・Appleが10年連続で第1位、Microsoftが15年ぶりに第2位に、Amazonが第3位に
・Airbnb(54位)、Red Bull(64位)、Xiaomi(84位)が初めてBest Global Brands入り
・Microsoft(2位)、Tesla(12位)、Chanel(22位)が32%の高い成長
・Nike (10位)がMcDonald’s (11位)に代わり初のトップ10入り
・Instagram(16位)がFacebook(17位)を抜き、Metaの最も価値あるブランドに伸長
・100ブランドの合計金額価値は、前年比16%成長(過去最大の成長率)し、初めての3兆ドル超え
・上位10ブランドのブランド価値の総額が全体の53%を占有
・Toyotaは1つ順位を上げて第6位となり、19年連続で自動車ブランドの最高位
・アジアブランドは、日本7、韓国3、中国2、これまでの最多の12ブランドがランクイン
世界最大のブランディング専門会社インターブランドは、グローバルのブランド価値評価ランキング「Best Global Brands 2022」(以下BGB 2022)を発表しました。本ランキングは、グローバルに事業展開を行うブランドを対象に、そのブランドが持つ価値を金額に換算してランキング化するもので、レポートの発表は2000年から今年で23回目となります。今回、ブランドが顧客に対して提供する価値だけではなく、現在そして未来の社会に対する役割や責任に関する活動の評価として、初めて環境・社会・ガバナンス(ESG)データを導入しました。パンデミックからまもなく3年、不確実性と可能性が交錯する中で、グローバルでの経済活動の大きなうねりが、本ランキングにも影響を与えています。
ランキングでは、Appleが10年連続で第1位(ブランド価値 4,822億ドル、前年比 +18%)、第2位Microsoft(2,783億ドル、同+32%)、第3位Amazon(2,748億ドル、同 +10%)、第4位Google(2,518億ドル、同+28%)、第5位Samsung (877億ドル、同 +17%)となり、Top5ブランドは全て10%以上の高い成長率となりました。
Airbnb(54位、134億ドル)、Red Bull(64 位、115億ドル)、Xiaomi(84位、73億ドル)が初めてランクインし、John Deere、Zoom、Uberがランク外となりました。また、日本ブランドが7(Toyota、Honda、Sony、Nissan、Nintendo、Panasonic、Canon)、韓国ブランドが3(Samsung、Hyundai、Kia)、中国ブランドが2(Xiaomi 、Huawei)となり、アジアブランドとしてこれまでの最多となる12のブランドがランクインしました。
Top5 Growing Brands(最も成長率の高い5ブランド)は、Microsoft(前年比+32%)、Tesla(同+32%)、Chanel(同+32%)、Ferrari(同+31%)、LEGO(同+30%)となり、またChannelの他、Dior(同+27%)、Hermès(同+27%)、Gucci(同+23%)、Louis Vuitton(同+21%)、Prada(同+21%)など、Luxuryブランドが著しい成長を示しています。自動車ブランドは全般に大きく成長していますが、特にTesla(同+32%)とFerrari(同+31%)は突出した成長をしています。業種別でみると、Technologyブランドは、過去10年を含めてもブランド価値の総額が最も高い状況が継続してます。今年は、Microsoft、Google、Adobeが20%以上の成長を遂げ、この業種を牽引しています。
100ブランドの合計金額価値は、初めて3兆ドルを超え(3兆889億ドル)、成長率は過去最大の前年比16%となっています。ここ数年、金融市場が大きな変動を示す中、こうしたトップブランドのブランド価値の大きな上昇は、顧客との関係性の強化によるロイヤルティの向上や、利益率の拡大など、いかにブランドが企業の成長と成功の原動力となっているかを示しています。
Key Learnings(考察)
2022年に急成長したブランドは、ブランド強度スコア(Brand Strength Score)の下記の3つの要素で、他のブランドを大きく上回る傾向が確認されました。
