本調査から、LGBTQの8割が障害や生活困窮に関する行政・福祉サービスを利用した際にセクシュアリティに関連した困難を経験し、その影響で3人に1人が病状悪化、5人に1人が自殺念慮・未遂に繋がっていることが明らかになりました。また、医療サービスを利用した際にトランスジェンダー男性・女性の8割がセクシュアリティに関連した困難を経験し、その影響で4割が体調が悪くても病院に行けなくなり、4人に1人が自殺念慮・未遂に繋がる等、喫緊な状況が明らかになりました。
国・自治体・医療福祉サービス提供者が、本来の安全網としての役割を果たせるよう、LGBTQの課題を認識し、解消のために取り組むことが求められます。その実践は、G7首脳コミュニケに記載された「性自認、性表現あるいは性的指向に関係なく、誰もが同じ機会を得て、差別や暴力から保護されることを確保」することにも繋がります。
- アンケート調査『LGBTQ医療福祉調査2023』結果
本調査は、LGBTQの医療・福祉の利用に関する現状を明らかにすることで、LGBTQも安全に利用できる社会資源を増やすことを目指し、認定NPO法人ReBitが、日本財団の助成をいただき実施しました。2023年1月15日(日)〜2月12日(日)に、インターネットで実施。回答者について、その年代、居住地、セクシュアリティの分布は、以下の通りです。なお、本調査は、1138名からご回答いただき、うち有効回答961名を分析しました。
アンケート調査より見えてきた、LGBTQの社会資源利用の実態や課題を以下7つのポイントにてまとめました。
1)LGBTQは精神障害を経験する割合が高い。
過去10年で、LGBTQの41.2%が精神障害を経験し、18.2%が精神障害保健福祉手帳を所持したと回答。内閣府の「令和2年度 障害者白書」によると、身体障害者は3.4%、知的障害者は0.9%、精神障害者は3.3%であり、本調査の回答者の分布と比較して精神障害者が12.5倍と高い割合であることが分かります。
この背景には、学齢期のいじめ(41.6%)や求職・就労に関する困難(39.3%)、セクシュアリティに関するハラスメントやアウティング経験(45.7%)等、さまざまな困難があると考えられます。
2)LGBTQは自殺におけるハイリスク層。特に、障害があるLGBTQが顕著。
これまでに、LGBTQの64.1%が自殺念慮、26.7%が自殺未遂、40.0%が自傷行為を経験したと回答し、LGBTQは自殺におけるハイリスク層であると言えます。
特に障害・難病があるLGBTQは、79.3%が自殺念慮、41.3%が自殺未遂、50.9%が自傷行為を経験し、自殺におけるリスクはさらに深刻です。日本財団の『日本財団第 4 回自殺意識調査(2021)』と比較し、障害・難病のあるLGBTQの自殺念慮は3.3倍、自殺未遂経験は6.7倍高い状況にあります。
3)LGBTQは生活困窮におけるハイリスク層。特に、障害があるLGBTQが顕著。
過去10年に、LGBTQの半数(46.8%)は生活困窮を経験したと回答し、4人に1人(26.4%)は「預金残高が1万円以下になった」経験があります。また、「健康保険料、年金保険料を滞納した(11.8%)」「生活保護や給付金等の金銭的な支援を受けた/必要とした(11.3%)」と最低限度の生活を維持することが困難になった経験も挙がりました。
過去10年に、障害・難病があるLGBTQの62.2%は生活困窮を経験したと回答しました。障害・難病がないLGBTQに比べて、障害・難病があるLGBTQは「生活保護や給付金等の金銭的な支援を受けた/必要とした」割合が7.5倍高く、複合的マイノリティであることにより困難経験の割合が高いと考えられます。
また、過去10年に、最終学歴が小学〜高校のLGBTQの62.6%は生活困窮を経験したと回答しました。最終学歴が大学~大学院のLGBTQに比べて、最終学歴が小学~高校のLGBTQは「生活保護や給付金等の金銭的な支援を受けた/必要とした」割合が2.8倍高いことも明らかになりました。
4)LGBTQの約半数が、行政・福祉サービスを利用する必要があっても、利用できていない。
障害・難病があるLGBTQの46.0%は、必要時も障害に関する行政・福祉サービス等にアクセスできていません。また、金銭や生活基盤で困った際にLGBTQの52.4%が、生活困窮に関する行政・福祉サービス等にアクセスできていません。利用ニーズがありながら、行政・福祉サービス等にアクセスできていない理由として、49.6%がセクシュアリティに関する不安や困難を挙げています。
