【調査報告】支援者の2人に1人がLGBTQへの支援を経験したが、うち9割は適切な支援ができず。72%が支援者の不適切な言動を経験。福祉国家資格保有者の9割が養成課程でLGBTQについて学べず。

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認定NPO法人ReBitは、2023年1月15日(日)から2月12日(日)まで、福祉や医療等の支援者のLGBTQに関する意識や支援機関の状況に関する「支援者のLGBTQ意識調査」を実施しました。速報として、支援現場の現状を示す主要なデータと、自由回答に寄せられた具体性のある支援者の声を発表します。
本調査からは、(1)支援者がLGBTQの支援について学ぶ機会がなく適切な支援ができていない状況、(2)支援機関でLGBTQに関する取り組みが不足しており、特に福祉や医療等の分野における遅れが顕著であることが分かりました。
結果をふまえ、(1)福祉や医療等の支援現場でLGBTQの支援に関する取り組みの推進、(2)特に福祉の国家資格保有者の養成課程でLGBTQの支援に関する学びを提供することが重要であると言えます。
なお、LGBTQも安心して利用できる社会資源が増えることを願い、障害福祉サービスでの取り組みをまとめた冊子「LGBTQも安心して利用できる障害福祉サービスのためにできること」を無料公開しました。
  • <アンケート調査『支援者のLGBTQ意識調査2023』の実施背景>

LGBTQは社会の状況等から、失業・生活困窮・精神障害等における高リスク層です。そのため、他のすべての市民と同様に、LGBTQも福祉や医療等の社会資源を安全に利用できることは、暮らしや命を守る上でとても重要です。現状の支援者のLGBTQに関する意識や支援機関での取り組みを知ることで、LGBTQも安全に利用できる社会資源が増えることを願い、本調査を実施しました。
本調査は、国内において2009年よりLGBTQの若者が直面する課題解決に取り組み、2021年より日本初となるLGBTQや多様性にフレンドリーな就労移行支援事業所(障害がある方たちの就活支援を行う福祉サービス)「ダイバーシティキャリアセンター」を運営する、認定NPO法人ReBit(以下、ReBit)が、公益財団法人ヤマト福祉財団の助成をいただき実施しました。
 

  • <アンケート調査『支援者のLGBTQ意識調査2023』報告>

2023年1月15日(日)〜2月12日(日)に、インターネットで実施したアンケート調査『支援者のLGBTQ意識調査』の回答者について、その勤務機関、勤務地域の分布は、以下の通りです。なお、本調査は、547名からご回答いただき、うち有効回答491名を分析しました。

アンケート調査より見えてきた、LGBTQへの支援の現状を以下5つのポイントにてまとめました。

1)LGBTQへ支援の機会はあるが、十分/適切な支援ができていない
支援者の2人に1人はLGBTQへの支援を経験していますが、そのうち9割が「十分/適切な支援ができなかった」と感じています。「十分/適切な情報提供や、連携先・リファー先を紹介できなかった」36.9%や、「他の支援者や上長等がLGBTQに関する十分な知識や理解がなく、機関として適切な支援ができなかった」28.8%から分かるように、相談を受けた支援者がLGBTQに関して適切な知識・情報を持っている重要性に加え、連携する必要がある他の支援者や上長など支援現場に携わる全員がLGBTQの支援についての知識を持っていることが必要だと考えられます。

<自由回答>
・生活保護を受給されているトランスジェンダー女性の方から、食費を削って女性ホルモンを投与している旨と、体調が芳しくないとの相談を受けた。医療機関やメンタルヘルスの相談機関を紹介したが、対応の前例が無いと言われ、支援が滞ることが続き、精神状態が悪化した。(社会福祉士)
・生活保護を申請されたトランスジェンダー女性の方が、仮住まい先が性自認とは異なる「男性寮」となって、役所の廊下で泣いていた。(キャリアコンサルタント)
・求職活動時にトランスジェンダーであることを開示し試験雇用に進んだが、本採用にあたり「戸籍上男性なのだから髪を短く切るように」等、性自認に基づかない容姿に変えることを採用の条件とされた。(障害福祉サービス)
・内定後にトランスジェンダーであることを人事に伝えたら内定が取り消されたとの相談に、的確な支援ができなかった。(キャリアコンサルタント・公認心理士)
・脳性麻痺のトランスジェンダー女性が、就労継続支援B型事業所内では性自認を尊重した服装で過ごすことができているが、療育手帳の性別欄が嫌で手帳を破ったり、性別について悩み作業が手につかないこともある。(キャリアコンサルタント)[c1] 
・病院のルールで、面会や手術同意が同性のパートナーでは認められず、辛い思いをさせてしまった。(看護師)
・性自認が分からない生徒(戸籍は女性)から「制服をパンツにしたい」と相談を受けた。学校側は制服変更の条件として病院の診断書を求めたが、性同一性障害とは異なる状況のため診断が下りず、学校の管理職は制服の変更を許可できないと言った。(教員)

