本研究に関する論文をBioMed Central(BMC)(https://www.biomedcentral.com)が発行するBMC Cancerに投稿し、掲載されたことをお知らせします。
(掲載箇所:https://bmccancer.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12885-022-10488-5)
■本研究成果の概要
前立腺針生検病理組織デジタル標本において、根治的治療の対象となる前立腺癌をスクリーニングする人工知能の開発に成功しました。
■本研究の背景
病院で前立腺癌を検査する際には、40歳以上でPSA(前立腺特異抗原:prostate-specific antigen)が4.0 ng/ml、あるいは年齢層別のPSA値が基準値を上回った際に、経直腸的超音波ガイド下針生検が実施され、前立腺癌の有無を検査する病理組織検査が行われます(文献:前立腺癌診療ガイドライン、前立腺がん検診ガイドライン)。そして前立腺癌が検出された場合には、患者さんの治療方針決定のために、リスク分類など前立腺癌の評価がなされます。
前立腺癌において、重要な予後因子となるのが、Gleason分類です。前立腺癌は、検体内に分化度の異なる癌の成分が混在することがある(heterogeneityが高い)という組織学的特徴を有しますが、癌の形と浸潤様式によりGleason patternを評価し、Gleason scoreを決定、病理診断の際に報告します。
前立腺癌の治療方針は大きく2つに分けられます。1つは監視療法と呼ばれるもので、前立腺生検で発見された癌がおとなしく治療を開始しなくても余命に影響がないと判断される場合、経過観察を行いながら過剰な治療を防ぐ方法です。もう1つは、手術や放射線療法などの根治的治療と呼ばれるものです。
監視療法なのか、根治的治療なのかを判断する指標に、Gleason pattern、Gleason scoreが関係します。前立腺がん検診ガイドラインでは、監視療法の病理学的基準が、Gleason score 6以下および陽性となる検体のコア数が2本以下と定義されています。しかし、2016年に、米国臨床腫瘍学会(ASCO)はCancer Care Ontario (CCO)グループの提唱する監視療法の適用基準を支持し、「腫瘍体積が小さくGleason pattern 4が10%程度のGleason score 3+4=7症例であっても監視療法を推奨する」など、監視療法、根治的治療の選択に関する新たな基準が国際的に提唱され、治療現場で応用されてきています(文献:Journal of Clinical Oncology, 34: 2182-2190, 2016)。
以上の臨床的背景から、本研究では、前立腺針生検病理組織デジタル標本において、監視療法、根治的治療の対象となる前立腺癌をスクリーニングできる人工知能を深層学習を用いて開発することにいたしました。
■本研究の内容
国内の施設から提供を受けた前立腺針生検病理組織標本をデジタル化し、複数の病理医によるアノテーションデータを含む教師データを作成しました。学習は、弊社で2021年に開発した大腸低分化腺癌分類モデル(文献:Diagnostics, 11: 2074, 2021)からのpartial fine tuning法による転移学習(文献:Proceedings of Machine Learning Research, 143: 338-353, 2021)ならびに、完全教師あり学習(fully supervised learning)および弱教師あり学習(weakly supervised learning)を行い、監視療法および根治的治療の対象となりうる前立腺癌を、バーチャルスライド(whole-slide image:WSI)レベルでスクリーニングできる人工知能を開発しました。開発した人工知能は、教師データとは異なる検証データを用いて、精度の検証を行いました。
■本研究の成果
開発した複数のモデルを比較検討したところ、病理医のアノテーションデータを利用した完全教師あり学習を、弱教師あり学習に加えて行ったモデルが、ヒートマップ法による検証の結果、最も信頼度が高く、監視療法および根治的治療の対象となりうる前立腺癌の領域を認識していました。バーチャルスライドレベルでのROC-AUCが、監視療法の対象となる前立腺癌で0.846、根治的治療の対象となる前立腺癌で0.980という極めて高い精度が得られました。また、ヒートマップにより表示された人工知能が識別した、監視療法および根治的治療の対象となる前立腺癌を疑う領域については、複数の病理医による検証の結果、妥当であることが確認されました。以上のことから、前立腺針生検病理組織デジタル標本において、根治的治療の対象となる前立腺癌を高精度にスクリーニングすることが可能である人工知能の開発に成功いたしました。
今後は、今回開発した深層学習型人工知能モデルの検証試験を複数施設ならびに大規模症例にて進めてまいります。
■原著論文
▼論文タイトル: Inference of core needle biopsy whole slide images requiring definitive therapy for prostate cancer
▼日本語訳: 前立腺針生検病理組織デジタル標本における「根治的治療の対象となる前立腺癌」をスクリーニングする深層学習を用いた人工知能の開発
▼DOI:https://doi.org/10.1186/s12885-022-10488-5
■著者・所属
<栃木県立がんセンター 病理診断科>
阿部 信
<札幌厚生病院 病理診断科 主任部長>
市原 真
<メドメイン株式会社>
常木 雅之、Fahdi Kanavati
※この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業の結果得られたものです。
■会社概要
【会社名】メドメイン株式会社 (Medmain Inc.)
※経済産業省 J-START UP 選出企業 https://www.j-startup.go.jp/startups
【設立日】2018年1月11日
【事業内容】医療ソフトウェア・クラウドサービスの企画・開発・運営および販売
【代表取締役/CEO】飯塚 統
【所在地】[東京オフィス] 東京都港区南青山2-10-11 A青山ビル2F / [福岡オフィス] 福岡県福岡市中央区赤坂2-4−5 シャトレサクシーズ104
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【コーポレートサイト】https://medmain.com
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