グローバル・エレクトロニクス・アソシエーション、2026年のエレクトロニクス業界トレンド予測 ~ 変化を乗り越えるレジリエンス(適応力) ~

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エレクトロニクス関連企業が参画する国際標準団体である、「グローバル・エレクトロニクス・アソシエーション(Global Electronics Association)」は、2026年のエレクトロニクス業界トレンド予測をまとめました。本トレンド予測では、同アソシエーションとしてのトレンド予測に加え、社長 兼CEO(最高経営責任者)である ジョン・W・ミッチェル、CTO(最高技術責任者)兼スタンダード&テクノロジー担当バイスプレジデントであるマット・ケリーの両名が、それぞれの視点から2026年向けた業界の重要トピックや技術動向について見解を示しています。

1) 2026年のエレクトロニクス業界トレンド予測:変化を乗り越えるレジリエンス(適応力)

関税や地政学的緊張、経済の先行き不透感といった逆風に直面しながらも、2026年のエレクトロニクス業界は高い適応力を発揮すると考えられます。企業は従来の危機対応型から、能動的な戦略立案へと移行し、高度な関税対応戦略の構築、サプライチェーンの可視化強化、人工知能や防衛、先端コンピューティングなどの成長分野へのシフトが進んでいます。今後の成功の鍵は、これら成長分野における戦略的ポジショニング、変化する貿易環境への柔軟な対応力、高度化する製品基準に対応できる技術力にあると予測します。

予測1:労働力不足

2026年は、電子機器製造における労働力やスキルを持つ人材の不足が最大のボトルネックになる見込みです。工場や設備は数カ月あれば整備できますが、専門的な技能を身につけた人材は同じスピードで育成することができません。こうした人材不足は、生産技術者、エンジニア、先端製造の専門人材にまで及びます。大規模な投資を進める北米や欧州でも影響が避けられないほか、産業が成長を続ける東南アジアやメキシコでも深刻化する見通しです。

予測2:AIインフラが持続的な成長をけん引

AIは2026年もエレクトロニクス業界の大きな成長を牽引します。その投資の中心は、投機的なベンチャー資金ではなく、安定した収益基盤を持つハイパースケーラーによる長期的な資本投入になると見られています。AIの拡大を制約する最大の要因は、資本やイノベーションではなく、エネルギーインフラです。AIの導入は、発電能力や送電網の整備状況に大きく左右されるため、電源管理部品、先進的な冷却システム、高効率なコンピューティング・アーキテクチャへの需要が高まり続けると予想されます。

予測3:消費地の近接した生産拠点を置く「ニアショアリング」の現実

2026年には、ニアショアリングを推進する取り組みが、厳しい経済的現実に直面すると予測されます。政治的圧力により国内生産の発表が相次ぐ一方、採算性に欠けるプロジェクトの多くは、多くは公にされることなく頓挫する可能性が高まっています。実際に生産拠点を移転する場合、政府補助金への依存(結果として納税者が負担)や、国内で製造された製品の価格競争力低下も予想されます。製造面での優位性は、引き続きアジアが維持すると考えられます。例外として、AI技術スタックや防衛・航空宇宙関連製品については、安全保障上の観点から政府が追加コストを負担する傾向が続く見込みです。

予測4:サプライチェーンの分断と強靭化

2026年、グローバルサプライチェーンにおいて、分断と強靭化が同時並行で進む見通しです。各国政府は国内で完結させる完全自立という非現実的な方針を見直し、これまで以上に二次・三次サプライヤーまで詳細に把握できる可視性を確保するとともに、複数地域・多層構造によるレジリエンス強化へと方向転換しています。その結果、従来のように単一の最適化されたグローバルシステムに依存する形態でなく、戦略的な冗長性を備えた複数の地域ネットワークが、互いに競い合う形で構築されつつあります。サプライチェーンの完全なデカップリング(切り離し)は現実的ではなく、リスクを管理しながら相互依存を前提とする新たな考え方が標準となるでしょう。