2)福祉の三大国家資格保有者はLGBTQの支援について学んでいない
社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士の国家資格保有者のうち、LGBTQの支援について「養成課程で学んだ経験がある者」は12.3%、「勤務機関で学んだ経験がある者」は23.1%です。福祉の専門職を育成する養成課程の多くで、LGBTQの支援について知識を得る機会が提供されていない状況が明らかになりました。
支援者全体では、LGBTQの支援について「養成課程で学んだ経験がある者」は13.7%、「勤務機関で学んだ経験がある者」は34.8%であり、支援者全体と比較しても福祉の三大国家資格保有者がLGBTQの支援について学べていない状況が窺がえます。

3)支援現場では、支援者のLGBTQに関する不適切な言動がある
支援者の72.0%が、支援のなかで他の支援者の不適切な言動を見聞きしています。支援現場の多くがLGBTQの相談者/利用者にとって安心して利用できる場ではなく、利用に際して困難を経験する状況であると考えられます。上位項目として「LGBTQに関する知識や理解が不足していると感じられる言動があった(52.5%)」「男女欄や「さん・くん」分けなど、不要な男女分けをしていた(46.4%)」「LGBTQがいないことを前提に支援をしていた(43.4%)」などが挙げられました。LGBTQの相談者/利用者も存在する事実を知り、基本的な知識や意識を身に付けることで改善できる項目が上位となっています。
また、「望む性別での取り扱いをしていなかった(12.0%)」「セクシュアリティに関連し、ハラスメントや不当な扱いをしていた(8.0%)」「セクシュアリティを本人の同意なく第三者に勝手に広めていた(アウティング)(6.6%)」などのように、相談者/利用者の安全を脅かし、支援の利用継続を困難にするような言動も挙げられています。

<自由回答>
・医療スタッフが「あの人オネエっぽいよね」などと患者さんについて話題にしていた。(医者)
・ スカートを履くことを希望する入居者(戸籍上は男性)に、「気持ち悪いので、部屋の外では着てはいけない」と他の支援者が指示していた。(社会福祉士)
・教員同士が、「あの子はなよっとしてるから、こっち系だね」と、顔に手の甲をつけて暗喩し笑っていた。また、男はこうあるべき、女はこうあるべきといった考えを元に注意をする場面が良く見られた。(教員)
・就活支援で、本人の希望を十分に聞かず、「就活では自身のセクシュアリティを明かさないほうがいい」と伝えていた。(キャリアコンサルタント)
・性別に男女以外があるという想定が全くないようで、日頃から「おしとやかに」「女性なんだから足を閉じて」などの言動が目立った。(ケアマネージャー)

4)支援機関でLGBTQに関する取り組みが不足しており、特に福祉や医療等の分野における遅れが顕著である
勤務した支援機関で「LGBTQに関する支援方針やマニュアルを作成・周知」していた割合は、福祉関係機関で5.2%、医療関係機関で5.3%と、取り組みが不足しています。「職員向け研修を定期的に実施」していた割合や「LGBTQを笑いのネタにすることやアウティングがハラスメントであると周知」していた割合も、学校や行政関係機関と比較して、福祉や医療等関係機関の割合はいずれも低いことが分かりました。支援がなければ生存が危ぶまれる場合もある福祉や医療等の現場で、他の支援現場よりも取り組みが遅れている状況です。

5)LGBTQの支援について学ぶことや、LGBTQを含めさまざまな多様性への理解を示すことが、相談のしやすさに繋がる
LGBTQの支援について学んだ経験のある支援者は、学んだ経験のない支援者に比べて、LGBTQへの支援経験がある者の割合が34.0ポイント高く、支援者の不適切な言動に気づいた経験も26.5ポイント高いことが分かりました。LGBTQからの相談や不適切な言動が可視化されていない支援機関でも、LGBTQの支援について学んだ経験をもつ支援者が増えることで支援ニーズや問題が顕在化する可能性が示唆されます。

