続的な成長を果たすために「人的資本経営」の推進を重視する動きが、企業の間で広がっています。また、2022年8月30日に内閣官房より公表された人的資本に関する開示のガイドラインである「人的資本可視化指針」により、今年度より上場企業には有価証券報告書で複数項目の開示が義務化されました。
このような動きを受けて、HR総研では、人的資本経営の捉え方や取組みの実態を把握するアンケートを実施いたしましたので、調査の結果をご報告いたします。

  • 【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「データドリブンな人事と人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート  
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2023年4月17~24日
調査方法:WEBアンケート
調査対象: 企業の人事責任者・担当者
有効回答:221件

  • 【調査結果サマリー】

●「人的資本経営」を重視する企業が7割に急増、大企業では8割にも
●「人的資本経営」に取り組む企業も昨年より増加
●「パーパス浸透」と「従業員エンゲージメント」を重視する企業は7割
●「社員のウェルビーイング」を重視するほど「人的資本経営」にも前向きか
●「人的資本経営」に取り組む目的、「従業員エンゲージメント向上」が最多
●「経営戦略と人材戦略との連動」などへのステップが大企業で前進傾向
●キャリア採用や外国人の獲得や社員のリスキルに取り組む企業が顕著に増加、
●6割の企業で従業員エンゲージメント向上に手応え

<<<調査データより一部抜粋してご紹介いたします>>>

▼「人的資本経営」の重視度(昨年比較)

「人的資本経営」を重視する企業が7割に急増、大企業では8割にも

今年(2023年)調査では「重要だと認識している」が最多で36%、次いで「やや重要だと認識している」が33%となり、これらを合わせて「重視派」(以降、同じ)は69%とほぼ7割に上っている。一方、昨年(2022年)調査では「重視派」の割合は34%で、「重要だと認識している」については僅か8%にとどまっていた。この1年間で「重視派」の割合は35ポイントも増加しており、急速に人的資本経営に対する企業の意識が高まっていることが分かる。

▼各人材施策の重視度

「パーパス浸透」と「従業員エンゲージメント」を重視する企業は7割

「パーパス浸透」、「従業員エンゲージメント」、「社員のキャリア自律」、「社員のウェルビーイング」の4つの人材施策について、重視度を見てみる。
4つの施策の中で「重視している」の割合が最も高いのは「パーパスの社内浸透」で30%となっており、逆に最も低いのは「社員のウェルビーイング」で17%、これらの差異は13ポイントと倍近くの開きがある。また、「やや重視している」まで含めた「重視派」の割合は、4つの施策とも6割以上に上り、いずれの施策も重視する企業の方が多数派であることが分かる。特に「パーパス浸透」と「従業員エンゲージメント」がともに71%と7割を超えている。

▼企業規模別 現在の業況

現在の業況を企業規模別に見てみると、「良い」の割合は大企業で17%、中堅企業で5%、中小企業で13%と、いずれも2割未満にとどまっている。「やや良い」まで含めた「良い派」については、大企業では74%、中堅企業では46%、中小企業では61%となり、大企業と中小企業では業況が良い傾向で、中堅企業では比較的悪い傾向となっている。

人材施策の重視度・組織状態による業況の違い(平均値)
 「社員のウェルビーイング」を重視するほど「人的資本経営」へも前向きか

現在の業況(4段階評価)について、各人材施策の重視度が高い企業群、及び「イノベーション風土」と「レジリエンス」に関する組織力がある企業群の平均値を並べてみた。
その結果、最も業況の平均値が高いのは「人的資本経営の実施」企業群で2.94となっている。一方、最も平均値が低いのは「従業員エンゲージメント重視」企業群で2.75となっている。
人的資本経営の実施率はパーパス浸透重視率とともに71%となっており、これらの間には33ポイントと大きな差異がある。このことから、従業員エンゲージメントは7割にも上る大半の企業で重視されているのに対して、4割未満にとどまる人的資本経営を実施する企業群はより踏み込んだ具体的な取組みを実施している企業群であり、そのような企業群でこそ業況が良好な傾向となっていると推測される。また、「組織のレジリエンスあり」企業群(業況平均値2.86)が、「人的資本経営の実施」企業群に次いで業況の良い状態にあることも、興味深い結果である。

※業況:4段階評価(1:悪い、2:やや悪い、3:やや良い、4:良い)

▼企業規模別 「人的資本経営」に取り組む目的

「人的資本経営」に取り組む目的、「従業員エンゲージメント向上」が最多

人的資本経営に取り組む目的について、企業規模別に見てみると、大企業では「従業員エンゲージメント向上」が最多で67%、次いで「採用力の強化」と「生産性の向上」がともに52%などとなっている。中堅企業では「生産性の向上」が最多で59%、次いで「従業員エンゲージメント向上」が56%、「採用力の強化」が47%などとなっており、上位3項目は大企業と同様となっている。中小企業では「従業員エンゲージメント向上」が最多で70%と大企業より高い割合で、次いで「組織力の強化」が59%、「生産性の向上」が58%などとなっており、「組織力の強化」については大企業や中堅企業より顕著に高い割合であることが分かる。