・Direction(志向力):ブランドの目指す姿と、それをどのように実現していくかが明確であり、それを実行に導く文化と価値観が定義されているか
・Agility(俊敏力):組織としてビジネス機会や課題に対応し、期待を超え続けるため迅速に動くことができるか
・Participation (共創性):顧客やパートナーを巻き込み、対話を生み、参加や協働を促すことができているか
今年急成長したブランドにおいては、企業に求められる社会的責任の高まりや、顧客・生活者の価値観の変化に伴うブランド選定の視点や基準の変化に伴い、Direction(志向力)によってパーパスに代表されるようなブランドの方向性が明確になっているだけでなく、ESGの観点からも社会・顧客に対して積極的に発信しながらその方向性に向けてAgility(俊敏力)を持って実行すること、さらには単なる顧客重視ではなく、顧客をパートナーとして位置づけ、ビジネスを共に創り上げていく関係性を構築する Participation(共創性)を持つことが必要となっています。すなわち Brand Leadershipを明確にし、社会や顧客に向けて発揮していくことが、これからの時代における成長に求められていることを示しています。
また世界の経済成長が今後鈍化することが見込まれる中、Apple、Amazonなど上位にランインしたブランドに代表されるように、顧客が実感している視点から改めて市場、競合環境を捉え直し、商品・サービス等の事業活動を柔軟に広げていく発想(「アリーナ思考」)を持って、経営革新に踏み出していくことの必要性がますます高まってきた時代となってきています。
インターブランドのグローバルCEOであるゴンザロ・ブルーホは、次のように述べています。「ブランドがこの経済的な不確実性を乗り越え成功していくためには、顧客との結びつきをこれまで以上に強めていくことが必要です。もはや、これまでの事業領域に基づいた固定的なビジネスやブランドを提供するだけでは十分ではありません。成功するブランドは、新しいテクノロジーを活用して顧客の体験を向上させ、生活の中に真に溶け込んだ存在になる方法を知っています。Best Global Brandsの100ブランドの合計金額価値は初めて3兆円の大台に乗りましたが、Top10ブランドも新規参入ブランドも、まだ更なる成長の余地があります。Top10ブランドは、既成概念にとらわれず強力なリーダーシップのもと、顧客と強固な関係を築き、従来の製品や分野、縦割りの枠を超えてブランドの価値を高めています。すなわち、『リーダーシップ』『エンパワーメント』『変革』において際立つことにより、大きな価値を生み出しているのです。」
成長ブランドに関する分析
Microsoft:2位、2,783億ドル(前年比+32%)
Microsoftは、Activision Blizzardを買収することを発表。それにより、Tencent、Sonyに次ぐ世界第3位のゲーム会社になります。ゲームは、メタバース・プラットフォームの発展において重要な役割を果たしていくと考えられています。 また、Microsoftは、企業がデジタル変革を加速させる中、タイムリーにビジネス向けおよびクラウドアプリケーションを上市し、企業の効率化、クラウド化、コラボレーション、ビジネスインテリジェンスを支援してきました。Microsoftは、安定的で信頼できるテックカンパニーと見られており、Satya Nadellaのリーダーシップにより、誠実なブランドとして認知されています。また、個人向けパソコン分野においても差別化が進み、高く評価されています。
Tesla:12位、480億ドル(+32%)
Teslaは、半導体危機が続く中でも業績は好調で、財務的な将来性が高く評価されています。一部、顧客サービスや信頼性が低下し、顧客中心主義が弱いと評価されることもありますが、明確なビジョンと野心を持つCEOへの支持率は高く、強い需要が維持されています。激しい競争環境にも関わらず、Teslaは、高いAgility(俊敏力)とPresence(存在感)を維持し、将来のイノベーションへの投資を継続し、米国のEV市場をリードしています。Teslaの市場での強さが継続し、消費者の新製品発売への関心が高いことは、ブランドの独自性が高いことを示しています。例えば、製品が完成されていないにも関わらず、800億ドル相当のサイバートラックの予約が120万台以上もあることからも実証されています。
