シリア危機が13年目に突入します。長期化し世界で最も多くの難民を出している紛争、先月起こった大地震、また経済危機の影響は、最も脆弱な立場にいるシリアの子どもたちに幾重もの苦しみを背負わせています。ユニセフ・シリア事務所の根本巳欧副代表が、現在のシリアの様子と今後の課題について報告しました(本配信は、今月3日に開催したオンライン記者ブリーフィングの内容をまとめたものです)。
■ シリアを取り巻く背景について
シリアでは紛争が始まってから12年になります。これは例えば子どもでいうと、生まれてから小学校を卒業するまでの期間に相当します。さらには経済危機も進み、貧困もかなり大きな課題となっています。紛争前、シリアという国は非常に発展していたにもかかわらず、現在は国民の多くが貧困ライン以下で生活しています。そのような背景の下、先月の大地震が起きました。北部が一番大きな震災の影響を受けていますが、この地域は紛争が今も続き、政府側と非政府側とに分断されており、地震以前から支援を届けにくい地域です。こうした紛争地帯へはガジアンテップというトルコ側の町から国境を越え、シリアへ緊急支援物資を届けなければならず、非常に複雑な情勢となっています。
シリアは今回の震災、その前から続く紛争、経済危機、といった複数の危機の中にあります。これら危機を今後どのように乗り越えていくのか、またその中でどう子どもたちを支援するのか、考えなければいけない難しさがあります。
■ シリアで支援を届ける難しさについて
紛争のため、首都ダマスカスからアクセスできる地域とできない地域があります。誰ひとり取り残さず、子どもたちに支援が届けられるような環境が双方で整えられることを、ユニセフは期待しています。
アクセスできる地域に関してはこれまで通り支援活動を続け、首都から支援物資を届けたり、人員を送ったりしています。ただし経済制裁の影響もあり、できること、できないこと、が非常にはっきりしています。例えば使途が限定されている資金もありますので、確実に支援を届けるため、NGOパートナーなどと協力するなどして工夫しなければなりません。
一方で、首都よりアクセスができない地域に関しては、トルコ側から国境を越える形で支援を行っています。例えば国連の各機関は、国連安全保障理事会の決議に則り、物資を届けるトラック隊を派遣しています。ユニセフもその一員として、水と衛生、保健に関する緊急物資などを届けています。ただしこちらも、物資の搬入、あるいは輸送という点で、国連安保理で決められたルールに則って行わなければいけない、という難しさがあります。
シリアにおける支援活動が、厳しい環境に置かれているのは確かです。ユニセフはパートナーNGOやコミュニティのパートナーなど、さまざまな草の根のネットワークを活用し、支援を届けています。今回の震災では、これまで一緒にパートナーとして活動してきたコミュニティの人たち自身も被災しているので、被災者でもある彼らをサポートしながら、いかに支援の輪を広げていくか、というのが鍵になります。
ユニセフ職員が入国する際のビザの制限の緩和、また国内出張の制限も緩和されてきています。例えばこれまでシリア国内で出張をするには、申請を提出し、政府より許可をもらってからでないとアレッポに行くことはできず、その手続きに2、3週間かかっていましたが、今では震災支援であれば許可なしで行くことができます。さらには緊急支援物資の輸入、搬送手続きの簡素化といったように、政府も今回の震災支援に真剣に取り組んでいる姿勢が見られると感じています。これは、国連やNGOを含む、支援をする立場の人間にとっては非常に嬉しいことです。
今回の震災支援は、これまでの支援のやり方を変えていくチャンスにもなり得るかと思います。アクセスの問題が徐々に解消されてきており、これまでなかなか行くことができなかった地域にも、支援のために訪れることができるようになりました。また、これまでなかなか支援が届かなかったコミュニティに行くことで、学校へ戻ろうといったメッセージを伝えたり、医療制度や心のケア、子どもの保護に関する支援を行ったり、と新たな機会にも繋がっています。
■ 日本が、あるいは日本にいる方々ができることは?
