今年2023年5月19日~21日、日本政府が議長国を務めるG7広島サミットが開催され、5月20日に発表された首脳宣言には、人々の健康のために水・衛生が重要な役割を果たすことが明記されました。さらに4月16日~17日に開催されたG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合、5月13日~14日に開催された保健大臣会合の宣言でも、それぞれ気候変動や保健のために水・衛生が重要であることが言及されました。ウォーターエイドは、このようにG7に参加したリーダーたちが、水・衛生が果たす役割について宣言文で言及したことを歓迎します。
一方、このたびウォーターエイドの調査によって、水・衛生向けの援助は世界的に縮小しており、持続可能な開発目標(SDGs)が合意された2015年以降、その縮小規模は、約30%以上にもなることがわかりました。実際、水・衛生は、新型コロナウイルスの感染予防策のひとつである手洗いに不可欠であるにもかかわらず、パンデミックの最初の2年間で、水・衛生分野に特化した援助は、教育、エネルギーなど他分野向けの援助と比べて、大きく減少しています。
また、日本は長年、水・衛生分野の最大援助供与国でしたが、2015年~2021年の日本の水・衛生援助の傾向を見ると、2021年に微増したことを除き、年々、水・衛生分野の援助額は減少傾向にあり、この期間中、水・衛生分野援助供与額2位と順位を下げています。
日本は、以前より、他国と比べて政府開発援助(ODA)全体に占める水・衛生分野向け援助の割合が非常に高く、2015年~2021年の期間中、他ドナーの平均が3.3%であるなか、日本政府は6.8%でした。これは心強い数字である一方、この割合も年々下落しており、2015年には、ODA全体に占める水・衛生援助の割合が10%近くあったものの、2021年にはその割合が4%にまで落ち込んでいます。
水・衛生は、感染症の予防策としてはもちろん、母子保健や薬剤耐性対策として重要です。G7長崎保健大臣会合の成果文書の1つ「G7 UHCグローバルプラン」において、保健医療施設における水・衛生の重要性が言及されましたが、保健医療施設の水・衛生不備によって、特に女性が影響を受けています。医療従事者の70%を女性が占めていると言われていますが、トイレも手洗い設備もない保健医療施設では、医療従事者たちは安心して働くこともできません。不衛生な環境での出産に伴う感染症によって、年間100万人を超える女性と新生児が命を落としており、このことは出産時に新生児が亡くなる原因の26%、女性が亡くなる原因の11% を占めています。
水・衛生は気候変動の重要な適応策の1つでもあります。2022年に大洪水に見舞われたパキスタンでは、洪水で給水インフラ・トイレが破壊されたことによる衛生状況の悪化で、女性・女の子たちが尿路感染症や生殖器合併症に苦しんでいます。今年初め、マラウイ・モザンビーク等アフリカ南部でコレラの流行が発生しましたが、サイクロンの影響を受け、給水・衛生設備が破壊されたり、衛生状況が悪化したりしたことで、コレラ感染数がさらに急増し、多数の死者が出ました。気候変動に対して脆弱なコミュニティのレジリエンスを高めるためにも水・衛生は不可欠です。
ウォーターエイドジャパン事務局長の高橋は次のように話します。
「G7に参加した、気候・エネルギー・環境大臣、保健大臣、そして首脳が、それぞれの宣言のなかで水・衛生の重要性に言及したことを心強く思います。一方、日本を含め世界的に水・衛生分野の援助が縮小しているこの状況を変えていかなければなりません。ウォーターエイドは、今も気候危機・保健危機に直面している世界の最貧困層・脆弱層が、1日も早く清潔な水とトイレを利用し、衛生習慣を実践できるよう、水・衛生援助の拡大を呼びかけていきます」
調査レポート(英文)はこちらからご覧いただけます。