Chanel:22位、293億ドル(+32%)
Chanelの評価に大きく影響を与えたことの一つは、新しいアンチエイジング・スキンケアライン「No.1」の上市です。自社の研究所で、カメリアの花(Chanelの象徴的な花)と老化のプロセスを分析。自社の畑で栽培された花を使い、栽培、収穫、スキンケア処方に化学物質を使用せず、神経科学の研究所と協力し、ユーザーにポジティブな感情を喚起する製品を開発しました。ブランド初の香水展示会「Feeling Chanel」を開催し、没入型の旅を通してブランドの香りに焦点を当て、「CHANEL ELECTRO CAPSULE COLLECTION」限定ウォッチを発表し、ブランド体験を構築しています。また、Chanelは、気候変動などのESGへの積極的な取り組みが高く評価されています。
Ferrari:75位、94億ドル(+31%)
Ferrariは、エンジンシリーズの進化やハイブリッド化・電動化のレベルアップなど、より大きなイノベーションを提供しています。また、Ferrariは、正規販売店を通じてお客様との強い関係を維持し、製品やサービス、イベントによる体験を通して、総合的に顧客の満足度を評価するシステムがあります。新型車の発売毎に調査を行い、特定のKPIを評価・分析し、VIPを顧客に持つラグジュアリーブランドとして、Ferrariは高い共感力を維持しています。また初のファッション・コレクションを発表するとともに、店舗の外観を刷新するなど、マーチャンダイジングの展開を活性化しています。その一方で、エンジンの革新が戦略的な焦点に位置付けられており、Ferrariのeスポーツシリーズは、欧州全体で35,000人の参加者を獲得し、新たな顧客層へのブランド浸透の機会を得ています。
LEGO:63位、118億ドル(+30%)
LEGOは、製品イノベーション、店舗での体験、デジタル化、持続可能性に投資し続け、顧客と関連性を保ち、ビジネスの機会を創出しています。LEGOは、消費者が物理的な遊びからテクノロジーに完全に移行しないようにしながら、ますます進むデジタル時代に対応する方法を見出しています。LEGOはこの2つの世界を融合させながら(例えば、スーパーマリオをレゴブロックにした「レゴスーパーマリオ」と、LEGO初のライブ配信イベント「LEGO® CON」など)、ビジネス全体のデジタル化への取り組みを加速させています。このように、LEGOは、拡張現実の領域で多くのことを行い、中核的な製品を補完するデジタル体験を提供し、それによりLEGOをプラスチックのブロック箱以上のものに変容させています。
日本ブランドに関する分析
Toyota:6位、598億ドル(前年比+10%)
Toyotaは昨年から1つ順位を上げて第6位となりました。2021年のトヨタ自動車グループの世界販売台数が、2年連続で世界トップとなりました。欧米や中国でも販売台数を伸ばし、世界でToyotaが愛されていることを示しています。2022年、Toyotaは、その旗艦ブランドであるCrownを全面的に刷新した新型モデルで、海外市場本格参入を発表するなど、Toyotaブランドの差別化、強化を図っています。また、Toyotaの包括的で詳細なESG戦略は国内外で引き続き高く評価されています。社長自ら、トヨタイムズなどのメディアを使い、EV/BEVのリーダーシップ構築に注力し、持続可能性にコミットしている本気の姿勢や熱意を伝え、一つ一つ体現し、「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変え」「幸せの量産」することに邁進しています。
Honda:26位、228億ドル(+7%)
Hondaは、2030年ビジョン「すべての人に“生活の可能性が拡がる喜び”を提供する ー世界中の一人ひとりの『移動』と『暮らし』の進化をリードするー」を掲げ、「喜びの創造」「喜びの拡大」「喜びを次世代へ」の3つの視点で喜びを具現化する施策を展開し、Hondaブランドを強化しています。ソニーとモビリティ分野において戦略的に提携。中国との合弁会社により電気自動車(EV)の生産販売やバッテリー調達を加速。米General Motorsと量販価格帯EVを共同開発し、世界へ向けて販売を拡大。次世代のために、2050年に交通事故死者ゼロ、カーボンニュートラル実現に向けた努力を続けています。
