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調査サマリ
技術力が最も重視されるべきITエンジニアの世界でも、男女間の賃金やチャンスの機会に大きな格差が存在するという課題に注目し、実態を明らかにするため、共同でアンケート調査を行いました。
bgrassは、グルーヴス社が掲げる「性別が転職やマッチングに影響を与えるべきではない」という理念や、「ITエンジニアの男女間賃金格差の調査結果を発表(※1)」への取り組みに賛同し、共にこの課題の解消に向けて取り組む意向を示しました。
本調査結果は、2023/5/31にリリースしました「【大規模調査】ITエンジニアの男女間賃金格差の実態がより鮮明に(※2)」と同じアンケート回答を用いた追加調査です。
本調査では、IT業界にジェンダーバイアスやジェンダーギャップが本当にあるのか?を基軸に分析をいたしました。調査の結果、「リーダー経験」「ライフイベント発生時の働き方の選択」「ジェンダーバイアスの感度」において男女差があることが明らかになりました。
(※1)ITエンジニアの男女間賃金格差の調査結果を発表
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000138.000005321.html
(※2)【大規模調査】ITエンジニアの男女間賃金格差の実態がより鮮明に
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調査詳細
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1. IT業界における男女のリーダー経験の差を調査
◾️リーダー経験に男女差あり。ライフイベントの影響を受けにくい20代でも差がある
全体でのリーダー経験の有無は、女性39.58%、男性54.55%と男女差が見受けられました。今回の調査では、「過去に所属した3プロジェクトでどういったポジションだったか」という設問に対して、1度でもリーダー経験があった方を「リーダー経験者」としています。
◾️全世代の男女間でリーダー経験の差が見られる。
全世代でリーダー経験の有無に差が見られます。特に20代でのリーダー経験の差に開きが大きく、年齢が上がるにつれて、その差は小さくなっていきます。女性がリーダーになりづらいのは、ライフイベントの影響も大きいと言われていますが、比較的ライフイベントの影響が少ない20代で最も大きな差が出ました。50代以上はサンプル数が極端に少なくなったため、年代別の分析対象から外しています。
リーダー経験の有無に男女で明確に差が出た原因はジェンダーバイアスの影響が大きいのではないかと考えています。内閣府男女共同参画局が出した「令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」によると、職場でのアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の2位が男女ともに「組織のリーダーは男性の⽅が向いている」でした。
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2. IT業界における男女のライフイベントの影響の差を調査
◾️男性よりも女性の方がライフイベントの影響で働き方が大きく、変化の割合も多い
女性は「結婚」「育児」「子の誕生」で男性よりも働き方に影響を受けている割合が多いという結果になりました。特に、「育児」(女性83.3%、男性53.3%)「子の誕生」(女性63.6%、男性46.3%)での差が大きく、ライフイベントが女性のキャリアや働き方に与える影響は大きいということがデータとして可視化されました。
◾️ライフイベントの影響を受けた時、女性は退職、時短、休職を選択する傾向がある一方、「退職」「休職」を選択した男性方は0%
「子の誕生が与える影響」では、女性は短時間勤務を選択する割合が多く(55%)、次の選択肢として転職(25.0%)・退職(15.0%)・休職(5%)が続きます。一方で、男性は73.3%の方が転職を選択する結果となりました。
さらに、「育児が与える影響」で男女で大きく差が出ました。男性で、「退職」「休職」を選択した方は0%でしたが、女性では退職18.2%、休職18.2%でした。転職は男性60%、女性27.3%で男性は転職を選択する傾向にあることがわかりました。
女性は家事育児に時間を費やすための選択肢を取る、あるいは消去法でその選択肢を選択する、男性は柔軟な働き方や年収を上げるために転職を選択する傾向があるのではないかと考えられます。総務省が出している「令和3年社会生活基本調査」によると、6歳未満の子供を持つ夫・妻の家事関連時間の推移で、女性は7.28時間、男性は1.54時間とおよそ6時間の差が出ています。
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3. IT業界におけるジェンダーバイアスと、その意識調査
◾️ジェンダーバイアスの感度は女性の方が高い
「ジェンダーバイアスの感度」の算出方法
職場で経験する可能性のあるジェンダーステレオタイプや性別による発言・対応の違いなどを設問とし、それぞれ「経験した」「見聞きした」「どちらもある」「どちらもない」で回答していただき、「経験した」「見聞きした」「どちらもある」のいずれかを回答した数をカウン
