「東京23区初」!耐震性不足の分譲マンションの敷地を管理組合の決議によりオフィスビル用地として売却!用途変更を前提とした耐震性不足マンションの再生事例

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借地権や底地、再建築不可物件など、権利調整や難易度の高い交渉を要する不動産を積極的に買取り、不動産の再生・開発事業を手掛ける株式会社マーキュリー(本社:東京都港区、代表取締役:宮地博明、以下「当社」)は、「高輪交陽ハイツ」(東京都港区高輪二丁目)において、2014年に改正されたマンション建替え円滑化法により新たに創設された「敷地売却制度」※1を活用し、管理組合による「敷地売却決議」を成立させ、2022年7月に買受人である野村不動産株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:松尾大作、以下「野村不動産」)に当該マンションの敷地を売却いたしました。港区内における敷地売却制度の活用は3例目で、分譲マンションの敷地をオフィスビル用地として用途変更する目的でマンション敷地売却制度を利用する事業は、東京23区内初の事業です。

※1「敷地売却制度」とは、耐震性不足等により要除却認定を受けた分譲マンションを建て替えるため、区分所有者による集会決議によって、マンションの「建物と敷地」を事業者(ディベロッパー)に売却する制度。

INDEX
(1)事業の背景
(2)事業の経緯
(3)高経年マンションの社会的課題
(4)敷地売却制度の特徴
(5)今後のマンション再生事業への取り組み

 
(1)事業の背景

「高輪交陽ハイツ」は1980年に建てられた総戸数106戸12階建のマンションで、いわゆる旧耐震基準の建物でした。第一京浜(国道15号線)に面した特定緊急輸送道路沿道建築物であったため、2013年に耐震改修促進法に基づく耐震診断を行った結果、耐震性不足の建物であることが判明しました。また、2014年6月にJR東日本より山手線新駅(現在の高輪ゲートウェイ駅)の開業及び周辺のまちづくりについての報道発表があり、当時、将来変わりゆく周辺環境について、大きな期待を寄せられていました。

建物概要

名称 高輪交陽ハイツ                                                     
所在地 東京都港区高輪二丁目19番17号
敷地面積 約826.90㎡
延べ床面積 約5378.17㎡
建築年次 1980年
建物構造・規模 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根12階建
用途 事務所 共同住宅

(2)事業の経緯

2015年1月に当社が高輪交陽ハイツの総戸数106戸中27戸を取得し、管理組合の理事となって、法改正されたばかりの「敷地売却制度」について、理事会・管理組合に対し丁寧に説明を行うことから開始した。その後、当社は管理組合の信任を受けて管理組合の理事長を務め、港区の助成制度や国土交通省作成の敷地売却事業ガイドラインを活用しながら、マンション再生を検討することの必要性・進め方・事業手法について、管理組合全体に対してマンション再生への理解を深めた。

2019年6月に建替え・敷地売却事業について、各ディベロッパーに対し事業協力を募り、コンペティションの結果、管理組合として事業協力者(買受人)を野村不動産に選定した。建替え事業によりマンションに建替えた場合と、敷地売却事業によりマンション・複合マンション及びオフィスビルに建替えた場合の区分所有者の経済条件を比較した結果、敷地売却事業によって区分所有者が全員転居し(再入居なし)、1棟のオフィスビルを建築する事業が最も区分所有者にとって経済条件が良く、2019年12月に管理組合として1棟オフィスビルを建築する目的で敷地売却事業を推進することとなった。

1棟オフィスビルを建築する用地としての敷地売却事業について、管理組合による全体説明会及び個別説明を経て敷地売却決議集会を行い、法定決議要件をすべて満たし可決に至った。その後、『高輪交陽ハイツマンション敷地売却組合』を港区の認可を受けて設立し、港区との協議・打ち合わせを重ねて、2022年7月に野村不動産へ当該マンションの敷地を売却した。今後は、買受人である野村不動産が既存建物の解体工事を行い、自社ブランドの1棟オフィスビル(PMO:プレミアム・ミッドサイズ・オフィス)を建築することとなる。

 
高輪交陽ハイツ敷地売却事業の経緯

2013年11月 耐震診断を実施、耐震不足であることが判明
2015年1月  当社が高輪交陽ハイツ(27戸)を取得、理事に就任
2016年7月  建物検討委員会発足
2018年10月 再生方針決議(建替えもしくは敷地売却)
2019年6月  事業協力者コンペティション
2019年8月  野村不動産と事業協力協定締結
2019年12月 敷地売却推進決議
2020年12月 マンション敷地売却決議
2021年4月  高輪交陽ハイツマンション敷地売却組合設立
2021年12月 権利消滅期日2022年7月  野村不動産へマンションの敷地を売却