予測5:原材料は戦略資産に

2026年には、重要鉱物がサプライチェーン上の単なる構成要素から、国家戦略資産へと位置づけが変わる見通しです。各国はレアアース(希土類)の国内採掘や精製に積極的に投資を進めますが、これらは必ずしも経済合理性のみを基準に判断されているわけではありません。レアアースは地政学的交渉の要としての重要性が一層高まり、限られた資源を掌握することで、国家間における不均衡な影響力が明確に浮かび上がってきています。同時に、電子機器メーカーはリサイクルや資源循環の取り組みをさらに強化し、使用済み製品に含まれる重要鉱物の回収による将来的な供給不足に備える戦略的備蓄へと転換していく動きが加速するでしょう。

予測6:半導体を超えてエコシステム全体へシフト

2026年は、欧州および北米の政府が半導体のみに焦点を当てた従来の発想から脱却する年になると予測されます。政策立案や資金配分は、先端パッケージング、プリント基板(PCB)、電子システム組立など、より広範なエレクトロニクスエコシステムへと拡大される見通しです。このような動きは、「欧州半導体法2.0(European Chips Act 2.0)」や米国の助成金配分にも反映され、各国政府の間では、国内でチップを製造するだけでは不十分であり、製造スタック全体の能力を国内で確保することこそ不可欠との認識が強まっています。

予測7:先端パッケージングが素材イノベーションを加速

2026年には、先端パッケージング、3Dスタッキング、チップレット、フォトニクスの成長が、材料科学分野にこれまでにない急速なイノベーションをもたらすと予測されます。高度誘電体、次世代基板、フォトニック素子は、半導体設計と同等に重要な要素として位置づけられるようになります。特にAIワークロードの増加が、次世代ノードや高帯域幅メモリ、システムレベルでの新たなイノベーションを促進し、5年前には想定されていなかった新たなパッケージング基準の創出も予測されます。

予測8:製造インテリジェンスの格差拡大

2026年は、エレクトロニクス産業における先進企業と後発企業の格差が劇的に拡大すると予測されます。業界をリードする企業は、デジタルツインや自律型プロセス制御、AI/MLによる最適化を活用し、生産歩留まりやスピード、アジリティを向上させ、スマートファクトリーの実現へと前進するでしょう。投資余力を持つ企業は自動化や高精度製造装置ツールへの投資を加速させるのに対し、方向性を見いだせない企業は対応が遅れ、自ら競争力を失うリスクが高まります。量産分野では引き続きアジアが優位性を維持するものの、北米や欧州の先進的な政府は、チップ製造に限らず、その他の製造分野における近代化を促進するために、支援策を拡大していく見通しです。

2) 2026年のエレクトロニクス業界トレンド予測

グローバル・エレクトロニクス・アソシエーション 社長兼CEO(最高経営責任者) ジョン・W・ミッチェル(John W. Mitchell)

予測1:相互依存性

2026年は、各国がエレクトロニクス分野のサプライチェーンを見直す動きをさらに加速させる一方で、完全なデカップリング(切り離し)は現実的ではないとの認識が広がると考えられます。これにより、重要分野では複数のサプライヤーを確保するなど、リスク分散を進めながら、エレクトロニクス製造におけるグローバルな相互依存は排除すべき弱点ではなく、より賢明に管理すべき要素であると受け入れ、戦略的な多様化が進むと予想されます。

予測2:人工知能

AI投資ブームが景気後退の回避に寄与した一方で、企業は期待されていたような変革的な成果を得るには、当初予想していた以上の時間を要する実現に直面することになるでしょう。焦りではなく、忍耐こそが鍵となり、AIで成果を上げる企業と過度な投資で行き詰まる企業を分けることになります。

予測3:人材

世界のエレクトロニクス製造の拡大は、人材不足により大きく制約される見通しです。工場スペースや設備ではなく、専門性を備えた人材が最大の制約となり、最も希少かつ重要なリソースと位置づけられます。施設の新設は短期間で可能である一方、現場で求められる専門知識や技能を持つ人材の育成には時間を要します。このスキルギャップは、今後のリショアリング(国内回帰)や各国の製造能力強化に向けた取り組みにおいて、重要な課題になると予測されます。

予測4:原材料

2026年には、各国が原材料を国家安全保障観点から戦略的資産として扱う動きが加速すると見込まれます。レアアースなど重要資源に関しては、経済的なメリットが十分でない場合でも、国内での採掘・精製体制の強化に向けた投資が進む見通しです。これにより、エレクトロニクス産業では、従来の最低コストでの調達から地理的に近い調達へと優先順位が変化し、長年にわたり最適化されてきたサプライチェーンの構造が再構築されていくと予測されます。

