NITEと大成建設は、微生物を用いた地下水浄化技術の開発で令和3年度 土木学会環境賞を受賞

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 独立行政法人 製品評価技術基盤機構(以下、NITE(ナイト))[理事長:長谷川史彦、本所:東京都渋谷区]と大成建設株式会社[社長:相川善郎、本社:東京都新宿区]が共同実施した「デハロコッコイデス属細菌UCH007株を用いる塩素化エチレン類で汚染された地下水の浄化技術の開発」が、公益社団法人土木学会が主催する令和3年度土木学会環境賞を受賞し、6月10日に授与式が行われました。
 今回の受賞は、本技術が操業中の工場や狭小な都市部など汚染地下水の浄化が困難な土地への適用も可能であることから、今後の環境改善への貢献が期待される浄化技術として評価されました。

                                                  図1 令和3年度土木学会環境賞の賞状

 
 本開発技術は、環境汚染物質である塩素化エチレン類を含んだ地下水などを、浄化菌UCH007株を利用して効率的に浄化するものです。浄化菌UCH007株の大量培養法と地盤への菌液注入技術を新たに開発したことで、微生物を用いた従来の浄化法に比べ、約2か月の浄化期間の短縮と、約50%のコスト削減が可能となりました。

 今回の技術開発において、 NITEは、浄化菌UCH007株の分離と大量培養方法の開発を担当し、大成建設株式会社は、浄化菌の注入方法の開発や実汚染現場における実証試験を担当しました。

 NITEでは、浄化菌UCH007株の第三者への分譲を含め、微生物によるバイオレメディエーション技術の国内での普及に向けた体制の構築を進めています。また、大成建設株式会社では、現在、実用化に向けて本技術を用いた浄化試験を民間企業の工場内の実汚染現場で実施しています。

 

  • 開発の社会的背景

 トリクロロエチレンなどの塩素化エチレン類は洗浄剤として幅広い業種で使用されてきました。塩素化エチレン類は、浸透性や水溶性の高さから地下水への汚染が生じやすく、我が国における主要な汚染物質になっています(図2)。

 塩素化エチレン類で汚染された地下水を原位置で浄化する技術として、微生物の栄養となる有機物(浄化材)を注入し、地盤中に生息している浄化菌“デハロコッコイデス属細菌”を増殖させて浄化する方法(バイオスティミュレーション)が実施されています。この場合、地盤中の浄化菌の数が非常に少なく、増殖速度も遅いため、浄化期間は長期化することになります。一方、近年ではあらかじめ培養したデハロコッコイデス属細菌を地下水中に注入することで浄化期間を短縮する方法(バイオオーグメンテーション)が着目されています。しかし、デハロコッコイデス属細菌は空気に触れると死滅することから、厳密な管理下で菌液の大量培養、汚染現場への輸送、現地で汚染帯水層への注入に用いる専用装置・設備が必要となり、運用コストが高くなるという課題がありました。
 

  • 開発内容

  NITEでは、これまでに塩素化エチレン類を無毒なエチレンまで脱塩素化できるデハロコッコイデス属細菌UCH007株(図3)を国内で初めて分離し、大成建設と共に、UCH007株を使用した浄化方法の安全性について、国が定めた指針(微生物によるバイオレメディエーション利用指針)への適合性の確認を平成27年に終了しました。
 
 デハロコッコイデス属細菌は増殖速度が極めて遅く、また、酸素がある状態では生育できないことから、大量培養を行う際には厳密に培養条件が管理された培養装置(大型ファーメンター)を用いる必要があるなど、その培養や取り扱いには困難が伴っていました。
 上記の課題を克服するため、NITEでは、UCH007株の増殖活性を高める有機物(ピルビン酸)を添加し、別の嫌気性細菌(スルフロスピリラム属細菌UCH001株)をUCH007株と共に培養することによって、UCH007株を短時間に培養できることを新たに発見しました。さらに、可搬性が高く繰り返し使用できる市販容器(20L容の市販のビア樽)を用いたUCH007株の大量培養方法の開発にも成功し、大型の培養装置を用いることなくUCH007株を安価かつ簡単に培養し、菌液を浄化現場まで簡便に輸送することが可能となりました。
 
 一方で、浄化現場に運んだUCH007株が注入前に空気(酸素)に触れることによって期待する浄化効果が得られなくなる可能性がありました。そこで、大成建設は、小型重機を用いた注入管の迅速な設置と触媒を使用して酸素を除去するPSA(pressure swing adsorption)方式の窒素発生装置を組み合わせることで、菌液を培養容器から汚染地盤中へ浄化効果を維持した状態で迅速かつ安定的に注入する方法を開発しました(図4)。
 
 これら一連の開発した技術を用いて、大成建設は塩素化エチレン類で汚染された地盤にUCH007株の菌液を注入する浄化実証試験を行いました。その結果、菌液の注入直後から塩素化エチレン類は急速に減少し、従来の浄化材のみを用いる浄化技術(バイオスティミュレーション)と比べて浄化期間を約2ヶ月間短縮し、コストを約50%削減できることを実証しました(図5)。
 
 なお、本研究開発の一部は、経済産業省受託事業(平成22 年度~平成26 年度)土壌汚染対策のための技術開発 VOCの微生物等を利用した環境汚染物質浄化技術開発「次世代型バイオレメディエーション普及のためのセーフバイオシステムの研究開発」及び環境省受託事業(平成30 年度~令和元年度)低コスト・低負荷型土壌汚染調査対策技術検討調査「デハロコッコイデス属細菌UCH007 株を用いるバイオオーグメンテ-ション技術」による支援を受けて行ったものです。
 

                                 図2 我が国における塩素化エチレン類による地下水汚染の状況
 

                                図3 デハロコッコイデス属細菌(デハロ菌)UCH007株の特徴
 

                           図4  浄化菌UCH007株を使用した塩素化エチレン類汚染地下水の浄化手順
 

                       図5 従来法との塩素化エチレン類の浄化率(%)の比較(実証試験における結果)

 

  • 受賞理由(選考委員会授賞理由書より抜粋)

 本開発技術は、より短期間かつ低コストで地下水中の塩素化エチレン類を浄化可能な優れたバイオレメディエーション技術であり、その安全性から行政や住民の信頼、同意を得やすいという特徴から環境改善への貢献が期待される。加えて査読付き論文や特許出願など実績も充実しており、本技術の高い信頼性が認められる。従って本研究は土木学会環境賞※1の授賞に相応しいものと判断された。

※1 土木学会環境賞は、環境の保全・改善・創造に資する新技術開発・概念形成・理論構築等に貢献した先進的な土木工学的研究に贈られる賞です(公益社団法人土木学会HPより)。
 

  • 今後の展開

 浄化菌UCH007株はNITEバイオテクノロジーセンター(NBRC)において管理されています。本菌株の第三者への分譲を含め、微生物によるバイオレメディエーション技術の国内での普及に向けた体制の構築を進めています。
 また、大成建設では、現在、実用化に向けて本技術を用いた浄化試験を民間企業の工場内の実汚染現場で実施しています。
 

  • 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)

 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)は、9万株の微生物を中心とした生物資源及びそれらにかかわるデータの提供を行っています。

 国内外の多様な微生物を収集・保存するとともに、有用微生物の活用技術や安全・取り扱い情報等を広く社会に提供することで、バイオ産業の発展に貢献しています。
 

 『秘密結社 鷹の爪』とのコラボレーションにより、NBRCの業務を紹介する動画を作成しました。
是非、ご覧下さい。
 

 

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