5)LGBTQの95.4%は、行政・福祉関係者にセクシュアリティについて安心して話せない。なお、LGBTQの半数は、支援者にセクシュアリティを伝えなかったことで、必要・適切な支援が受けられないことに繋がった。
行政・福祉関係者にセクシュアリティについて安心して話せないLGBTQの割合は95.4%と、高い状況です。また、障害・生活困窮に関する行政・福祉サービス等を利用した際にセクシュアリティについて支援者に伝えなかった理由として、47.9%がハラスメントやアウティング(第三者へセクシュアリティを勝手に暴露されること)への恐れを挙げています。
一方で、53.5%が行政・福祉サービス等を利用した際に支援者にセクシュアリティを伝えなかったことで、必要・適切な支援を受けられなかったと回答。このことから、ハラスメントやアウティングへの恐れにより支援者にセクシュアリティに関連する情報を伝えられないことは、必要・適切な支援を阻む要因になっていると考えられます。
6)障害や生活困窮に関する行政・福祉サービスを利用した際に、LGBTQの約8割がセクシュアリティに関する困難を経験。それにより、3人に1人が病状悪化・心身不調を、5人に1人が自殺念慮・未遂を経験。
過去10年に、障害や生活困窮に関する行政・福祉サービス等を利用したLGBTQの78.6%が、利用時にセクシュアリティに関する困難を経験し、安全に行政・福祉サービスを利用できていません。
なお、セクシュアリティに関する困難は、支援者の無理解による困難(50.6%)、包摂的環境でないことによる困難(49.4%)、安全に相談できるか周知されていないことによる困難(70.5%)に大別できます。行政職員や福祉従事者がセクシュアリティについて理解を深め、安心して相談できる体制・環境を構築するとともに、その情報を広く発信・周知することが重要であると言えます。
また、障害や生活困窮に関する行政・福祉サービス等を利用した際の困難経験により、LGBTQの52.8%は困難がより深刻化しています。3人に1人(31.0%)が病状悪化・心身不調を経験し、5人に1人(21.8%)が自殺を考えた/自殺未遂をしたと回答しています。セーフティーネットであるはずの行政・福祉サービスを安全に利用できず、困難をより深刻化させている現状は喫緊の課題であり、対応・取り組みが急がれています。
<行政・福祉サービスに関する自由回答>
●障害に関する行政・福祉サービス
・職場でのアウティング等のハラスメントにより精神障害になり退職した際に、障害福祉サービスを利用しようかとも思ったが、またトランスジェンダーであることでハラスメントを受けたらどうしようと不安で相談できなかった。そんな自分はもう働けない、生きられないと思った。(30代、トランスジェンダー男性、東京都)
・障害と難病がありグループホームへ入所したが、トランスジェンダーであることで周りからのストレスをうけ、心も体もボロボロになり、障害と難病が悪化し、自殺未遂もした。(40代、トランスジェンダー男性、青森県)
・精神・発達障害があり就労継続支援事業所に通っていたが、作業中にLGBTQへ差別的な会話がされるたびにハラハラした。 支援員も全く知識がなく、カミングアウト後もどう私に接したらいいのか分からないようだった。その事業所に通い続けることができなくなり、病状が悪化した。(20代、レズビアン、東京都)
・パートナーが福祉サービスを必要としているが、私は家族とはみなされないため協力できることが限られるのがもどかしい。(40代、ゲイ、福岡県)
●生活困窮に関する行政・福祉サービス
・生活保護が必要な状況だが、親族への扶養照会をされると、名前と性別を変更したことが親族に伝わってしまうため、それが不安で利用できていない。(40代、トランスジェンダー女性、茨城県)
・生活保護開始時に、お金がかかるためホルモン治療をやめるように言われた。行政職員や福祉サービスの担当者もあまりにも知識や理解がなく、必死で治療の必要性を伝えても、誰一人として理解しくれず、失望した。(30代、トランスジェンダー女性・レズビアン、滋賀県)
7)医療サービスを利用した際に、LGBTQの約7割、トランスジェンダー男性・女性の約8割が、セクシュアリティに関連した困難を経験。トランスジェンダーの42%は体調が悪くても病院に行けなくなり、25%が自殺念慮・未遂を経験。
医療関係者にセクシュアリティについて安心して話せないLGBTQは81.3%であり、適切な治療を受けるために必要であっても、情報共有が困難な状況であると考えられます。
