精巣性テラトーマの原因遺伝子を解明

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静岡大学創造科学技術大学院・バイオサイエンス専攻・徳元俊伸教授の研究グループは、
マウス精巣性奇形腫(テラトーマ)の原因遺伝子の一つを解明しました。

【研究のポイント】
・精巣性テラトーマの原因遺伝子が肥満の原因遺伝子として知られるMc4rであることを解明
・精巣性テラトーマ発症メカニズム解明の手がかりとなる
・生殖細胞の分裂や分化に関わる経路の解明の糸口になる

 

Mc4r遺伝子に異常のある胎児精巣を移植するとC:甲状腺濾胞細胞(Th)、D:腺房細胞(Gl)、E:ケラチン真珠(Kp)、F:軟骨組織(Ca)などが生じた。Mc4r遺伝子に異常のある胎児精巣を移植するとC:甲状腺濾胞細胞(Th)、D:腺房細胞(Gl)、E:ケラチン真珠(Kp)、F:軟骨組織(Ca)などが生じた。

 本研究は、生殖細胞由来の腫瘍である奇形腫(テラトーマ)の原因遺伝子の一つが、これまで肥満の原因遺伝子として知られていたメラノコルチン4受容体(Mc4r)遺伝子に生じた一塩基置換であることを解明しました。

 本研究で得られた研究成果は、今後、ヒトのテラトーマ発症メカニズムの解明につながると期待されます。また、生殖細胞の分裂や分化の制御機構の解明に向けた基礎研究に新たな視点をもたらす他、現在盛んに進められているES細胞やIPS細胞からの生殖細胞誘導に関する研究にも新たな情報をもたらすことが期待される。

  なお、本研究成果は、2023年5月1日(ロンドン時間午前10時)に、Springer Natureの発行する国際雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

【研究概要】

 静岡大学・創造科学技術大学院・バイオサイエンス専攻・徳元俊伸 教授の研究グループは、マウスの精巣性テラトーマの原因遺伝子の一つがMc4r遺伝子の突然変異であることを世界で初めて明らかにしました。本研究は、主に静岡大学・理学部の学部生であった関駿介君と大浦薫さんによるマウス胎仔精巣の移植実験により得られた成果であり、創造科学技術大学院・バイオサイエンス専攻・博士課程修了生の宮嵜岳大博士(現、京都大学 医学研究科 分子遺伝学 助教)が浜松医科大学・高林秀次 准教授との共同研究で作出したゲノム編集マウスを用いて得られた成果です。

 

【研究背景】

 奇形腫テラトーマは、卵巣や精巣などに発症するガンの一種ですが、通常のガンとは異なり、3胚葉性の組織様に細胞が分化する特殊なガンです。マウスを用いた研究でその原因究明が進められています。マウスでは、細胞移植実験により人為的に移植片からテラトーマを形成させることも可能で、移植された細胞の多能性を試験する方法としてiPS細胞の分化多能性を示す実験にも用いられています。精巣性テラトーマについては静岡大学と国立遺伝学研究所の野口夫妻によりほぼ100%の確率でテラトーマを発症する高発系の129マウス系統が発見され、その原因遺伝子領域が18番染色体に存在することが明らかにされていました。2005年にその領域に存在する原因遺伝子が解明され、ゼブラフィッシュで不妊の原因遺伝子として発見されていたDnd1遺伝子の変異であることが明らかにされました。しかし、この変異だけでは生殖細胞欠損となり不妊になるだけでテラトーマは発症しないことが分かり、テラトーマ発症には別の原因遺伝子が必要であることが分かりました。そこで、この研究を引き継いだ徳元研究室では新たな原因遺伝子の解明に向け、移植するとテラトーマを発症する原因遺伝子にターゲットを絞って研究を進めました。その結果、3つの原因遺伝子領域を決定し、実験的精巣性テラトーマ関連領域1,2,3(ett1, ett2, ett3)と命名しました。ゲノム全体の遺伝子領域のDNA配列決定を行い、ett1領域に存在するMc4r遺伝子内に一塩基置換の変異があることを発見しました。そしてこの変異がテラトーマの原因となっているのかを検証するため、ゲノム編集技術を用い、この変異を精巣性テラトーマを発症しないLT系統のマウスに導入しました。このゲノム編集マウスを用いて精巣の移植実験を行うことでMc4r遺伝子の一塩基置換が実験的精巣性テラトーマの原因であることを解明しようとしました。

【研究の成果】

 精巣の移植実験により、推定通りMc4r遺伝子の一塩基置換をもつマウス精巣の移植により精巣性テラトーマが発症し、この変異が原因であることが解明できました。また、Mc4r遺伝子から作られるMC4Rタンパク質が精巣の生殖細胞に発現していることも突き止め、MC4Rが生殖細胞の増殖や分化に関わる情報を生殖細胞に伝えていることが明確になりました。

 

【今後の展望と波及効果】

 今後はMC4Rに作用するリガンド(ペプチドホルモン)の解明やその作用により、どのようにして生殖細胞の分裂や分化が制御されているのかを解明していく。最初に同定されたDnd1遺伝子については生殖細胞の制御に関する最先端の研究が進めれられているが、Mc4r遺伝子のはたらきとの関連が今後の研究対象となると推定される。また、Mc4r遺伝子が生殖巣でも発現していることが明らかになったことで生殖巣における癌の原因遺伝子としても注目すべき遺伝子として浮上した。

【論文情報】

掲載誌名: Scientific Reports

論文タイトル: The Mc4r gene is responsible for the development of experimentally induced testicular teratomas

著者: Syunsuke Seki, Kaoru Ohura, Takehiro Miyazaki, Abdullah An Naser, Shuji Takabayashi, Eisei Tsutsumi, Toshinobu Tokumoto

DOI: 10.1038/s41598-023-32784-1

【研究助成】

マウス系統保存費

【用語説明】

テラトーマ(奇形腫):テラトは怪物、オーマがガンを意味し、これらを合わせた言葉。怪物のようなガンという意味であるが、良性の場合と悪性の場合とがあり、良性の場合は摘出手術により完治されるが悪性の場合は転移の危険性がある。ヒトのテラトーマでは細胞塊中に髪の毛や歯が形成される例も知られているように通常のガンとは異なり、細胞、組織の分化が生じることが特徴である。

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