地元の方々やパートナー団体など、さまざまな人と話したのですが、非常に親日的な国、という印象を受けています。特に、震災を経験している日本からの支援への期待も非常に高いように思います。これは物資の支援だけでなく、復興支援に繋がるような、日本の技術や知見に対する期待です。
例えば東日本大震災の時、一部の東北の自治体では「子どもたちの声」を聞きながら、町の復興やコミュニティの再建に繋げていく取り組みがありました。震災の被害を受けたシリアでも、今後こうした取り組みは非常に重要になっていくと思います。
■ 最後に
日本の皆さまや日本政府から、ユニセフを通じての大きな震災支援をいただき、心から感謝申し上げます。本当にどうもありがとうございます。12年の紛争、そして今回の震災、といった形で、幾つもの危機を乗り越えてきたシリアの子どもたちを、これからもどうか忘れないでください。
まずは一刻も早く、子どもたちに日常を取り戻してもらい、子どもが子どもらしく遊んだり、学んだりできる環境を整える。これが、ユニセフにとっての一番の優先課題となっています。震災を経験したことのある日本の方々にとっては、共感いただけることなのではないかと思います。
こうした子どもたちのためにぜひ、手を取り合って、皆で投資して、社会を再建し、地域の安定化に繋げていければ、と考えています。引き続き、日本の皆さまからのあたたかなご支援をお願いしたいと思います。
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■ 記者ブリーフィングのまとめ全文はこちらをご覧ください。
https://www.unicef.or.jp/event/report/20230303/
■ シリアに関するこれまでのユニセフの発信については、こちらをご覧ください。
https://www.unicef.or.jp/children/children_now/select.html?tag=syria
■ 登壇者プロフィール
ユニセフ・シリア事務所副代表 根本巳欧(ねもと・みおう)
東京大学法学部卒業後、米国シラキュース大学大学院で公共行政管理学、国際関係論の両修士号取得。外資系コンサルティング会社、日本ユニセフ協会を経て、2004年4月にジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO、子どもの保護担当)として、ユニセフ・シエラレオネ事務所に派遣。子どもの保護担当官としてモザンビーク事務所、パレスチナ・ガザ事務所で勤務後、東アジア太平洋地域事務所(地域緊急支援専門官)を経て、2016年10月からUNICEF東京事務所に勤務。2020年12月から2021年4月まで同事務所長代行、2021年3月から6月までソウル事務所長代行を務め、2022年5月から8月まで緊急支援調整官としてブルガリア事務所勤務。2023年2月からユニセフ・シリア事務所で副代表として勤務。
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日本ユニセフ協会では、トルコ・シリア大地震対応におけるユニセフの活動を支援するための募金を受け付けています。
ユニセフ「自然災害緊急募金」ご協力のお願い
地震や津波、洪水、台風やサイクロン、干ばつなどの自然災害に苦しむ子どもたちのために、ユニセフは緊急支援を行っています。その活動を支えるため、(公財)日本ユニセフ協会は、ユニセフ「自然災害緊急募金」を受け付けております。トルコ・シリア国境で発生した地震の影響を受けた子どもを含む、最も支援を必要としている子どもたちとその家族に支援を届けるため、ご協力をお願い申し上げます。
1. クレジットカード/コンビニ/ネットバンクから
https://www.unicef.or.jp/kinkyu/disaster/2010.htm
2. 郵便局(ゆうちょ銀行)から
振替口座:00190-5-31000/口座名義:公益財団法人 日本ユニセフ協会
*通信欄に「自然災害」と明記願います。
*窓口での振り込みの場合は、送金手数料が免除されます。
※ 公益財団法人 日本ユニセフ協会への寄付金には、特定公益増進法人への寄付として、所得税、相続税、法人税の税制上の優遇措置があります。また一部の自治体では、個人住民税の寄付金控除の対象となります。
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■ ユニセフについて
ユニセフ(UNICEF:国際連合児童基金)は、すべての子どもの権利と健やかな成長を促進するために活動する国連機関です。現在約190の国と地域※で、多くのパートナーと協力し、その理念を様々な形で具体的な行動に移しています。特に、最も困難な立場にある子どもたちへの支援に重点を置きながら、世界中のあらゆる場所で、すべての子どもたちのために活動しています。ユニセフの活動資金は、すべて個人や企業・団体からの募金や各国政府からの任意拠出金で支えられています。(www.unicef.org )
※ ユニセフ国内委員会(ユニセフ協会)が活動する33の国と地域を含みます
■ 日本ユニセフ協会について
公益財団法人 日本ユニセフ協会は、先進工業国33の国と地域にあるユニセフ国内委員会のひとつで、日本国内において民間として唯一ユニセフを代表する組織として、ユニセフ活動の広報、募金活動、政策提言(アドボカシー)を担っています。(www.unicef.or.jp )