なお、過去10年に医療サービス等を利用した際に、LGBTQの66.1%、特にトランスジェンダー男性・女性は77.8%が、セクシュアリティに関連した困難を経験しています。
トランスジェンダー男性・女性が経験した困難として「どの医療者に、セクシュアリティを含めて安心して相談できるかわからなかった(46.9%)」「医療者が、セクシュアリティに関する知識や理解がなかった/不足していた (34.6%)」が挙げられます。医療者がセクシュアリティについて理解を深め、安心して相談できる体制・環境を構築するとともに、その情報を広く発信・周知することが重要であると言えます。
また、医療サービス等を利用した際にセクシュアリティに関連した困りごとを経験したことにより、LGBTQの63.7%、トランスジェンダー男性・女性の75.9%は困難が深刻化しています。トランスジェンダー男性・女性の42.0%は体調が悪くても病院に行けなくなり、25.9%は自殺を考えた/自殺未遂をしたと回答しています。
なお、医療サービスの利用ニーズが高いことが想定される障害・難病があるLGBTQにおいても、71.4%が過去10年にセクシュアリティに関連した困難を経験しています。それにより、71.5%は困難が深刻化し、34.7%は体調が悪くても病院に行けなくなり、30.9%は自殺を考えた/自殺未遂をし、26.0%は体調不良・病状悪化につながっています。
医療という生命・健康の維持に影響するサービスを安全に利用できず、その結果として困難をより深刻化させ、自殺未遂等にもつながっている現状は、喫緊の課題です。今、医療分野においても、命を守るための対応・取り組みが急がれます。
<医療サービスに関する自由回答>
●トランスジェンダーへの無理解・対応不足に関する困難
・セクシュアリティが要因となり適切に診断をされないことが多々あった。手足の震えが止まらず大学病院に行ったところ「トランスジェンダーのストレスのせいだ」と医者に言われ、帰された。また、子宮の痛みが続き産婦人科に行ったところ、ホルモン投与をしていることを理由に「専門医に行ってください」と帰されたが、産婦人科以外の専門医はいないのではないかと驚いた。(30代、トランスジェンダー男性、東京都)
・初めて行った病院の問診票にホルモン投与をしている旨を書いたところ、医師に「ふーん」と笑いと共に、下から上までじーっと見られた。(30代、トランスジェンダー男性、群馬県)
・職場でハラスメントを受け、精神的に不調になった際にやっとの思いで受診した心療内科で、トランスジェンダーであることについて、とても嫌な言葉を医者からかけられ、詮索され、精神的な不調がさらに悪化した。(30代、ノンバイナリー・パンセクシュアル、東京都)
・診察券や受付票に戸籍上の性別の記載があり、診察や検査の際に診察券を首からぶら下げたり、受付票をクリアファイルに入れて持ち歩かなければならず苦痛に感じた。(30代、トランスジェンダー女性、広島県)
・入院した際、一複数人が同時にシャワーを浴びるタイプのシャワー室で、入院中一度もシャワーを浴びれなかった。(30代、トランスジェンダー女性、東京都)
・コロナで入院する際、保険証の性別と社会生活の性別が異なっていたので、症状がひどい時に説明するのが大変だった。入院時は社会生活の性別に応じた男性部屋に入院できたが、腕につけるバンドがピンクで「性別:女」と書かれており、廊下にも氏名が掲出されていて、他の入院者にセクシュアリティがバレるのではないかと心配だった。(30代、トランスジェンダー男性、東京都)
●戸籍上が同性同士のパートナーへの無理解・対応不足に関する困難
・心療内科で医師に、同性のパートナーのことについて相談したが、ずっと「彼氏」と言われ、異性と付き合っているという決めつけが続き、余計にメンタル不調に繋がった。(30代、パンセクシュアル女性、福岡県)
・本当は救急車を呼びたかったが、同性パートナーが家族として同乗できない、近所にLGBTQであるとバレることが怖いと思い、呼べなかった。(20代、出生時に割り当てられた性は女性・性自認は決めていない・性的指向は女性、東京都)
・病院で同性パートナーが家族として扱われず、入院時の身元保証人、家族カンファレンスへの参加、病状や治療についての説明、手術待合室での待機、集中治療室での面会等、全てができなかった。(30代、FtX・性的指向は女性、東京都)
・婦人科にて「性交渉経験の有無」を問われた際、妊娠の可能性と性感染症の可能性を知りたいのだと思うが、同性とのみ経験のある場合どのように答えていいかわからない。前者の可能性はないが、後者は可能性があると思うとしっかり伝えたほうがいいのだと思うが、医師にカミングアウトしても大丈夫か、信用できるかどうかわからず困った。(20代、レズビアン、東京都)
