『坂の上の雲』は、3人の主要登場人物、秋山好古・真之兄弟、正岡子規の故郷、愛媛県松山市から展開していきます。同様に松山城の桜から始まる写真集は、漱石と子規が交流を深めた文京区本郷の炭団坂、台東区根岸の子規庵を写し、ロンドン、サンクトペテルブルク、旅順、対馬沖と、ページをめくるたびに作品の舞台が次々に現れてきます。
週刊朝日連載「司馬遼太郎シリーズ」は2006年に連載を開始して16年が経過、現在も続いています。もっとも長期に連載したのは『坂の上の雲』です。「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている」という一文で始まり、近代国家への歩みを始めたばかりの弱小国だった明治日本の青年たちが必死でロシアに挑み、かろうじて勝利するまでを描きます。日露戦争は「第0次世界大戦」とも呼ばれ、現代のウクライナ紛争におけるロシアのあり方とオーバーラップする点も多くあります。
写真集のカバーは波一つない青い海原。日露戦争で激戦が繰り広げられた日本海の沖ノ島西方沖です。小林は松山を振り出しにした国内はもとより、ロシア、イギリス、フランス、フィンランド、アメリカ、中国、韓国など、作品の舞台をほぼすべて取材しました。写真には旅の要素も含まれており、厳選した写真を司馬氏の言葉とともに紹介することで、『坂の上の雲』の世界を実際に旅するような内容となっています。
司馬氏のロシアに関する言葉は、ロシア情勢の源流を知る一つのきっかけにもなるでしょう。さらには司馬氏が愛した正岡子規の俳句も引用し、俳句ファンにとっても興味をひく写真集になっています。
「司馬遼太郎シリーズ」の小林の写真は、2017~19年の3年連続で日本雑誌写真記者会賞の最優秀賞を受賞し、19年には写真集『司馬遼太郎「街道をゆく」の視点』を出版し、あわせて開催された写真展(東京、大阪)は大きな反響を呼びました。
『坂の上の雲』の魅力を発信し続ける松山市の「坂の上の雲ミュージアム」では10月18日(火)から開館15周年を記念した小林の写真展「司馬遼太郎『坂の上の雲』の視点」を開催中です(入場無料)。11月27日(木)まで=休館日:10月24日(月)、31日(月)。
2023年は司馬遼太郎氏の生誕100年にあたります。心血を注いだ『坂の上の雲』の世界を写真と文章でお楽しみください。
■小林修(こばやし・おさむ)
1966年生まれ、90年立教大学卒、同年朝日新聞社に入社。現在は朝日新聞出版写真映像部長。著書に写真集『司馬遼太郎「街道をゆく」の視点』。
『司馬遼太郎「坂の上の雲」の視点』
著者:小林修
発売日:2022年10月20日(木)
定価:2970円(本体2700円+税10%)
B5判変型 128ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4023322687