1 経過・課題
近年、JASRACが扱う音楽著作権において配信分野の使用料収入が拡大しており、総徴収額(1290.1億円)に占める配信利用分の割合は2022年度実績で34.6%(446.6億円)となりました(参考:2023年5月24日プレスリリース https://www.jasrac.or.jp/release/23/05_2.html)。特に、グローバル展開する音楽サブスクリプションや動画配信サービスは、膨大な量の楽曲を世界中で聴くことができるため、利用の対価となる著作権使用料を確実に得ることが、国内のクリエイター・権利者を始めとする音楽関係者にとっての重要な課題・関心事となっています。
デジタル音楽配信事業者(DSP)は、各国・地域ごとにJASRACなどの音楽著作権管理団体らと契約を結び、著作権使用料を支払うとともに利用した楽曲を報告しています。JASRACは各国・地域の著作権管理団体との契約を通じて相互に楽曲を管理しています。例えば、JASRACが管理している楽曲が海外で利用された場合、各地の管理団体がDSPから使用料の支払いを受けJASRACに使用料を送金、JASRACが国内のクリエイター・権利者へ使用料を分配しています(※1)。外国からJASRACへの使用料送金額は、2022年度実績で18.9億円となり、コロナ前の2019年度比で約3倍となりました。
一方、音楽サブスクリプションや動画配信サービスでは膨大な楽曲を利用するため、使用料分配に際して行う楽曲の特定が課題となっています。
JASRACでは、演奏、放送、配信、複製等多くの分野で音楽の利用者から利用楽曲の報告を受け、これをもとに管理楽曲を特定し、委託者から届け出られた権利関係(分配割合等)に基づいて各権利者に使用料を分配しています。年間報告数は合計32.4億件で、このうち配信分野が全体の93.5%、30.3億件を占めています(2022年度)。
配信分野では、報告された音源情報:ISRC(International Standard Recording Code/国際標準レコーディングコード)をもとに楽曲を特定しているほか、タイトルや作家名、アーティスト名などの楽曲情報(これらを「メタデータ」とも呼んでいます)をもとにシステム上で特定を行います。システム上で特定できない場合は、専門スタッフによる特定を行います。この結果、JASRACにおける楽曲特定率(※2)は音楽サブスクリプションにおいて95.3%(2022年度)となっています。
日本では、音楽サブスクリプションなど大規模配信事業者を中心としてCDC(一般社団法人著作権情報集中処理機構 https://www.cdc.or.jp/)を活用して効率的に報告データを作成しています。また、一度楽曲を特定できた場合、報告データに楽曲の識別子(作品コード)を付与して配信事業者へフィードバックしています。配信事業者が、以降の利用において作品コードを含めて報告データを作成することで、正確性も確保されます。このように日本では、配信事業者と著作権管理事業者それぞれの取り組みを通じて、クリエイター・権利者への対価還元が実現されています。
しかし、新たに配信される楽曲数が多いことなどから、特定できていない分(4.7%)は、約95億のリクエスト回数(PDや非管理楽曲を含みます)に相当します。このような配信利用における楽曲特定は、世界はもとより日本においても課題となっています。
この楽曲特定に関する課題のうち、特に自国の楽曲が海外で利用される場合、現地には音源情報(ISRC)に関連付けられる楽曲情報がないことが多く、また、タイトルが現地表記に変換されることで、特に独自の文字体系を持つアジア地域での利用においてメタデータによる特定を困難にしています。そこで、この課題解決を図るためにJASRACは、CISACアジア太平洋委員会に所属する「FILSCAP(フィリピン)、KOMCA(韓国)、MÜST(台湾)、WAMI(インドネシア)」と連携し、GDSDXプロジェクトを立ち上げました。
※1 録音権を中心に、音楽出版社が現地の会社と契約をして、その会社を通じて使用料が支払われるケースもあります。
※2 著作権保護期間が満了している楽曲(PD)やJASRACが管理していない楽曲(非管理楽曲)を含む、全てのリクエスト回数に占める割合
2 GDSDXについて