▼「視点1:経営戦略と人材戦略との連動」への取り組み状況

大企業で「取り組み中」の割合が最も高いのは「人材面での全社的な経営課題の抽出」で60%(全体37%)と6割に上る。昨年調査では「経営戦略の意思決定への人事部門の関与」(55%)が最多だったことを踏まえると、やや踏み込んだステージに入っている企業が増えていることが推測される。一方、大企業での「取り組み中」の割合が最も低くなっている項目は昨年と同じで「人材に関するKPIの役員報酬への反映」で25%(全体12%)となり、「人材面での全社的な経営課題の抽出」より35ポイント低く、項目により取り組み状況が顕著に異なることが分かる。ただし、大企業で「取り組み中」の割合が過半数に達している項目が4項目ある(昨年調査では1項目のみ)ことは、取り組みを進めている企業が増加していることが期待される。

▼「視点2:『As is(現在の姿) – To be(目指すべき姿)のギャップ』の定量把握」への取り組み状況

「人事情報基盤の整備」の「取り組み中」の割合が最も多く、大企業で49%(昨年40%)、全体で32%となっている(図表6-2)。他2項目は「人事情報基盤の整備」ができた上で、現在の姿と目指すべき姿のギャップを定量的に可視化するために必要な取組みであり、今後、各種の取組みを計画的かつ効果的に進める中で、重要なステップとなる。

  • 【HR総研 客員研究員からの分析コメント】

曽和 利光氏
株式会社人材研究所 代表取締役社長 /日本採用力検定協会理事 /日本ビジネス心理学会理事 /情報経営イノベーション専門職大学 客員教授/HR総研 客員研究員

ようやく「人への投資」が本格化する兆し

「企業は人なり」とは大昔から言われてきたことではあったが、人事担当者として経営者に対して人に対する「投資」を要望することは骨の折れる仕事であった。採用費や教育研修費などは基本的に経費として処理されるもので短期的には利益を押し下げるのに対して、その一方で資産としては計上されず、財務諸表上では評価されないものであったためだ。

それが人的資本可視化指針や「ISO30414」などによって、7割もの企業が「人的資本経営」を重視する時代に急速に変化しているのは大変喜ばしいことである。人的資本が可視化されて正しく評価されるようになることで、各企業はステークホルダーの理解を得ながら、積極的な人材投資をしやすくなるであろう。ただ、このことは、人事担当者の説明責任が増大することでもある。自身の推進する人事諸施策において、より成果を意識することも要求される。この緊張感が、人事諸施策を磨き上げることにもつながると期待したい。

調査の中身で興味深かったのは、従業員エンゲージメントやパーパス浸透を重視している企業の業況判断が低いことであった。経営サイドとしては従業員エンゲージメントが高まって離職が減ったり、パーパスが浸透して組織が方針通りに動いたりすることを望むのは当然だ。しかし、それらはあくまで結果であって、その前にまずきちんと人に投資をし、社員のキャリア自律やウェルビーイングを支援していることが大事だと言うことであろう。実際、人的資本経営を実施している企業の業況はトップであり、そのメリットとして従業員エンゲージメントの向上があげられている。

 なお、現時点での人的資本経営はひとまず「人材面での全社的な経営課題の抽出」への取り組みが最大ということで、今は課題の洗い出し段階ということだ。そのベースとして「人事情報基盤の整備」を行なって、データ化・可視化を行おうともしている。日本企業の人的資本経営はまだ始まったばかりだ。

——————————————————————–
▶【HR総研】「人的資本経営・開示の現状2023」に関する調査結果
https://www.hrpro.co.jp/bc.php?id=57786

▶過去のHR総研のレポート一覧はこちら
https://www.hrpro.co.jp/bc.php?id=52994

▶HR総研の各調査のマンスリーレポートなどホワイトペーパーはこちら
https://www.hrpro.co.jp/bc.php?id=52995

※本レポート内容は、引用、参照いただけます。
   下記要項にてお問合せ先までご連絡をお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
2)当調査のURL記載、またはリンク設定
3)HR総研へのご連絡
・会社名、部署・役職、氏名、連絡先
・引用元名称(調査レポートURL) と引用項目(図表No)
・目的
※HR総研では、当調査に関わる集計データのご提供(有償)を行っております。
   詳細につきましては、下記までお問合せください。
——————————————————————–
■お問い合わせ先
HR総研(ProFuture株式会社内)
担当 : HR総研 久木田・高槻
E-mail: souken@hrpro.co.jp
HR総研サイト:https://www.hrpro.co.jp/hr_research_institute.php
——————————————————————–
■会社概要
企業名   : ProFuture株式会社
代表者   : 代表取締役社長CEO 寺澤 康介
所在地   : 〒100-0014東京都千代田区永田町2-14-2 山王グランドビル5階
設立     : 2007年7月
事業内容 : 人事ポータルサイト『HRプロ』、CMS・MA一体型ツール『Switch Plus』、
                人事担当者・経営者向けイベント『HRサミット』の開催などメディア事業、
               イベント事業、ソリューション事業、人事関連の研究
URL  : https://profuture.co.jp/
——————————————————————–  

タイトルとURLをコピーしました