(3)高経年マンションの社会的課題
現在のマンションストック総数は約685.9万戸で、そのうち、旧耐震基準のマンションは約103万戸(2021年末時点 国土交通省統計)と全体の約15%にあたる。また、築後40、50年以上(1982年以前築)の分譲マンション戸数は約115.6万戸であり、10年後には築後40、50年以上の分譲マンションが約2.2倍の249.1万戸、20年後には約3.7倍の425.4万戸に達すると見込まれている(2022年4月1日時点 国土交通省統計)。これから高経年マンションが増え続けることから、今まで以上に分譲マンションの再生について、検討を推進する必要がある。これまで日本全国で「区分所有法」及び「マンション建替え円滑化法」に基づく建替えを完了した件数はわずか270件(2022年4月1日時点 国土交通省統計)のみである。

分譲マンションストック戸数(2021年末現在/2022年6月28日更新)分譲マンションストック戸数(2021年末現在/2022年6月28日更新)

 

国土交通省参照:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001488548.pdf

 

築後30、40、50年以上の分譲マンション数(2021年末現在/2022年6月28日更新)築後30、40、50年以上の分譲マンション数(2021年末現在/2022年6月28日更新)

国土交通省参照:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001488549.pdf

マンション建替えの実施状況(2022年4月1日時点/2022年6月28日更新)マンション建替えの実施状況(2022年4月1日時点/2022年6月28日更新)

国土交通省参照:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001488550.pdf

(4)敷地売却制度の特徴
「マンション建替え円滑化法」は2002年に分譲マンションの建替えを促進することを目的として施行された法律で、本法律施行までは、区分所有法に基づく建替えが主であった。このマンション建替え円滑化法が2014年に法改正され、管理組合の決議により、分譲マンションの敷地をディベロッパーに売却する「敷地売却制度」が創設された。今まで、マンションの敷地を売却するには、民法上の“共有”の原則に則り、所有者全員の同意が必要であった。この法改正により、マンションの管理組合の決議によって、マンションの敷地を売却することができるようになったことは、分譲マンションの再生手法において、大きな転換点となった。

建替えと敷地売却の大きな違いは、
①組合の事業期間
②借家権の消滅
③再建建物の用途に制限がないこと。
の3点が挙げられる。建替えと敷地売却は、管理組合とは別に、事業組合(建替えの場合は建替え組合、敷地売却の場合は敷地売却組合)を組成することとなる。建替え組合は建替えが終わるまでが事業期間となり、建物解体・建築期間を考慮すると相当な年数の事業期間を要する。一方、敷地売却組合は、マンションの敷地をディベロッパーに売却するまでが事業期間であり、建物解体・建築は、買受人となるディベロッパーが行うため、事業組合の事業期間は敷地売却事業の方が短い。

借家人がいる場合、建替え事業においては、従前の建物(建替え前のマンション)に存する一切の権利を、従後の建物(建替え後のマンション)に権利を移す“権利変換”手続きに基づき、借家人の権利(賃借権)も引き継がれることとなる。一般的には、“権利変換”をむかえる前に、借家人に退去(賃貸借契約の解除)交渉を行い、従前の建物に借家人の権利がない状態にしてから、“権利変換”をむかえることとなる。一方、敷地売却事業においては、売却組合所有の1棟建物とするために、従前の建物に存する一切の権利を消滅させる“権利消滅”をむかえる。この“権利消滅”には、借家人の賃借権も含まれるため、事業制度上において、借家権が消滅することとなる。

再建する建物の用途についても、敷地売却事業においては制限がない。建替え事業の場合、原則、区分所有者による事業組合がマンションを建て替える事業だが、敷地売却事業は、区分所有者による事業組合がマンションの建物と敷地をディベロッパーに売却する事業である。マンションの敷地を買い受けるディベロッパーは、既存マンションの除却(解体)までを義務付けられ、再建する建物の用途については法的に制限を受けない。もちろん、管理組合・事業組合の合意形成上、再建する建物に再入居を希望する者が多ければ、再建する建物はマンションになり、マンションと商業施設・事務所等との複合建物もあり得る。不動産の価格は、土地の最有効利用用途の検証によるもので、その検証結果によっては、マンション以外の建物を建築することが、不動産としての価値を最も高められる手段であることも十分に考えられる。
 

(5)今後のマンション再生事業への取り組み
耐震不足マンションや老朽化マンションの再生手法について、修繕改修や従来の建替えだけではなく、敷地売却制度を活用することにより、マンションの区分所有者にとって大きく選択肢が広がることとなる。当社は、マンションをマンションに建替えるだけではなく、立地や周辺環境、経済条件や区分所有者・管理組合の意向などを踏まえ、建物の用途変更も視野に入れた大胆なマンション再生を検討・推進いたします。今後も、社会問題となっている高経年マンションの問題解決の一端を担えるようにマンション再生事業に取り組んでまいります。

 
【会社概要】

会社名  :株式会社マーキュリー
代表取締役:宮地博明
所在地  :東京都港区新橋6-22-4 MERCURY SHINBASHI
設立   :2004年12月
事業内容 :不動産買取事業
権利調整が必要な不動産を主に取り扱い、不動産開発・再生・管理事業を手掛ける
URL   :https://www.c21mercury.jp/

 

 

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