なお、相談者/利用者が支援者にセクシュアリティを伝えた理由は、支援者が「様々な人権テーマや多様性に理解があることを示していたから」が最も高く40.7%で、「アライ(LGBTQの理解者)であることを示していたから」が35.3%です。支援者が支援現場で日常的にLGBTQを含めさまざまな人権テーマや多様性への理解を示すことが、相談のしやすさに繋がると考えられます。

 

  • <アンケート調査『支援者のLGBTQ意識調査2023』全体考察:課題と今後に向けて>

1)LGBTQの相談者/利用者が、安全に支援を利用することが困難な現状です。
LGBTQへ支援経験がある支援者の多くが十分/適切に支援ができなかったと感じており、支援現場での不適切な言動が見聞きされています。LGBTQの相談者/利用者が安全に利用できる支援の場が少なく、利用に伴いセクシュアリティに関連した困難を経験しやすい状況であると考えられます。

2)支援機関全体でLGBTQに関する取り組みが不足しており、特に遅れが顕著である福祉や医療等の分野で取り組みを推進することが重要です。
あらゆる支援機関において不足しているLGBTQに関する取り組みを推進することが必要ですが、さまざまな困難に直面した人々のセーフティネットとなるべき福祉や医療等の現場で取り組みが遅れていることは深刻な課題です。LGBTQも安全に暮らせるように、福祉や医療等の支援現場でLGBTQに関する取り組みや連携体制の構築を推進することが急がれます。

3)現状の背景には、支援者がLGBTQの支援について学ぶ機会が少ないことが挙げられます。福祉の国家資格保有者の養成課程においても、LGBTQの支援に関して学ぶことが重要です。
LGBTQに関する取り組みが遅れている福祉分野において、その三大国家資格(社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士)保有者の多くが、LGBTQの支援について学ぶ経験がありません。福祉系の国家資格の養成課程でLGBTQの支援について学ぶ機会が提供されることが、LGBTQであっても適切な支援を受けられる環境づくりに繋がります。
なお、適切な支援には、担当の支援者ひとりの知識や意識だけではなく、周囲の支援者の理解や所属機関/協働機関の理解や意識も必要不可欠であることから、対人援助に係わるすべての人がLGBTQの支援について学べるよう、支援機関での勉強会や、行政が提供する支援者向けのスキルアップ講座等、さまざまな場面で定期的な学習機会の提供が望ましいと考えられます。
 

  • <アンケート調査『支援者のLGBTQ意識調査2023』概要>

​・目的:支援者のLGBTQなどのセクシュアル・マイノリティに関する意識や支援機関の現状を知り、行政やメディアなどに届けることで、社会の状況を改善することを目的としています。​
・期間:2023年1月15日(日)〜2月12日(日)​
・回答者数:547名(うち、有効回答491名)
​・助成:本調査は、公益財団法人ヤマト福祉財団の助成をいただき実施しています。
 

  • <冊子『LGBTQも安心して利用できる障害福祉サービスのためにできること〜就労系障害福祉サービス編〜』概要>

調査を受け、LGBTQも安心して利用できる福祉サービスが増えることを願い、特に就労系障害福祉サービスにおいて今日からできることをまとめた冊子『LGBTQも安心して利用できる障害福祉サービスのためにできること〜就労系障害福祉サービス編〜』を無料公開しました。
支援機関で取り組みを検討・実施し、また支援者がLGBTQへの支援を学ぶ機会として、ご活用をいただけましたら幸いです。
なお、本資料は「長期化する若者の「コロナ失職」包括支援」(2021年度:休眠預金を活用した新型コロナウイルス対応緊急支援助成事業)の助成を受け制作しています。
・資料申し込み:https://rebitlgbt.org/news/9754

  • <認定NPO法人ReBitとは>

LGBTQの子ども・若者特有の困難解消と、多様性を包摂する社会風土の醸成を通じ、LGBTQを含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会の実現を目指す、認定NPO法人(代表理事 藥師実芳、2014年3⽉認可)。
企業・行政・学校などで1600回以上、LGBTQやダイバーシティに関する研修を実施。また、マイノリティ性をもつ就活生/就労者等、約6000名超のキャリア支援を行う。
なお、日本初のLGBTQや多様性にフレンドリーな就労移行支援事業所(障害がある方たちの就活支援を行う福祉サービス)「ダイバーシティキャリアセンター」を2021年に東京都にて開所。

・公式HP:https://rebitlgbt.org/
・ダイバーシティキャリアセンターHP:https://diversitycareer.org
 

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