予測5:サステナビリティ

2026年には、サステナビリティへの投資が加速する一方、地域ごとに異なる基準や規制が乱立し、グローバルな標準化が進まず、非効率性が顕在化すると予測されます。今後の課題は、サステナビリティの重要性に対する理解を意思決定者の間で進めるのではなく、地域ごとに複雑化する基準への対応を進め、取り組みそのものの進展を阻害しないようにする点です。

3) 2026年のエレクトロニクス業界トレンド予測

グローバル・エレクトロニクス・アソシエーション CTO(最高技術責任者)兼スタンダード&テクノロジー担当バイスプレジデント マット・ケリー(Matt Kelly)

予測1:グローバル・エレクトロニクス・エコシステム

2026年には、自動車、航空宇宙、防衛、エネルギーなど、多岐にわたるエレクトロニクス産業において、より高度なコンピューティング能力の受容が高まると見込まれます。エレクトロニクスのエコシステムは従来の枠を大きく超えて拡大し、半導体は単なる部品ではなく、現代の乗り物、航空機、インフラを支える中枢として位置づけられるようになります。

予測2:サプライチェーン

2026年には、特定の地域に依存するサプライチェーン体制は、リスクとみなされるようになると予測されます。企業は複数の地域・階層にまたがる強靭なサプライチェーンを構築し、二次・三次サプライヤーにまで及ぶ、これまでにない可視性を確保することが重要になります。企業の競争力を左右する要素は、従来の効率性の追求だけではなく、サプライヤーネットワーク全体における冗長性や機動力へとシフトしていく見通しです。

予測3:材料

先端パッケージングは新たなフェーズへと突入し、それに伴い新素材の重要性が急速に高まるでしょう。3Dスタッキング、チップレット、フォトニクスの拡大により、高度誘電体、次世代基板、フォトニック素子などの分野で、これまでにないペースでイノベーションが進む見込みです。2026年には、材料科学が半導体設計と同等に重要な役割を担う分野として位置づけられるようになると予測します。

予測4:製造

2026年には、「未来の工場」が実現し、スマートマニュファクチャリングが本格的に主流化するでしょう。デジタルツインや自律型プロセス制御、AI/MLを活用した最適化により、生産現場は大きな変革を遂げ、生産歩留まり、スピード、機動性が劇的に向上します。こうした先進技術を採用して変革を実現する企業が業界をリードし、従来型のオペレーションに留まる企業との差はこれまで以上に広がると考えられます。

予測5:AIインフラとデータセンター

2026年には、AIワークロードがエレクトロニクス産業のあらゆるレイヤーに変革をもたらすと予測されます。次世代半導体ノード、先端3Dパッケージング、チップレット、高帯域幅メモリ(HBM)などへの需要が一段と拡大するでしょう。一方で、AIおよびHPCによる急速な電力需要の増大により、データセンターの根本的な再設計が不可避となります。液浸冷却を含む液冷技術の普及、電力供給方式の再構築、さらにはエネルギーと冷却能力を安定的に確保可能な地域へのシフトなど、データセンターの在り方そのものが大きく見直される時代に突入します。

グローバル・エレクトロニクス・アソシエーションについて

グローバル・エレクトロニクス・アソシエーション(Global Electronics Association)は、エレクトロニクス産業のグローバル代表機関として、世界数千社以上の会員企業やパートナーと連携し、より強靭で持続的なサプライチェーンの構築に取り組んでいます。公正な貿易の推進、適切な規制の整備、地域別の製造活性化を掲げ、業界の知見や実践的な情報、技術革新に関する教育・情報発信を通じて、次世代産業の発展を力強く支援します。当アソシエーションは、信頼され発展するエレクトロニクス産業を推進するため、世界中の政府や企業と協力しています。旧称IPCから進化した当アソシエーションは、6兆ドル規模のエレクトロニクス市場に対応し、アジア太平洋、欧州、北米、中南米に拠点を置いています。詳細は www.electronics.orgをご覧ください。

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