トして、感度としました。このレポートでは、この感度を「ジェンダーバイアスの感度」と定義します。また設問については、男女のジェンダーバイアスが約半数になるように設計しており、全設問に「経験した」「見聞きした」「どちらもある」のいずれかに回答した時の感度を1、全設問に「どちらもない」と回答したときの感度を0として表現しております。
ジェンダーバイアスの感度を調査したところ、男性(平均値0.22・中央値0.11)より、女性(平均値0.38・中央値0.32)の方が感度が高いということがわかりました。
また、感度のレベル分けをして、分析してみました。ひとり一人の回答の感度を、低(0.32未満)・中(0.32以上0.5未満)・高(0.5以上)の3段階でレベル分けをしました。この結果からも、女性の方が感度レベルが高い傾向にあることがわかりました。
◾️ジェンダーバイアスの感度は性別関係なくリーダー経験や子育て経験の有無で感度が高まる
属性でも分析しました。リーダー経験の有無、子供の有無で男女ともに、ジェンダーバイアスの感度が上がる結果となりました。一方で、年代・収入・企業規模・チーム規模などによる明らかなジェンダーバイアスの感度の差は確認されませんでした。
ジェンダーバイアスの感度の中央値は、リーダー経験の有無により、女性の場合は0.13の差(有0.42、無0.29)、男性の場合は0.11の差(有0.16、無0.05)となりました。子供の有無は、女性の場合は0.05の差(有0.37、無0.32)、男性の場合は0.16の差(有0.21、無0.05)となりました。
リーダー経験の有無で感度に差が出る理由として、前述にも記載した通り、ジェンダーバイアスの影響が大きいのではないかと考えています。内閣府男女共同参画局が出した「令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」によると、「組織のリーダーは男性の⽅が向いている」が男女ともに2位のため、女性に対するジェンダーバイアスは大きいのではと考えられます。一方で、男性に対しても、「男性は仕事をして家計を⽀えるべきだ」「男性は⼈前で泣くべきではない」など、プレッシャーの大きなバイアスがかかりやすい可能性があると考えられます。
子供の有無に関しては、ジェンダーバイアスを感じる際の設問で育児についての設問もあるため、必然的に子供の有無で差が出てくるかなと思います。それでもやはり、育児中は男女関わらずジェンダーバイアス・ジェンダーギャップを感じやすい傾向にあると考えられます。
◾️ジェンダーバイアスによる否定的な言動についての調査
ジェンダーバイアスによる言動について調査しました。「経験あり」「見聞きあり」でカウントしたところ、トップ5は以下の結果となりました。男女ともに女性に対するジェンダーバイアスを見聞き・経験したことが多いという結果となりました。
女性のトップ5
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62.8%:女性は細かいことに気が利くよね
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57.9%:すでに知っていることを説明された
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54.5%:あのお客様は女性に甘いからね
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49.7%:夫は家族を養わないとね
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49.7%:女性なんだから、ちゃんと化粧しなきゃ
男性のトップ5
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45.9%:すでに知っていることを説明された
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31.3%:あのお客様は女性に甘いからね
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31.3%:顧客対応は女性の方がいいよね
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31.0%:この仕事ハードだけど、あなたにできる?と言われた
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29.8%:女性は細かいことに気が利くよね
◾️ジェンダーバイアスによる否定的な言動があった時の反応:男女ともに転職や異動につながるリスクが高まる
また、ジェンダーバイアスのある発言を受けた時にどのように感じるかも調査しました。「こうした言動をとる人とコミュニケーションを積極的にはとりたくない」が男女ともに半数を超え、女性の場合は40%以上が転職や異動希望が高まることもわかりました。
女性のトップ3
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66.2%:こうした言動をとる人とコミュニケーションを積極的にはとりたくない
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48.3%:こうした言動をとる人のいる会社から離れて、違う会社で働きたい(転職したい)と思う