Sony:39位、170億ドル(+18%)
Sonyは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」と掲げるパーパスに基づいて、事業を問わず全社で組織的な価値創造に取り組んでいます。米ゲーム大手バンジーを買収し、ネット上で利用者が関わり合う「ライブゲーム」の強化を図るなど、常に世界のゲーム市場をリードしています。また、Hondaとソニー・ホンダモビリティ株式会社を設立、「車の価値を『移動』から『エンタメ』に変える」新しい価値の提供を目指しています。消費者から、創造性、新機能の実現、コンシューマエレクトロニクスにおける信頼性などにおいて、一貫して高い評価を獲得し、多くのESGアワードも受賞しています。
Nissan:61位、122億ドル(+10%)
Nissanは、コーポレートパーパス「人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける。」ことを目指し、事業構造改革計画「Nissan NEXT」を着実に遂行。2021年11月に、よりクリーンで安全、インクルーシブな誰もが共生できる社会の実現と、真に持続可能な企業となることを目指す長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表し、社内外に対してESG戦略を明確に発信しました。全ての自動車メーカーが、電動自動車、カーボンニュートラルへ投資し注力していく中、ワクワクする革新的なテクノロジーとデザインでNissanブランドらしさを具現化し、消費者に体験させることができるかが問われています。
Nintendo:68位、107億ドル(+16%)
Nintendoは、その独自のスタイルとゲーム体験、そしてIPの強力な管理により、エンターテインメント市場をリードしています。あらゆるタッチポイントで、NintendoのキャラクターやIPは、比類のない親近感があり、ゲーム以上の意味を持つブランドとして、ゲーム業界で最も「ライフスタイルに近い」ブランドへと成長を遂げています。また、オンラインサービスNintendo Switch Onlineの拡張により、Games as a Service(サービスとしてのゲーム)モデルにも参入。スーパーマリオブラザーズをアニメーション映画化した『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や、父親世代で人気のユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」など、ブランドの世界が拡張されています。
Panasonic:91位、63億ドル(+9%)
Panasonicは、2022年4月パナソニック株式会社を持株会社としてパナソニックホールディングス株式会社へ社名変更、グループ体制へ移行。パーパスを表すグループスローガン「幸せの、チカラに。」を制定し、38カ国語に翻訳したサイトや動画などでブランドイメージを展開。若い世代の認知度の低下とプロダクトアウト的な考えからの脱却を図り、創業者である松下幸之助の「物質面も精神面もともに豊かになってはじめて真の幸福がもたらされる」という考えへ立ち返ります。デザインフィロソフィー「Future Craft―未来を丁寧に創りつづける」も制定され、アジャイルでパワフルな事業体制、さらにESG志向の経営や事業の加速、ブランドの個性の強化が期待されます。
Canon:97位、58億ドル(-15%)
Canonは、戦略的大転換として、2021年4月4つの産業別の事業グループにグループ会社を含めて組織を再編成しました。また、次世代医療技術開発を加速させる先進医療技術を獲得し、主要グループの一つである「メディカルグループ」を強化しています。その一方で、新型バーチャルリアリティビデオシステム「kokomo」の開発を発表するなどメタバースプラットフォーム市場への参入も表明していますが、全体としてB to B事業領域へのシフトを加速していることも背景に、相対的にグローバルにおけるブランドの存在感が低下し、ブランド価値を大きく下げる結果となりました。今後4事業の成長を通じたCanonブランドの力強い育成が期待されます。
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