γδT細胞は体内の粘膜に広く存在するリンパ球で、免疫反応を制御し、様々な炎症性疾患や癌との関連も指摘されている。 γδT細胞は腸管内に特に豊富であるが、脳腸相関における γδT細胞の役割は不明であった。
本研究では、慢性的に心理社会的ストレスをかけたマウスにおいて(図1)、腸内細菌のうちγδT細胞の分化に関わる特定の乳酸菌が減少することで、うつ病様行動の指標とされる社会性の低下を示すことを見出した(図2)。また、昭和大学の真田建史准教授、慶応大学の岸本泰士郎特任教授、福田真嗣特任教授らとの共同研究で、同属乳酸菌の減少が、ヒトのうつ病患者のうつ症状重症度と相関していることを見出した。
また、腸管において、ストレスにより γδT細胞からIL-17と呼ばれる炎症性サイトカインを産生する T細胞(γδ17 T細胞)への分化が促され、これらが脳髄膜へと移行することでうつ病様行動が引き起こされることを明らかにした(図3)。
これらの細胞分子変化は、 T細胞に存在する免疫反応を司どる受容体の1つであるデクチン1により仲介されることがわかった。抗炎症作用を持つことで知られる漢方生薬である「茯苓」の成分パキマンは、デクチン1により認識される。心理社会的ストレスをかけたマウスにおいて、パキマンを慢性経口投与したところ、この受容体を介して腸管におけるγδ17 T細胞への分化と脳への移行を抑制し、うつ病様行動への予防効果があることを明らかにした(図2)。さらに、ストレスにより減少した特定の乳酸菌の経口投与によっても、同様の予防効果を見出した。
既存のうつ病治療薬はセロトニンをはじめとする脳内神経伝達物質を調整するものがほとんどであり、うつ病の有病率が高いにも関わらず、多くの患者が治療抵抗性を示す。本研究は、腸管の免疫システムを、創薬ターゲットとすることで、ストレスにより生じるうつ病など精神疾患に対する新しい予防・治療法開発につながる可能性を示している。
論文情報
タイトル:Dectin-1 signaling on colonic γδT cells promotes psychosocial stress responses
掲載紙:Nature Immunology
著者:Xiaolei Zhu, Shinji Sakamoto, Chiharu Ishii, Matthew D. Smith, Koki Ito, Mizuho Obayashi, Lisa Unger, Yuto Hasegawa, Shunya Kurokawa, Taishiro Kishimoto, Hui Li, Shinya Hatano, Tza-Huei Wang, Yasunobu Yoshikai, Shin-ichi Kano, Shinji Fukuda, Kenji Sanada, Peter A. Calabresi, Atsushi Kamiya
DOI: 10.1038/s41590-023-01447-8
URL: https://www.nature.com/articles/s41590-023-01447-8
本件・共同研究等の問い合わせ先
ジョンズホプキンス大学医学部 精神医学部門
教授 神谷篤
住所:600 North Wolfe Street, Meyer 3-162A Baltimore MD 21287 USA
Web: https://www.hopkinsmedicine.org/profiles/details/atsushi-kamiya
Eメール: akamiya1[@]jhmi.edu