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44.1%:こうした言動をとる人のいる職場から離れて、違う職場で働きたい(異動したい)と思う
男性のトップ3
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52.6%:こうした言動をとる人とコミュニケーションを積極的にはとりたくない
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32.7%:こうした言動をとる人のいる会社から離れて、違う会社で働きたい(転職したい)と思う
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33.8%:職場で本音を言いづらくなる
結果を見ると、ジェンダーバイアス・ジェンダーギャップを感じやすい環境では、男女ともに転職や異動につながるリスクが高まることがわかりました。特に女性は40%以上の方が転職や異動を考えるようになり、人材流出のきっかけとなってしまいます。
私たちのヒアリングからも、転職を考える女性は「今の会社で育児をしながら、スキルを担保しながら働けるイメージが湧かない」「女性の管理職が少なくて、キャリアアップできるのか不安」など、職場のジェンダーバイアス・ジェンダーギャップが原因で転職を考える方が多いように見受けられるため、今回の調査結果ともリンクしているかと思いました。
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4. 調査概要
調査対象:20-60代までのITエンジニア
調査方法:インターネットによる任意回答
回答数:女性144名、男性341名
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5. コメント
株式会社grooves 赤川 朗 コメント
毎日のようにITエンジニアのプロフィールと年収を眺める中で、「なぜ同じような経験なのにこうも年収に差が出るのだろうか」と素朴な疑問を感じていました。今回の調査結果は、その一因を明らかにしています。若いうちの経験や年収は生涯年収に大きく影響を与えます。20代のうちに男性が先行してリーダー経験を積むことは、仮にその後に女性がリーダー経験を積んで同等の経験となったとしても、年収・生涯年収の差につながるはずです。こうした情報を開示することで、個々人や企業の格差是正への一歩につながることを期待します。
bgrass株式会社 咸 多栄 コメント
今回は賃金格差に続いて、働く上でのジェンダーバイアスやジェンダーギャップの可視化を実施しました。可視化してみると、私たちがなんとなく感覚的に感じていたことが、実際に起こっていることがわかり、課題感を強く感じました。特に20代でも男女でリーダー経験に差が出てしまうのはなぜか、今後深く調査してみたいと感じています。多くの企業では、「自社には格差がない」「実力で判断している」と考えていると思いますが、実際に数値で落とし込んで可視化すると、格差が存在する可能性も高いです。これを防ぐためにも、自分たちの状況を客観的に見て、把握し、状況を受け入れ、改善していくことが重要だと感じます。
ヨーロッパ大学研究所研究員 高橋 裕希 コメント(bgrass社アドバイザー)
bgrass社のプロダクト・調査・研修等にアドバイザーとしてご協力いただいている、ジェンダーと行動経済学の専門家・高橋 裕希さんより、調査結果に対するコメントをいただきました。
今回の調査は、前回の調査で見た男女間の賃金格差の「なぜ」を考えさせる内容になっていると思います。
まず、20代でも男女間でリーダー経験に差があることが分かりました。リーダー経験がないと大規模なプロジェクトを任せてもらえず、将来的な賃金格差につながります。また、出産時に2割近い女性が退職を選んでいることも分かりました。キャリアブレイクがあると経験に差が生じ、将来の賃金に影響を与えます。さらに、女性の方がジェンダーバイアスに敏感であることも分かりました。ストレスを感じながらの仕事は意外と効率が低下するものです。こうした女性の才能を活かせない構造は、女性自身にとっても社会にとってもマイナスです。
経済学では情報の不足が最適な選択を妨げる要因の一つとされています。したがって、個人としては、様々な企業についての情報を集め、働きやすい職場を探すことは無駄ではないはずです。一方、会社としては、これらの構造的な問題に取り組むことで、優れたITエンジニアを採用しやすくなるのではないでしょうか。
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6. ジェンダーバイアスを感じた時に、わたしたちができること
ジェンダーバイアスを感じたら
昨今は、働きやすい仕事環境が重視されており、実際に自分の働き方に合った環境で働いている方も多いと思います。しかし、私たちのヒアリングでは、チームに女性が自分だけであるなど、ジェンダーバランスが整っていない環境で働いている方も少なくありません。ジェンダーバイアス・ジェンダーギャップを感じる言動は日常の些細なところで現れます。ジェンダーバイアス・ジェンダーギャップを感じた時は、この時の違和感を無視せずに、自分の感覚を信じてほしいです。女性の多いコミュニティに参加してみたり、キャリアを相談してみたり、転職を検討してみるのはいかがでしょうか?
