今回開発したPPR作製技術により、PPRタンパク質の作製効率が向上し、遺伝子治療薬等の候補となるPPRタンパク質の作製・選定を短期間で行うことができるようになりました。また、PPRタンパク質を用いたエクソンスキッピングによる遺伝子治療の可能性が開け、さまざまな遺伝子疾患に対する治療法の開発への貢献が期待されます。今後、この技術を活用し、創薬パイプラインの拡充、新たな医薬品の創出に向けて研究開発活動に邁進いたします。
当社は、標的とするRNAの塩基配列に応じて、特異的に結合するPPRタンパク質をデザインする技術を有しています。PPRタンパク質は35のアミノ酸からなるPPRモチーフが反復した構造をとるため、PPRタンパク質をコードする遺伝子の作成は難しく、品質の高い遺伝子を数多く作製するには時間を要していました。
今回の研究で、PPRタンパク質をコードする遺伝子の配列を最適化することで各PPRモチーフをコードする遺伝子の配列が連結時に乱れることを防ぎ、かつ容易に連結できる方法を開発し、この方法で作製したPPRタンパク質がデザイン通りの配列特異性を有することも確かめられました。この技術により設計された遺伝子は作製プロセスの自動化にも対応でき、大規模なPPRタンパク質遺伝子ライブラリーを短期に作製できるため、創薬候補になりうるPPRタンパク質の作製・探索を効率よく進めることができます。
また、PPRタンパク質のもつRNAへの結合性能を活かし、ヒト細胞で標的を指定してエクソンスキッピングを実現できることを証明しました。エクソンスキッピングとは、DNAからメッセンジャーRNAが転写される過程において、タンパク質合成に関与する塩基配列のまとまり(エクソン)の一部を人為的に取り除く(スキップする)技術です。タンパク質はメッセンジャーRNAを鋳型に合成されており、生体内ではメッセンジャーRNAを構成するエクソンの組み合わせを複雑に変化させ様々なタンパク質が生産されています。エクソンに欠損などの異常が生じた場合、正常なタンパク質が合成されず、特定の病気を発症する原因となることがあります。今回の成果を応用することで、異常なエクソン構成の修復や、変異を持つエクソンの除去による遺伝子治療を実現できる可能性があります。
◆論文情報
Yusuke Yagi, Takamasa Teramoto, Shuji Kaieda, Takayoshi Imai, Tadamasa Sasaki, Maiko Yagi, Nana Maekawa and Takahiro Nakamura
Construction of A Versatile, Programmable RNA-binding Protein using Designer PPR Proteins and Its Application for Splicing Control in Mammalian
Cells 2022, 11(22), 3529
https://www.mdpi.com/2073-4409/11/22/3529