会話型 認知症診断支援AIプログラムの開発

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 高齢化がより一層進む日本では認知症の人の数が増え続けており、認知症への対策は日本の重要な社会的課題の一つです。認知症の診断は、通常、病歴の問診に加え、画像検査、記憶や計算力などを測る複数の認知機能検査によって行われます。しかし、これらの検査は専門性が高く、検査を行う医療従事者が訓練を受ける必要がある、時間がかかる、などといった問題がありました。

 慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療ウェルネス共同研究講座の岸本泰士郎特任教授らと株式会社FRONTEOは、自然言語処理(NLP)を用いた「会話型 認知症診断支援AIプログラム」を開発しました。これは、高齢者と医療者の間で行う自由会話文を基に認知症の可能性をAIが検知するものです。

 本研究では特定の課題を用いない自由会話から、認知症への罹患を精度0.90(注1)で判定することに成功しました。本プログラムは、簡便に行うことができ、医療従事者・患者双方の負担を軽減できます。また、従来の認知機能検査の課題であった、繰り返し行うことで被験者が検査内容を覚えてしまい検査の精度が低下する「学習効果」を避けることが可能な技術として、スクリーニング検査などへの実用化が期待されます。
 
本研究成果は、2022年8月3日(英国時間)にScientific Reports誌に掲載されました。

 

1.研究の背景と概要

 高齢化が進む日本では認知症の人の数が増加し続けており、2025年には730万人(高齢者の約5人に1人)に達すると推計されています*。認知症への対策は日本の重要な社会的課題の一つです。認知症の診断は、通常、病歴の問診に加え、画像検査、記憶や計算力などを測る複数の認知機能検査によって行われます。しかし、これらの検査は専門性が高く、検査を行う医療従事者が訓練を受ける必要がある、時間がかかる、などといった問題がありました。
 認知症は記憶力や注意力など、さまざまな機能に影響を与えますが、言語機にも影響が出ることが知られています。そこで我々は自由会話を録音し、自然言語処理(NLP)の技術を使って認知症の可能性を判定する研究を行いました。135人の協力者の方から合計432回分の会話を書き起こし、形態素と品詞への分解、ベクトル変換、機械学習を行いました。その結果、認知症への罹患を精度0.90、感度0.88、特異度0.92で判定することに成功しました。この精度は3-5分程度の発話から得られる語彙数で実現が可能でした。

*厚生労働省:認知症施策の総合的な推進について, https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000519620.pdf

2.研究の成果と意義・今後の展開
 本研究成果は高齢者と医療者の間で行う自由会話文を基に認知症を検知するもので、記憶や計算等の検査を行わなくても、認知症の識別が可能です。検査を繰り返し行うことで被験者が検査内容を覚えてしまい検査の精度が低下する「学習効果」を避けることが可能な技術として、スクリーニング検査などへの実用化が期待されます。
 本研究の成果に基づき、FRONTEOは2021年4月~2022年3月、慶應義塾大学 医学部 精神・神経科学教室の三村 將 教授を治験調整医師として、「会話型 認知症診断支援AIプログラム」のAI医療機器としての実用化に向けた臨床試験を行いました。現在、同臨床試験の結果を踏まえ、薬事承認へのプロセスを進めています。

3.特記事項
 本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業 ICTを活用した診療支援技術研究開発プロジェクト「表情・音声・日常生活活動の定量化から精神症状の客観的評価をリアルタイムで届けるデバイスの開発」の支援によって行われました。

4.論文
英文タイトル:Identifying neurocognitive disorder using vector representation of free 
conversation
タイトル和訳:自由会話のベクトル表現による認知症の判定
著者名:堀込俊郎、日野公洋、豊柴博義、進藤軌久、船木桂、江口洋子、北沢桃子、藤田卓仙、三村將、岸本泰士郎
雑誌名:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-022-16204-4
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-022-16204-4

【用語解説】
(注1)精度とは疾患の有無を正しく認識できた割合を指します。ここでは被検者全体のうち認知症の人、あるいは健常高齢者を正しく認識できた割合を指しています。完全に正答した場合は1.00になります。また感度は認知症の人全体のうちどのくらいの割合を正しく認知症と認識できたか、特異度は健常高齢者全体のうちどのくらいの割合を正しく健常高齢者と認識できたかを指します。

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