・出産の際に、同性パートナーをキーパーソンに指定したが、同性パートナー以外の親類に連絡が行くかもしれないと言われた。 (30代、レズビアン、東京都)
- アンケート調査『LGBTQ医療福祉調査2023』全体考察:課題と今後に向けて
1.LGBTQは、自殺・精神障害・生活困窮に関するハイリスク層。
LGBTQは精神障害、自殺念慮・未遂、生活困窮を経験する割合が高く、特に障害・難病のあるLGBTQにおいて自殺念慮・未遂や生活困窮を経験する割合が顕著であることから、インターセクショナリティ(交差性)により、困難が多層化している様子が窺えました。行政の自殺、障害、生活困窮に関連する条例や計画・施策にLGBTQを包摂し、取り組みを継続的に進めることが重要です。また、LGBTQが行政・福祉サービスにアクセスができず、困りごとが伝えられないことで、社会的にその困難が存在しないことにされないように、調査等を通じてLGBTQの支援ニーズや現状を継続的に可視化し、社会で議論を深めていく必要があると考えられます。
2.LGBTQは、行政・福祉サービス・医療サービスを安全に利用できておらず、困難が深刻化しています。行政・福祉・医療分野でのLGBTQの理解や取り組みの推進が急がれます。
制度やサービスの利用が必要な状況においても、LGBTQの半数は行政・福祉サービス等にアクセスできていません。また、利用した場合にも約8割がセクシュアリティに関連した困難を経験し、その影響で、52.8%は困難が深刻化し、3人に1人が病状悪化・心身不調を経験し、5人に1人が自殺念慮・未遂に繋がっています。医療サービス等を利用した際にトランスジェンダー男性・女性の約8割はセクシュアリティに関連した困難を経験しています。その影響で、75.9%は困難が深刻化し、4割は体調が悪くても病院に行かなかった/行かないようにし、4人に1人が自殺念慮・未遂に繋がっています。
本来であれば、安全網であるはずの行政・福祉・医療サービスが安全に利用できず、また利用により困難がさらに深刻化してしまっていることは重大な課題です。なお、本調査と同時期に実施した『支援者のLGBTQ意識調査2023』(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000040.000047512.html)でも、支援機関でLGBTQに関する取り組みが不足しており、特に福祉や医療等の分野における遅れが顕著であることが明らかになっています。LGBTQの行政・福祉・医療サービス利用における構造的課題の解消に、国・自治体・医療福祉サービス提供者は取り組むことが求められています。その取り組みが進むことにより、SDGsで掲げる誰も取りこぼさない社会づくりや、G7首脳コミュニケに記載のある「性自認、性表現あるいは性的指向に関係なく、誰もが同じ機会を得て、差別や暴力から保護されることを確保」への実現にも近づくと考えられます。
- アンケート調査『支援者のLGBTQ意識調査2023』概要
●目的:LGBTQなどのセクシュアル・マイノリティの行政・福祉・医療等の社会資源利用に関する現状を知り、行政やメディアなどに届けることで、社会の状況を改善することを目的としています。
●期間:2023年1月15日(日)〜2月12日(日)
●回答者数:1138名(うち、有効回答961名)
●助成:本調査は、日本財団の助成をいただき実施しています。
- 認定NPO法人ReBitとは
LGBTQの子ども・若者特有の困難解消と、多様性を包摂する社会風土の醸成を通じ、LGBTQを含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会の実現を目指す、認定NPO法人(代表理事 藥師実芳、2014年3⽉認可)。
企業・行政・学校などで1600回以上、LGBTQやダイバーシティに関する研修を実施。また、マイノリティ性をもつ就活生/就労者等、約6000名超のキャリア支援を行う。なお、日本初のLGBTQや多様性にフレンドリーな就労移行支援事業所(障害がある方たちの就活支援を行う福祉サービス)「ダイバーシティキャリアセンター」を2021年に東京都にて開所。また、これまで、LGBTQの子ども若者、教育、就労等に関する調査を多数実施・公開。
・公式HP:https://rebitlgbt.org/
・ダイバーシティキャリアセンターHP:https://diversitycareer.org