NeXT FOREST熱帯泥炭地管理のAIモデルを構築

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 住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎 本社:東京都千代田区/以下、住友林業)と株式会社IHI(社長:井手 博 本社:東京都江東区/以下、IHI)の合弁会社、株式会社NeXT FOREST(ネクストフォレスト、本社:東京都千代田区/以下、NeXT FOREST社)※1はAIスタートアップの株式会社Recursive(代表:ティアゴ・ラマル 本社:東京都渋谷区 以下、リカーシブ)と協業し熱帯泥炭地管理※2の初期AIモデル(AI水理モデル)を構築しました。

 この技術の導入で住友林業の経験豊富な技術者のみができた地下水位予測をAIで行うことが可能となります。NeXT FOREST社はこのAIを活用しインドネシアなど世界の熱帯泥炭地でCO2排出や森林火災の抑制に貢献していきます。

■開発の経緯
 住友林業とIHIは熱帯泥炭地管理に不可欠な地下水位をコントロールするため降水量、植物の蒸散量、標高や傾斜、天候などのデータをもとにシミュレーションする水理モデル※3の開発を進めています。水理モデルは様々なデータを取得し、その都度解析するため多くの時間を要します。一方、気候変動対策、生物多様性の保全は喫緊の課題で、水理モデルの開発に加え地下水位管理技術の早期展開を目指しAIの活用に取り組んでいます。
開発はGoogleの持ち株会社Alphabet傘下のAI開発会社DeepMindでシニアリサーチャーだったティアゴ・ラマル氏が2020年に日本で設立したリカーシブと協業しています。

 このAIモデルは住友林業が管理するインドネシアの熱帯泥炭地で10年以上かけて計測を続けてきた地下水位データを教師データ※4としてAIによる機械学習と物理モデル※5を複合したオリジナルモデルです。
具体的には地形図と観測地点の地下水位実測値、降水量実績値を用いて対象エリア全体の地下水位を7日後まで予測することができるようになりました。
この地下水位予測から今後、植林企業などが管理する泥炭地にどのような水路運用やダムの配置をすれば適正な地下水位を保てるのかシミュレーションできるようにアップデートしていく予定です。

※1 熱帯泥炭地を適切に管理するコンサルティングサービスの提供を目的に2023年2月に設立。
※2 植物の遺骸が水中で分解されずにできる泥炭が堆積した土地。地下水位が下がり乾燥すると、炭素を多く含む泥炭が分解・消失するだけでなく非常に燃えやすくなるため、地下水位管理が極めて重要。
※3 水理学の原理を用いた物理モデル。水の流れなど自然界の水の循環を再現するために使用される。
※4 機械学習のモデルを訓練させる際に用いるデータ。
※5 ある対象をその実体に近い詳細な表現で記した図など。仕様の表現や設計図。

<AI水理モデル構築の流れと地下水位予測イメージ>

                                                 

住友林業がインドネシア・西カリマンタン州の森林事業で10年以上にわたり蓄積したデータを活用

土地の標高や傾斜などの地形データ、降水量、水路などの情報をAIモデルにインプット

地下水位データを教師データとして、AIによる機械学習と物理モデルを複合したAI水理モデルが数日後の地下水位を予測

AIが予測した数日後の地下水位が火災の危険性がある地下水位に達した時、アラートが出る仕組み

■プロジェクトの背景
 熱帯泥炭地は枯れた植物が土壌微生物の分解を受けずに有機物のかたまりとして堆積した土地で大量の水と炭素を含んでいます。インドネシアやコンゴ盆地、アマゾンに分布している熱帯泥炭地の面積は全世界で82百万ha(日本の国土面積の約2倍)以上、貯蔵する炭素量は少なくとも890億トン(2017年の世界の炭素排出量の約10倍)と言われています。
 熱帯泥炭地が伐採や焼畑で無秩序に破壊されれば、地中に含まれる有機物が分解し大量の二酸化炭素が大気中に放出されます。また雨水を地中に貯めて蒸発散を通じて大気中に返す水の大きな流れが失われ、干ばつや洪水などの異常気象が生じると考えられています。
熱帯泥炭地は地下水位が重要で水位が下がると乾燥し非常に燃えやすく森林火災の原因になります。一方で地下水位が高くなりすぎると樹木の生育を妨げるため地下水位は適切に調整し続けなくてはなりません。
 住友林業とIHIは熱帯泥炭地の保全と適切な管理がカーボンニュートラルの実現、生物多様性や水循環の保全といった人類の生存基盤の安定化のために危急の課題と考えています。住友林業が構築した熱帯泥炭地の高精度な地上観測システムとIHIが航空・宇宙分野で培ったドローンや人工衛星データの利用技術、気象観測・予測技術を掛け合わせて熱帯泥炭地の管理技術を世界に普及するコンサルティングサービスを展開しています。

 住友林業グループは森林経営から木材建材の製造・流通、戸建住宅・中大規模木造建築の請負や不動産開発、木質バイオマス発電まで「木」を軸とした事業をグローバルに展開しています。2030年までの長期ビジョン「Mission TREEING 2030」では住友林業のバリューチェーン「ウッドサイクル」を回すことで、森林のCO2吸収量を増やし、木造建築の普及で炭素を長期にわたり固定し、自社のみならず社会全体の脱炭素に貢献することを目指しています。
 長期ビジョンで掲げた「循環型森林ビジネスの加速」に向け、グローバル規模の森林ファンド組成や森林面積拡大を進めます。

 IHIは本事業を自然と共存する持続性の高い事業へ成長させるとともに、「美しい地球」を守るため、地球規模の課題解決として、脱CO2・循環型社会と防災・減災の実現に向けて取り組んでいきます。また、多様なソリューションを組み合わせるエンジニアリングサービスの提供によって,2050年カーボンニュートラルの実現に貢献してまいります。

 リカーシブは持続可能な未来を構築するためのAIソリューションを提供するサービスプロバイダーです。環境、エネルギー、医療、製薬、食品、小売など多岐にわたる業界の知見と高度な技術力、サスティナビリティ事業に関する専門知識を組み合わせ、AIのシステム開発やコンサルテーションサービスを提供しています。より良い地球環境や社会を未来の世代に残すために、比類なきプロフェッショナルが世界標準のテクノロジーで新しい社会つくりをリードします。

■プロジェクトロゴ

<関連プレスリリース>
 ■住友林業とIHI、「熱帯泥炭地コンサルティング」と「質の高い炭素クレジット」の事業化に向けて提携
  住友林業 https://sfc.jp/information/news/2021/2021-06-18-01.html
  IHI https://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2021/aeroengine_space_defense/1197434_3351.html

 ■住友林業とIHI、熱帯泥炭地コンサルティングの合弁会社設立
  住友林業 https://sfc.jp/information/news/2023/2023-02-14-01.html
    IHI https://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2022/aeroengine_space_defense/1198192_3479.html

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