これまでプライバシー等の問題により性接触のネットワークの実態は謎に包まれていました。本研究では、性風俗商用サイトのオンライン顧客レビューを利用して性風俗産業(ソープランド)における男性顧客と女性セックスワーカーの性接触ネットワークを構築することに成功しました。世界でも類をみない巨大な性接触ネットワークを抽出し分析することが可能になりました。
本研究は、社会ネットワークの研究におけるマイルストーンとなるばかりか、性感染症予防政策立案のための新しい知見をあたえるものと期待されます。
なお、本研究成果は、2022年11月3日に、Public Library of Science社の発行する国際科学雑誌「PLOS ONE」にオンライン掲載されました。
【研究のポイント】
・ここ数年で急速に拡大してきた性風俗商用サイトが運営するオンライン顧客レビュー(口コミ)サービスを利用して性接触ネットワークを再構築しました。
・このようにして得られた性接触ネットワークはスケールフリーの特性を持つ一方、地域や店舗に依存して高いクラスタリング係数を持つことがわかりました。
・性接触ネットワークにおける女性セックスワーカーと男性顧客の役割の違いを明らかにしました。
【研究概要】
本研究では、性風俗商用サイトで一般公開されている顧客レビュー(口コミ)を利用して性接触ネットワークを抽出・分析しました。ここで口コミとは男性顧客が実際に性交渉をした女性セックスワーカーについての情報をオンライン上に書き込んだもので、口コミをサイトから収集することで男性顧客と女性セックスワーカーとの間の性接触による二部ネットワークを構築できます。こうして得られた二部ネットワークに対してネットワーク分析を行い様々な構造特性を明らかにしました。
【研究背景】
近年、SNSなどで見られる大規模な社会的ネットワークが研究されるようになっていますが、性的接触に関しては技術的問題とプライバシーのために十分な研究が行われておらず、その実態については謎に包まれていました。過去にはアンケート調査による研究もありましたが、その規模は小さく学術的な信頼性も高くありませんでした。本研究では、ここ数年で発展してきた性風俗商用サイトの口コミサービスを利用することで、これまでにない規模と正確性を持つネットワークを抽出することを目指しました。
【研究の成果】
本研究で用いたデータは性風俗店でもソープランドと呼ばれる店舗に限定しています。ソープランドは日本全国に点在しており、地域間の関係性も可視化することが可能になりました。得られたネットワークはスケールフリーの特徴を持っていることが明らかになりました。また男性顧客と女性セックスワーカーとネットワーク上で果たす役割の違いについても分析が可能になりました。
【今後の展望と波及効果】
本研究はこれまでの調査範囲の限界を劇的に拡張するものであり,今回提示したネットワークは性接触に関する研究の中でも世界最大のものです。社会ネットワークの一例として今後の研究に活かされるのみならず、性感染症の蔓延対策などの公衆衛生の分野において重要な知見を与えるでしょう。
【論文情報】
掲載誌名:PLOS ONE
論文タイトル: Exploring sexual contact networks by analyzing a nationwide commercial-sex review website
著者: Hiromu Ito, Keiko Shigeta, Taro Yamamoto, Satoru Morita
DOI:10.1371/journal.pone.0276981
【研究助成】
JSPS科研費21H01575,21K03387,19H05731,19KK0262,18K03453,17H04731
全国共同利用・共同研究拠点「熱帯医学研究拠点」2022-Seeds-02
【用語説明】
二部ネットワーク:ノードを2つのグループ分けて各グループのノードがリンクしないようにできるネットワークのことです。本研究の場合は男性顧客と女性セックスワーカーのグループに分けています。
スケールフリーネットワーク:ノードが持つリンク数がベキ分布に従うネットワークのことであり、一部の少数のノードが極めて多くのリンクを持つハブになっている特徴があります。
【研究者コメント】
性感染症の蔓延について数理モデルを用いた研究をしていたところ、現実の性接触ネットワークについて知られていることが極めて少ないことに気づきました。そこで思いついたのが性風俗産業の口コミサイトを利用する本研究の手法です。