DGDVは、近年注目を集めるデジタルヘルス領域に早くから注目し、国内外のスタートアップに投資を行ってまいりました。特にSaMD(Software as a Medical Device:デジタル技術を活用して診断・治療をサポートするソフトウェアのことをプログラム医療機器)などには今後国内市場での拡大も期待されていますが、医療分野であるがゆえに避けて通れないレギュレーションの問題を抱えています。
そうした中で、医療機器メーカー等での薬事規制対応経験を活かし、SaMD開発を行う企業の薬事業務を支援するSoftware Regulation代表の武田氏がDGDVアドバイザーに就任したことを受け、DGDV ヘルスケア担当の西川と共にレギュレーションに関する話題を軸にデジタルヘルス業界の課題と展望に関するセミナーを、開発に携わる大企業向けに実施いたしました。
DGDVはVCとして企業を近くで支える立場として、武田氏のような経験のお持ちの方をアドバイザーとして招聘し、今後もアドバイザーとのディスカッションや海外の最新の先行事例の随時共有などを通じて国内のデジタルヘルス市場の拡大に貢献して参ります。
以下は、DGDV 西川と武田氏がデジタルヘルスの展望と課題について、語った対談記事の抜粋です。
Software Regulation武田氏・DGDV西川 対談取材記事(抜粋)
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DTxの規制緩和で市場は活性化するのか?──企業からのアプローチが重要
──まずは武田さんのご経歴をお願い致します。
武田氏 「もともと医薬品医療機器メーカーの開発薬事・品質部門で、日本やアメリカ、ヨーロッパなどの薬事規制対応や当局・顧客などを担当していました。
その後、プログラム医療機器を開発するヘルステックカンパニーに転職。当時、DTx薬事業務全般に携わり、日本初となる治療用アプリの薬事承認取得に関わりました。
それと並行して、さまざまなヘルステックスタートアップと関わりながら、薬事・臨床・品質などの領域で支援して、現在(2023年2月時点)はプログラム医療機器の薬事業務を支援する会社を設立し活動中です」
──次に西川さんにお聞きしたいのですが、VCとして見ているデジタルヘルス業界の資金調達の状況と、デジタルヘルス業界への参入は障壁についてもあわせて教えてください。
西川 「コロナ禍でデジタルヘルスが急激に注目されるようになり、投資領域としても成長しています。とくに2021年は歴史的な年だといわれていて、これまでヘルスケア領域に投資していなかった投資家たちが積極的に投資したことを受け、投資額が過去最高を更新しました。(※CBインサイト調べ)
2022年はコロナの収束とともに市況が落ち着きを見せ、投資額は前年の半分程度になったものの、2020年と同水準程度に留まりました。
医療という分野である以上、避けることができないのが、レギュレーションの問題です。
たとえば、デジタル技術を活用して診断・治療をサポートするソフトウェアのことをプログラム医療機器(Software as a Medical Device:以後、SaMD)といいますが、こうしたデバイスを医療行為として使う場合、厚労省とその傘下にある医薬品医療機器総合機構(以後、PMDA)の承認を得る必要があります。
しかし、これは専門性が高く承認に時間がかかる上、政府をはじめステークホルダーの数も大きく異なります。国内で承認された事例もまだ数件ほどと、ノウハウの蓄積もないため、『興味はあるけど参入が難しい』と考える企業が少なくありません。
この問題をどう克服するかが、デジタルヘルス市場を拡大していく上での鍵になると考えています」
──レギュレーションの現状について教えてください。
武田氏 「最近の状況としては、2022年6月に行動変容を伴う医療機器プログラムに関する評価指標が発表、2022年9月に高血圧に対する治療用アプリが保険適用、2023年2月にサスメド社の不眠症治療用アプリが薬事承認、2023年3月に医療・健康分野における行動変容を促す医療機器プログラムに関する開発ガイドライン2023(手引き)が発表、2023年4月からサイバーセキュリティの要件化、というのがトピックかと思います。
またデジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics:以後、DTx)を含めたSaMDのレギュレーションで協議の真っ只中にあるのが規制緩和です。
2022年12月に内閣府が提示した資料によると、プログラム医療機器に対する規制緩和が2024年3月を目標に検討されることが示されています。
当局で審査を担当する方々は、DTxが医薬品と比較して身体への侵襲性が低く、安全性が高いことを十分に理解してくれています。また国外でDTx製品が承認されている事例から、効果についても期待できることを認識しています。
ただ彼らは医療機器としての妥当性を審査する立場にありますので、全ての患者さんに安全で効果が期待できるかどうかについては、慎重な姿勢にならざるを得ません。
企業側は当局の立場を理解しつつ、当局を納得させるようなエビデンス作りや説明をしていかなくてはなりません。
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DTxアプリの価格は高すぎる?── DTxの市場浸透を成功させるには
西川 「投資の意思決定を行う上で、承認の時期や確度が判断材料の一つとなるわけですが、企業側の最終的な目的は承認を取ることではなく、できるだけ多くの患者さんに製品を届け、企業の収益につなげ、より多くの患者さんの疾患の治癒に貢献することです。
これまでも、承認さえ取れれば、収益の見込みが立つだろうと思っていた製品が、想定よりも医師に使用してもらえないケースなども見てきました。
承認は必須ですが、その承認を取った後に、収益をつくれるかどうかまで見極める必要があるわけです。
武田氏 「収益に関して言えば、市場浸透と薬事保険の点があるかと思います。投資家が見極める点としては、市場浸透と薬事保険に対する戦略が魅力的かどうかかと思います。
率直に言って、SaMDによる診療は患者さんも医療従事者の皆様も本当に効くの? と感じている人も少なくないと思います。これは、”ソフトウェアは治療効果がある”という常識がまだ市場に浸透していないためと考えます。
この常識が変わっていけば、活用する人が増え、収益が期待できるようになるはずです。
そのための第一歩は、共感いただける人とつながることです。
実はソフトウェアによる診療に期待する医療従事者の方は少なくないと感じています。医師の中には、専門医による治療が必要な段階になる前に、かかりつけの医師によってDTx治療が実施されれば、より早い段階で治療を提供できると考えている方もいます。
また薬事保険の観点では、医療機関によっては処方できないというような制限を設定されないことが大切です。DTxを処方したいのに、医療機関が要件を満たさないために、その機会を失うのは非常に残念なことです。そのため、薬事保険において要件を設定されないようにするのが大きな課題と言えます。
くわえて、価格設定も重要です。高すぎると患者さんの自己負担が増えて敬遠され、低すぎると医療機関の収益性売上という点で敬遠されるかもしれません。
投資家の皆様には、承認時期や保険算定額だけではなく、市場浸透のストーリーとそれを踏まえた価格設定についても視点に含めるのが良いかなと考えています」
(記事の続きを読むにはhttps://www.talent-book.jp/dg-daiwa-v/stories/50936をご覧ください。)
【プロフィール】
武田瑛司(たけだ・えいじ)
Software Regulation代表。DG Daiwa Venturesアドバイザー。 メーカーにて医薬品および医療機器の開発薬事・品質部門で国内外などの薬事規制対応から当局・顧客などを担当。現在はSaMD開発を行う複数企業(AIを活用した医療機器、治療用アプリなど)の国内外薬事業務を支援。
■DG Daiwa Venturesについて
社名:株式会社DG Daiwa Ventures
住所:東京都千代田区丸の内一丁目9番1号
設立:2016年7月1日
代表:代表取締役 大熊将人、阿部東洋
概要:次世代技術を有するスタートアップ企業への投資及び事業育成支援を目的として、累計約200億円を運用するベンチャーキャピタルです。GPのデジタルガレージが持つ投資ネットワーク・インキュベーション能力と、大和証券グループが持つファンド運営ノウハウを掛け合わせることで、投資先の事業成長を加速いたします。
URL:https://dg-daiwa-v.com/