GDSDXは、各DSPからJASRACなどの著作権管理団体に報告される情報のうち、①各DSPが配信するコンテンツ(楽曲や動画)ごとに作成しているユニークコード(下図「配信楽曲ID」)と、②音源情報(ISRC)をキーとして、各著作権管理団体の管理楽曲の情報を関連付けたデータベースです。
各DSPから各国・地域の著作権管理団体には、DSPごとに世界共通で使用している配信楽曲ID(上記①)が報告されるため、このIDをキーとして、利用楽曲を正確に特定できるようになります。これにより、各地でタイトルが現地表記に変換されるなどしても、GDSDXを通じて的確に楽曲を特定できるようになります。さらに、CISAC内で共有しているISWC(International Standard Musical Work Code/国際標準音楽作品コード)や作品届(権利者から著作権管理団体に届けられる資料)のデータとも関連付けが行われるため、各団体で行う分配までの作業効率を高めることができます。
3 今後について
今回のリリースにおいては、グローバル展開する配信サービスのうち、YouTubeを対象にJASRACが管理する楽曲情報43万件と他のプロジェクト参加4団体の楽曲を合わせた計140万件の楽曲情報でスタートしました。今後は、Apple、Spotify、TikTokなどYouTube以外の配信サービスにも拡大する予定です。
GDSDXはアジア・太平洋地域のポータルシステムとして運用をスタートし、今後はCISACと連携しながら参加団体を拡大してまいります。これにより、楽曲特定の精度を高め、世界中の音楽クリエイター・権利者がより精緻な使用料分配を受けられるようにしてまいります。
CISACとJASRACは4月6日に都内で共同会見を開催し、GDSDXを始めとしたデジタル社会におけるクリエイターへの対価還元に関する課題と取り組みを説明しました(参考:2023年4月19日プレスリリース https://www.jasrac.or.jp/release/23/04_3.html)。
一般社団法人日本経済団体連合会が4月11日に発表した「Entertainment Contents ∞ 2023- Last chance to change -」において、「世界における日本発コンテンツのプレゼンスを持続的に拡大する」ことが目標として掲げられました。JASRACとしても、GDSDXを始めとして、世界での日本楽曲の利用が促進され、そして得られる対価を最大化させるための取り組みを推進することで、わが国のコンテンツ産業、音楽産業の発展に貢献してまいります。
GDSDXは、「委託者共通の目的にかなう事業」の一環で行うものです 「委託者共通の目的にかなう事業」は、音楽の利用者からお支払いいただいた使用料のうち、権利者から作品届等が提出されないために10年を超えて分配できない状態にある使用料を原資として実施するものです。事業の内容は、管理委託契約約款第22条第2項により、理事会で決定する前に、外部の有識者で構成する委員会において調査・審議することとしており(参考:2021年5月28日プレスリリース https://www.jasrac.or.jp/release/21/05_4.html)、この事業も2021年5月から委員会で審議し、2021年11月に実施が決定しました。 |
■一般社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)について
JASRACは作詞家、作曲家、音楽出版社等の権利者から音楽の著作権の管理委託を受け、音楽を利用する方々に利用を許諾し、その対価としてお支払いいただいた著作物使用料を著作権者に分配しています。1939年に国内初の著作権管理団体として設立され、80年以上にわたり、著作権管理のプロフェッショナルとして音楽文化の発展に向けた努力を続けています。
団体名 :一般社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)
代表者 :理事長 伊澤 一雅
本部所在地:東京都渋谷区上原3-6-12
設立 :1939年11月18日
URL :https://www.jasrac.or.jp
事業内容 :音楽の著作物の著作権に関する管理事業、音楽著作物に関する外国著作権管理団体等との連絡および著作権の相互保護、私的録音録画補償金に関する事業、著作権思想の普及事業、音楽著作権に関する調査研究、音楽文化の振興に資する事業