私たちは「sister」や「Waveleap」でみなさんを応援します。
社内のジェンダーギャップを解消したいと思ったら
今回の調査で、ジェンダーバイアスを感じると転職や異動の希望が高まることが分かりました。私たちのヒアリングでも、なかなか女性・ITエンジニアが採用できない、応募者はほぼ全員男性であるという話をよく聞きます。SDGs・ESG投資などの観点からも、ジェンダーバランスを整えていくことは、昨今の課題と認識しております。
私たちは、「Waveleap」で、自社の働きやすさ・活躍のしやすさを可視化し、女性・ITエンジニアに出会える機会を創出します。また、必要があれば、性別問わず働きやすい環境をどう作るかもお手伝いさせていただきます。
◾️イベント案内
今回の調査結果の内容をもとにしたイベントを開催します。ITエンジニアの転職サービスを展開するフォークウェルからは赤川が「男女の賃金格差の実態」や「エンジニアの市場価値・求人トレンド」「ITエンジニア向けの年収交渉術」を紹介、テック業界のジェンダーギャップの解消に取り組むbgrass社からは「働く時の男女の行動・経験の差」「働く上でのジェンダーギャップの感じ方」「サステナブルに働くためのヒント」など紹介します。
タイトル:ITエンジニアにおけるジェンダーギャップを考える
日時:6/21(水)19:30~21:10
場所:Zoom Webinar
イベント申し込みURL:https://forkwell.connpass.com/event/284181/
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7. bgrass株式会社・Forkwellの概要
■bgrass株式会社( https://bgrass.co.jp/ )について
設立: 2022年7月
代表取締役:咸 多栄
本社所在地:東京都渋谷区神宮前6丁目23番地4号桑野ビル2階
事業内容:
・テック業界の女性やマイノリティのための支援プラットフォーム「sister(シスター)」運営
・ジェンダーギャップに関するイベント登壇や企業研修・自治体ワークショップ開催
・女性エンジニアとIT企業のマッチングサービス「Waveleap(ウェイブリープ)」開発中
「Waveleap」(ウェイブリープ)について
「Waveleap」は、サステナブルに働きたい女性・ITエンジニアのための、厳選マッチングサービスです。サステナブル職場診断で企業の働きやすさ・活躍のしやすさを可視化し、女性エンジニアがIT業界でスキルもキャリアもライフも諦めず、持続的に働ける環境を見つけられるサービスを目指しています。
リリースは2023年7月以降を予定しています。「Waveleap」は6月1日にクローズド版の事前登録を開始し、現在クローズド版の利用企業、ユーザーを募集中です。登録数には上限がございますので、お早めにご登録ください。(企業の登録には事前面談があります)
企業登録はこちら:https://waveleap.jp/recruiting
ユーザー登録はこちら:https://waveleap.jp/
■Forkwell( フォークウェル https://forkwell.com/ )について
2012年、職務経歴や経験技術などのプロフィールを登録できるポートフォリオサービスをローンチ。ITエンジニアに特化した求人・転職支援サービス、イベントやセミナーの開催を通じてITエンジニアのキャリア支援を行っています。新型コロナウイルス感染症が深刻化した2020年以降からは、オフライン開催されていたイベント・勉強会の早期オンライン化にも着手しました。今後も、時代に合わせた価値のある情報・サービス・場を提供し、より満足度の高いサービスを目指しながらITエンジニアのキャリア支援に貢献していきます。
■株式会社grooves( グルーヴス https://www.grooves.com/ )について
設立:2004年3月
代表者:代表取締役 池見 幸浩
所在地:東京都港区南青山五丁目4番27号 Barbizon104 7F
事業内容:
・総合満足度No.1 の求人企業・人材紹介会社向けクラウドサービス「Crowd Agent(クラウドエージェント)」
・ITエンジニア満足度No.1 のキャリア支援サービス「Forkwell(フォークウェル)」
地域創生ネットワーク:全国18道府県・27団体